旧高橋家住宅:東北地方を代表する豪奢な近代和風建築

岩手県奥州市水沢の旧武家町に佇む旧高橋家住宅は、明治期の東北地方における最も豪華な近代和風住宅の一つとして、平成23年(2011年)に国の重要文化財に指定されました。唐破風造りの式台玄関を構える豪壮な外観、中国趣味を基調とした華麗な室内意匠、そして蔵座敷や土蔵など複数の建造物が良好に保存された屋敷構えは、明治期の素封家の暮らしぶりを今に伝える貴重な文化遺産です。

高橋家の歴史

高橋家は、水沢伊達城下南口の袋町東端、七軒丁に配置された御不断組に属していた家柄です。7代目の喜惣太が士分に取り立てられたことを機に、東大畑小路(現在の大畑小路)へ屋敷替えとなり、この地に居を構えるようになりました。

明治維新後、高橋家は水沢銀行の設立をはじめとする事業を手がけて隆盛を極め、当主は水沢町長や衆議院議員を歴任するなど、地域の名士として大きな影響力を持つようになりました。現在残る建造物群は、そうした高橋家の繁栄を物語る貴重な歴史的証言です。

重要文化財に指定された理由

旧高橋家住宅は、平成23年(2011年)6月20日付で国の重要文化財に指定されました。その指定理由として、以下のような優れた価値が認められています。

第一に、主屋は近代らしい自由で創意に富んだ意匠を持つ大型住宅建築であり、明治期の東北地方における豪奢な近代和風住宅の一つとして極めて貴重な存在です。江戸時代から続く武家住宅の平面構成を踏襲しながらも、中国趣味を基調とした高価な材料と障壁画による優れた室内意匠を備えており、当時の文化的洗練を示しています。

第二に、この住宅は東北地方へ煎茶席の影響が及んだことを示す重要な建築遺産でもあります。文人茶の趣向を取り入れた小座敷は、京都や江戸を中心に流行した煎茶文化が北東北にまで伝播していたことを物語っています。

第三に、表門や蔵座敷をはじめとする付属建物も良好に保存されており、明治期の素封家の屋敷構えを総体として伝えていることが高く評価されています。

指定建造物7棟の詳細

主屋(しゅおく)

明治21年(1888年)上棟。大工棟梁は丹野源六が務めました。建築面積199.80平方メートル、入母屋造、妻入、東面に唐破風造の玄関を構え、南面に庇を付し、鉄板葺の屋根を持ちます。

平面は、正面側に南より七畳半、龍の間、納戸の三室を並べ、七畳半の南側に小座敷を突出させています。西側に式台玄関を構え、その奥に客間と鶴の間、最奥に地図の間・五畳・梅の間・雁の間・勝手を配し、雁の間の東側に台所を張り出す構成です。

表座敷である龍の間は特に趣向を凝らしており、床・棚・付書院を備え、黒檀の床框をはじめ随所に唐木を用いています。天井は支輪状に折上げた鏡天井として雲龍図を描き、壁は鮑の貝片を混ぜた砂壁で仕上げ、襖には楼閣山水図を描いています。これらの障壁画は地元絵師の菅原竹侶の作です。

その他、鶴の間は床・棚・付書院を備え、黒塗格縁の格天井を張っています。地図の間は襖に世界地図や日本地図を描き、梅の間は板戸に老梅を、雁の間は板戸に蘆雁を描くなど、各室にそれぞれ特色ある意匠が施されています。

蔵座敷(くらざしき)

明治34年(1901年)頃の建築と考えられています。桁行8.4メートル、梁間4.8メートル、土蔵造2階建、切妻造、桟瓦葺で、建築面積は55.96平方メートルです。東面には主屋との間を結ぶ渡廊下が附属します。

下階は12畳の主室の東側を縁とし、主室は南面に床と床脇を備え、天袋を設けています。上階も12畳間で、南面を物入とし、東面に窓を穿っています。

土蔵(どぞう)

明治19年(1886年)上棟。桁行7.1メートル、梁間3.8メートル、土蔵造2階建、切妻造、正面庇付、鉄板葺です。庇は虹梁を架けた円柱に皿斗付大斗の三斗を組み、円弧状の破風を付けています。扉上部には橘模様の鏝絵を飾るなど、蔵でありながら意匠を凝らした造りになっています。

東板倉(ひがしいたくら)

柱墨書により明治16年(1883年)の建築と判明しています。桁行7.7メートル、梁間4.8メートル、切妻造で、半間毎に柱を立てて北面に出入口を設けます。壁は横板張とし、西板倉と一連の鉄板葺屋根をかけています。

西板倉(にしいたくら)

棟札により大正13年(1924年)の建築と判明しています。桁行6.4メートル、梁間4.6メートル、切妻造で、軸部構成は東板倉と同様です。

金庫蔵(きんこぐら)

大正期頃の建築とみられます。桁行2.7メートル、梁間1.8メートル、石造、寄棟造、鉄板葺という特異な構造を持ちます。壁の上下で石積を現すほかは漆喰塗とし、軒裏は円弧状の凹曲面に仕上げています。西面の出入口に土戸を吊り、円弧状破風の庇を差し出しています。

表門(おもてもん)

明治後期頃の建築とみられます。一間薬医門、切妻造、鉄板葺で、親柱に冠木を渡し、木鼻付の腕木で二軒繁垂木の軒を支持しています。南北にのばす土塀は、腰を下見板張として上部を漆喰で仕上げています。

龍の間内観。雲龍図を描いた折上げ鏡天井と精緻な座敷飾り

建築的見どころと文化的価値

旧高橋家住宅は、複数の文化的影響が見事に融合した建築です。伝統的な武家住宅の空間構成を維持しながら、中国的な美意識を装飾プログラムに取り入れており、明治期のエリート層が日本の伝統と大陸の影響の両方を受容していた文化的洗練を反映しています。

特に注目すべきは、煎茶文化が建築に与えた影響です。円窓を背にした違棚を持つ小座敷は、文人趣味の茶の湯の雰囲気を漂わせており、京都や江戸で流行した煎茶席の様式が東北地方にまで伝播していたことを示す重要な証拠となっています。

また、住宅全体に描かれた障壁画は、地元絵師・菅原竹侶の作品であり、龍・鶴・山水・文学的主題などの場面を巧みな筆遣いで表現しています。これらの絵画要素は、貝片入りの砂壁や精緻な木工技術と相まって、卓越した美しさを持つ内装空間を創出しています。

見学情報

旧高橋家住宅は非公開建造物であり、通常は一般公開されていません。ただし、奥州市武家住宅資料館への事前予約により、外観の見学が可能な場合があります。資料館では、旧高橋家住宅のほか高野長英旧宅(国史跡)も管理しており、水沢の武家文化に関心のある方への案内サービスを提供しています。

この地域を訪れる際には、奥州市武家住宅資料館を拠点とすることをお勧めします。資料館は旧内田家住宅(奥州市有形文化財)を活用した施設で、地域の歴史や城下町文化に関する展示を行っています。向かいには後藤新平旧宅(岩手県有形文化財)も公開されています。

周辺観光情報

水沢地域は、日本の歴史と建築に関心のある方にとって多くの文化的見どころを提供しています。このエリアは江戸時代の城下町としての特徴を色濃く残しており、伝統的な住居や庭園に囲まれた狭い路地が続いています。

特に有名なのは日高神社で、毎年4月に開催される日高火防祭では、豪華な囃子屋台が町中を練り歩き、岩手県無形民俗文化財に指定された日高囃が披露されます。この祭りの期間中は、普段非公開の武家住宅が特別公開されることもあります。

また、周辺には正法寺(曹洞宗第三の本山として知られ、巨大な茅葺屋根の法堂が圧巻)、黒石寺(古式蘇民祭で有名)、駒形神社(陸中一宮)などの重要な寺社仏閣があります。奥州宇宙遊学館では、旧緯度観測所の歴史を踏まえた宇宙科学の展示を楽しむことができます。

南へ約15キロには、世界遺産「平泉」があり、中尊寺金色堂をはじめとする平安時代の仏教文化の粋を体験することができます。

Q&A

Q旧高橋家住宅は見学できますか?
A旧高橋家住宅は非公開建造物のため、通常は内部見学ができません。ただし、奥州市武家住宅資料館(電話:0197-22-5642)への事前予約により、外観の見学が可能な場合があります。特別公開の機会については、資料館にお問い合わせください。
Q東京からのアクセス方法を教えてください。
A東京駅から東北新幹線で水沢江刺駅まで約2時間20分です。水沢江刺駅からは、バス(水沢駅通りまで約15分、その後徒歩約10分)またはタクシー(約10分)で武家屋敷街へアクセスできます。また、JR東北本線水沢駅からは徒歩約15分で大畑小路エリアに到着します。
Q旧高橋家住宅の建築的な特徴は何ですか?
A旧高橋家住宅は、東北地方における明治期の最も豪奢な近代和風住宅の一つです。その特徴として、江戸時代の武家住宅の平面構成を踏襲しながら中国趣味の装飾要素を取り入れていること、黒檀などの唐木や鮑の貝片を混ぜた砂壁といった高価な材料を多用していること、そして煎茶文化の影響を示す意匠が見られることが挙げられます。7棟の建造物が一体として良好に保存されている点も稀有な価値を持っています。
Q水沢で他に見学できる武家住宅はありますか?
A奥州市武家住宅資料館(旧内田家住宅、奥州市有形文化財)は年間を通じて無料で公開されています。向かいには後藤新平旧宅(岩手県有形文化財)も見学可能です。また、毎年4月28日・29日に開催される日高火防祭の期間中には、普段非公開の武家住宅が特別公開されることがあります。
Q水沢を訪れるのに最適な時期はいつですか?
A4月下旬は、水沢公園の桜と日高火防祭(4月28日・29日)という二つの魅力を同時に楽しめる絶好の時期です。秋は紅葉が美しく、歴史的な街並み散策に最適な気候です。冬には黒石寺の古式蘇民祭(旧暦正月の夜)を体験することもできます。

基本情報

名称 旧高橋家住宅(きゅうたかはしけじゅうたく)
指定 国指定重要文化財(平成23年6月20日指定)
建築年代 主屋:明治21年(1888年)、蔵座敷:明治34年頃、土蔵:明治19年(1886年)、東板倉:明治16年(1883年)、西板倉:大正13年(1924年)、金庫蔵:大正期、表門:明治後期
建築様式 近代和風住宅建築(中国趣味の装飾要素を含む)
主屋構造 木造、建築面積199.80平方メートル、入母屋造、妻入、東面玄関唐破風造、南面庇付、鉄板葺
指定建造物 7棟(主屋、蔵座敷、土蔵、東板倉、西板倉、金庫蔵、表門)
附指定 土塀2棟、塀重門及び塀1棟、普請関係文書2冊、家相図1枚
所有者 奥州市
所在地 〒023-0054 岩手県奥州市水沢区字大畑小路6番地
交通アクセス JR東北本線水沢駅より徒歩約15分、東北自動車道水沢ICより車で約10分、東北新幹線水沢江刺駅より車で約15分
見学 非公開建造物(外観見学は武家住宅資料館への事前予約により可能な場合あり)
問い合わせ先 奥州市武家住宅資料館
〒023-0054 岩手県奥州市水沢字吉小路43
電話:0197-22-5642

参考文献

旧高橋家住宅(国重文)|奥州市公式ホームページ
https://www.city.oshu.iwate.jp/samurai/bukejutaku/1723.html
旧高橋家住宅 主屋 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/161424
旧高橋家住宅 蔵座敷 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/195155
旧高橋家住宅 表門 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/233280
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004499
奥州市武家住宅資料館
https://www.city.oshu.iwate.jp/samurai/index.html
『水沢らしい町並景観をめざして-水沢の武家住宅-』水沢市教育委員会(1990年)
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『岩手県の近代和風建築』岩手県教育委員会(2007年)
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最終更新日: 2026.01.26

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