東洋と西洋が出会う場所 ― 旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所の魅力

鹿児島市の名勝・仙巌園に隣接して佇む旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所は、明治時代の産業建築を今に伝える貴重な登録有形文化財です。現在はスターバックスコーヒーとして営業するこの建物では、桜島を望む絶景とともに、薩摩の誇り高い歴史に触れることができます。

洋風の外観に和風の屋根を載せた独特の意匠は、西洋文化を積極的に取り入れながらも日本の伝統を守り続けた明治時代の精神を体現しています。ここでは、コーヒーを片手に歴史の息吹を感じる、他では味わえない特別な体験が待っています。

金山の歴史を刻む建造物

この建物は、明治37年(1904年)に鹿児島県北西部の串木野村(現在のいちき串木野市)にある芹ヶ野金山の事務所として建設されました。芹ヶ野金山は、薩摩藩の財政を支えた三大金山(山ヶ野金山・鹿篭金山・芹ヶ野金山)のひとつとして知られています。

芹ヶ野での金の発見は承応元年(1652年)に遡ります。八木越後守正信によって金脈が発見され、万治3年(1660年)には島津綱貴の指示のもと本格的な採掘が開始されました。最盛期には7,000人を超える鉱夫が働き、藩の重要な財源となっていました。これらの金山から産出された貴重な金は、幕末に活躍した維新の志士たちの軍資金にもなったと伝えられています。

この事務所建物は、大正12年(1923年)に城西町へ移築された後、昭和61年(1986年)に現在の仙巌園隣接地へ再移築されました。幾度の移転を経てもなお、明治の面影を今に伝え続けています。

登録有形文化財に選ばれた理由

旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所は、平成11年(1999年)8月23日に「造形の規範となっているもの」として登録有形文化財に登録されました。この評価は、建物が持つ建築的価値の高さを示しています。

建物の最大の特徴は、和洋折衷の独特な様式にあります。2階建ての本屋は寄棟造、正面右手の玄関部分には片入母屋屋根が採用され、さらに張出し部にはムクリ(丸みを帯びた曲線)屋根という、日本建築の伝統的な技法が用いられています。一方、外壁は下見板貼りという洋風の仕上げが施され、2階正面には連続するアーチで構成されたベランダが設けられています。

この東洋と西洋の建築様式を見事に融合させた意匠は、明治という激動の時代を象徴するものです。西洋の技術や文化を積極的に取り入れながらも、日本独自のアイデンティティを保とうとした当時の人々の姿勢が、この建物には刻まれています。

見どころ・楽しみ方

旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所を訪れる方には、ぜひ注目していただきたいポイントがいくつかあります。

まず、建物の外観をゆっくりとご覧ください。屋根に掲げられた「丸に十字」の島津家家紋は、この建物が薩摩藩主・島津家ゆかりの施設であることを今に伝えています。2階のアーチ状ベランダは、リズミカルな美しさを生み出し、写真映えするスポットとしても人気です。

館内に入ると、串木野にあった頃の旧芹ヶ野金山鉱業事業所を写したモノクロ写真が展示されています。金山で働く人々の姿や当時の様子が偲ばれ、タイムスリップしたような気持ちになれます。内装には薩摩切子のカッティングをモチーフにしたデザインが取り入れられており、鹿児島の伝統工芸への敬意が感じられます。

2階の窓からは、錦江湾と桜島の壮大な景色を一望できます。350年以上にわたって人々を魅了してきた借景を眺めながらのひとときは、他では得られない贅沢な体験です。天気の良い日には、桜島から立ち上る噴煙を眺めながら、コーヒーを楽しむことができます。

周辺情報

旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所は、鹿児島を代表する観光エリア・磯地区に位置しており、周辺には見どころが豊富です。

すぐ隣にある仙巌園は、万治元年(1658年)に島津家19代当主・光久によって築かれた大名庭園で、平成27年(2015年)に「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録されました。桜島を築山に、錦江湾を池に見立てた雄大な借景庭園は、約1万5千坪の広さを誇り、四季折々の美しさを見せてくれます。御殿の見学では、お殿様の暮らしぶりを垣間見ることができます。

尚古集成館は、現存する日本最古の洋式工場建築物で、島津斉彬が推進した集成館事業の歴史を学ぶことができる博物館です。隣接する反射炉跡は、大砲製造のための鉄を溶かす炉の遺構で、日本の近代化を物語る貴重な史跡です。

薩摩切子工場では、熟練の職人による伝統工芸の製作工程を見学できます。鮮やかな色彩と繊細なカッティングが特徴の薩摩切子は、お土産としても人気があります。

Q&A

Qカフェで注文しなくても建物を見学できますか?
A現在はスターバックスとして営業しているため、内部をじっくり見学するには飲み物などをご注文いただくことをお勧めします。ただし、建物の外観や1階入口付近の歴史写真は、簡単に見ることが可能です。2階からの桜島の眺望を楽しむには、ぜひお席でゆっくりとお過ごしください。
Q仙巌園に入場しないと建物を見ることはできませんか?
Aいいえ、旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所(スターバックス鹿児島仙巌園店)は、仙巌園の有料エリアの外に位置しています。仙巌園への入場券を購入しなくても、カフェを訪れることが可能です。
Q写真撮影に適した時間帯はいつですか?
A建物外観の撮影には、午前中の柔らかな光がお勧めです。また、夕方には桜島のシルエットが美しく、特に夕焼け時には印象的な写真を撮影できます。営業開始時刻の8時頃は比較的空いており、じっくりと撮影を楽しめます。
Q芹ヶ野金山の跡地を訪れることはできますか?
Aはい、可能です。いちき串木野市にある芹ヶ野金山の跡地は、現在「薩摩金山蔵」として焼酎の貯蔵・製造施設になっています。総延長120kmにも及ぶ坑道の一部を見学でき、金山の歴史と焼酎づくりの両方を体験できます。
Q車椅子やベビーカーでの訪問は可能ですか?
A1階部分は比較的バリアフリーになっていますが、歴史的建造物のため2階へのエレベーターはありません。詳しい状況については、事前に店舗へお問い合わせいただくことをお勧めします。

基本情報

名称 旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所(スターバックス コーヒー 鹿児島仙巌園店)
読み方 きゅうしまづけせりがのきんざんこうぎょうじぎょうしょ
文化財指定 登録有形文化財(建造物)登録番号 46-0005
登録年月日 平成11年(1999年)8月23日
建設年 明治37年(1904年)
移築履歴 大正12年(1923年)城西町へ移築、昭和61年(1986年)現在地へ移築
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積158㎡
所有者 株式会社島津興業
所在地 〒892-0871 鹿児島県鹿児島市吉野町9688-1
現在の用途 スターバックス コーヒー(2017年3月29日オープン)
営業時間 8:00〜21:00
座席数 79席(店内65席、テラス14席)
アクセス JR鹿児島中央駅から車で約20分、またはカゴシマシティビューバス「仙巌園前」下車すぐ
駐車場 仙巌園駐車場を利用(有料:500円)

参考文献

旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所 - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/138591
旧島津家芹ヶ野金山鉱業事業所 - かごしま文化財事典
https://k-bunkazai-school.com/cultural/f-q-60004/
国指定文化財等データベース - 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001321
スターバックス コーヒー 鹿児島仙巌園店 - 公式サイト
https://store.starbucks.co.jp/detail-1441/
薩摩の歴史を今に伝える白亜の洋館・鹿児島仙巌園店 - Starbucks Stories Japan
https://stories.starbucks.co.jp/stories/2024/senganen24/
串木野鉱山 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/串木野鉱山
金鉱山から焼酎蔵へ - 薩摩金山蔵(濵田酒造)
https://www.hamadasyuzou.co.jp/kinzan/column/147.html
国指定名勝 仙巌園 - かごしまの観光
https://www.kagoshima-kankou.com/guide/10526

最終更新日: 2026.01.28

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