二階堂家住宅:江戸時代の武家の暮らしに触れる
鹿児島県大隅半島の肝付町、静かな田園風景が広がる一角に、二階堂家住宅はひっそりと佇んでいます。1975年(昭和50年)に国の重要文化財に指定されたこの茅葺き屋根の民家は、約215年前の武家の暮らしを今に伝える、日本でも屈指の貴重な建造物です。訪れる人々は、江戸時代後期の郷士(農村の武士)の日常生活を追体験することができます。
南九州特有の建築様式「分棟型」の傑作
二階堂家住宅の最大の特徴は、鹿児島県南部でのみ見られる「分棟型」と呼ばれる建築様式にあります。この住宅は、来客を迎える格式高い「おもて」と、日常生活を営む「なかえ」という二つの棟から構成されています。
二つの建物は直角に連結され、「雁行型」と呼ばれるL字型の美しい配置を形成しています。茅葺きの屋根は「寄棟造り」という様式で、四方から優雅に葺き下ろされています。薩摩藩領内で茅葺きの武家屋敷が現存するのは、この二階堂家住宅を含めてわずか3例のみ。その希少性は計り知れません。
重要文化財に指定された理由
二階堂家住宅が国の重要文化財に指定された背景には、いくつかの重要な理由があります。まず、旧薩摩藩領における分棟型民家の中でも、最も発展した形式を持つ代表的な建物であること。規模が大きく、部材の仕上げが非常に丁寧で、武家住宅としての格式を明確に示しています。
「おもて」は文化7年(1810年)頃の建築とされ、床の間には床と脇棚が設けられ、武家の美意識が随所に表れています。軒を支える太い竹は、すべて敷地裏の竹林から切り出されたもの。木材の組み方から細部の仕上げまで、当時の職人技術の高さを物語っています。
さらに、郷土の民家の旧態を極めてよく残しており、江戸時代後期の地方武士の生活を知る上で、かけがえのない学術的価値を有しています。
800年の歴史を持つ二階堂家の系譜
二階堂家の歴史は、鎌倉時代(1185年〜1333年)にまで遡ります。もともと鎌倉の「二階堂」という地名の場所に居を構えていた一族が、13世紀に薩摩の警護のため中央から派遣されました。その後、島津氏の配下となり、この地に移住。以来、「郷士」として地域の統治に携わってきました。
興味深いことに、二階堂家はもともと山伏(修験者)としての側面も持ち、江戸時代を通じて教育活動にも関わっていたとされます。住宅は地元で「大林坊屋敷」とも呼ばれ、その宗教的なルーツを今に伝えています。
二階堂家で最も著名な人物は、戦後の政治家・二階堂進氏(1909年〜2000年)です。内閣官房長官などの要職を歴任し、「趣味は田中角栄」という言葉でも知られました。この住宅は長らく二階堂氏の生家として使われ、現在はご子息が所有されながら、一般公開が行われています。
見どころと魅力
二階堂家住宅を訪れると、まるで時が止まったかのような感覚に包まれます。手入れの行き届いた庭園には、鹿児島市の名勝・仙巌園(磯庭園)を思わせる石灯籠が配され、庭の一角には二階堂進氏の銅像が立っています。
建物内部では、武家の生活の二面性を体感できます。格式高い「おもて」は床が一段高く設えられ、儀式的な空間として機能していました。一方、土間を持つ「なかえ」は炊事や日常の営みが行われた実用的な空間。質素でありながら品格を失わない佇まいは、質実剛健を旨とした武士の気風を今に伝えています。
2016年には34年ぶりとなる茅葺き屋根の全面葺き替え工事が完了しました。熊本県阿蘇地方から取り寄せた耐久性に優れた「ヤマガヤ」を使用し、伝統の技術で美しく生まれ変わりました。
周辺情報
肝付町には、二階堂家住宅と合わせて訪れたい魅力的なスポットが数多くあります。
住宅からほど近い塚崎古墳群は、4世紀後半から5世紀前半に築造された44基の古墳からなり、前方後円墳5基を含む日本最南端の古墳群として知られています。1号墳の上には推定樹齢1,300年以上の大楠「塚崎のクス」がそびえ、国の天然記念物に指定されています。
984年創建の四十九所神社では、毎年10月第3日曜日に「高山流鏑馬」が奉納されます。約900年の歴史を持つこの神事は、射手を地元の中学2年生が務めるという全国でも珍しい形態で継承されています。約330メートルの馬場を駆け抜けながら9本の矢を放つ姿は、まさに圧巻です。
宇宙ファンには、JAXA内之浦宇宙空間観測所がおすすめ。日本の宇宙開発の父・糸川英夫博士が切り開いた、世界でも珍しいロケット発射場を見学できます。観光の締めくくりには、やぶさめの里総合公園内の高山温泉ドームで疲れを癒すのも良いでしょう。
訪問に適した季節
二階堂家住宅は四季を通じて美しい姿を見せてくれます。春は新緑が庭園と竹林を彩り、夏は青々とした木々が茅葺き屋根に涼しげな影を落とします。秋は紅葉に包まれ、10月の流鏑馬祭りの時期には町全体が活気に満ちます。冬の静けさの中で建築の細部をじっくり鑑賞するのも、また趣があります。
高山やぶさめ祭り(10月第3日曜日)に合わせて訪問される場合は、流鏑馬の良い観覧場所を確保するため、早めに現地入りすることをおすすめします。
Q&A
- 見学にはどのくらい時間がかかりますか?
- 二階堂家住宅の見学は30〜45分程度が目安です。塚崎古墳群や四十九所神社と組み合わせると半日コース、JAXA内之浦宇宙空間観測所も加えると1日楽しめます。
- 写真撮影は可能ですか?
- 個人利用目的の写真撮影は基本的に許可されています。文化財保護のため、一部でフラッシュ撮影が制限される場合があります。来館時にスタッフにご確認ください。
- 車椅子での見学は可能ですか?
- 歴史的建造物のため、段差や上がり框があり、建物内部の車椅子でのアクセスは困難です。外観と庭園は地上から鑑賞可能です。詳しくは事前にお問い合わせください。
- 公共交通機関でのアクセス方法は?
- 最寄りのJR駅は日南線の志布志駅ですが、そこからはバスまたはタクシーが必要です。鹿屋市からバスで約25分、高山バス停から徒歩約10分です。レンタカーのご利用が最も便利です。鹿児島空港から約90分、鹿児島市内からも約90分で到着できます。
- 入館料の支払い方法は?
- 入館料は現金でのお支払いとなります。個人所有の文化財であるため、維持管理費として見学料をいただいています。料金は大人(高校生以上)300円、小人(小・中学生)150円、未就学児は無料です。
基本情報
| 名称 | 二階堂家住宅(にかいどうけじゅうたく) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国指定重要文化財(昭和50年6月23日指定) |
| 建築年代 | 文化7年(1810年)頃(江戸時代後期) |
| 建築様式 | 分棟型民家、寄棟造、茅葺 |
| 建物規模 | おもて:桁行8.9m、梁間7.0m / なかえ:桁行8.9m、梁間6.0m |
| 所在地 | 〒893-1207 鹿児島県肝属郡肝付町新富5595 |
| 開館時間 | 9:30〜17:00 |
| 休館日 | 月曜日(祝日の場合は見学可) |
| 入館料 | 大人(高校生以上):300円 / 小人(小・中学生):150円 / 未就学児:無料 |
| 駐車場 | あり(10台) |
| お問い合わせ | 0994-31-5252 |
| アクセス | 高山バス停から徒歩約10分 / 肝付町役場から約1km |
参考文献
- 二階堂家住宅 おもて なかえ - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/177793
- 二階堂家住宅 - 鹿児島県観光サイト かごしまの旅
- https://www.kagoshima-kankou.com/guide/10374
- 二階堂家住宅 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/二階堂家住宅
- 二階堂家住宅(昭和50年6月23日指定) - 肝付町公式サイト
- https://kimotsuki-town.jp/soshiki/rekishiminzoku/1/2/1649.html
- 二階堂家住宅 - 肝付町観光案内所
- https://kankou-kimotsuki.net/archives/introduce/nikaido-house
- 34年ぶり全面葺き替え 二階堂家住宅 - きもつき情報局
- https://kankou-kimotsuki.net/archives/10586
- 二階堂家住宅 - オスミツキ大隅国
- https://oosumi-kankou.com/topics/二階堂家住宅/
最終更新日: 2026.01.02