大吉山瓦窯跡:古代東北の都・多賀城を彩った瓦を生んだ窯跡
宮城県大崎市の緩やかな丘陵地帯に、古代日本の歴史を物語る貴重な遺跡が眠っています。国指定史跡「大吉山瓦窯跡」(だいきちやまかわらがまあと)は、今から1300年以上前の奈良時代、古代東北地方の政治・軍事・文化の中心地であった多賀城の創建を支えた瓦窯の遺跡です。
有名な寺社仏閣や城郭とは異なり、この遺跡は静かな田園風景の中にひっそりと佇んでいます。しかし、ここで焼かれた瓦は、古代国家が北方経営の拠点として築いた多賀城の屋根を飾り、東北地方の歴史を大きく変えることとなりました。観光客で賑わう名所とは一味違う、歴史の息吹を肌で感じられる場所です。
大吉山瓦窯跡とは
大吉山瓦窯跡は、江合川沿いに南東に延びる標高約50メートルの丘陵東側斜面に位置し、約5基の窯跡が並んでいると推定されています。窯の構造は「地下式窖窯」(ちかしきあながま)と呼ばれる、斜面を利用して地中にトンネル状の焼成室を設けた形式であったと考えられています。
この遺跡は、昭和47年(1972年)に水田開発に伴う農道工事の際に発見されました。このとき出土した瓦の中に、蓮の花をかたどった「重弁蓮華文軒丸瓦」(じゅうべんれんげもんのきまるがわら)が含まれていました。この瓦が多賀城跡から出土した創建期の瓦と同じ型式であったことから、本遺跡が多賀城創建時の瓦を生産した窯の一つであることが明らかとなりました。
その重要性が認められ、昭和51年(1976年)3月31日に国の史跡に指定されました。
国史跡に指定された理由:多賀城との深い関わり
大吉山瓦窯跡の歴史的価値を理解するためには、多賀城の存在を知る必要があります。多賀城は神亀元年(724年)に大野東人(おおののあずまひと)によって創建され、陸奥国府(むつこくふ)および鎮守府(ちんじゅふ)が置かれた古代東北地方最大の行政・軍事拠点でした。
多賀城は、奈良の平城京を中心とした律令国家体制において、西の大宰府(だざいふ)と対をなす「北の都」として機能しました。平城京跡・大宰府跡と並んで「日本三大史跡」の一つに数えられる、まさに古代日本を代表する遺跡です。
古代日本において、瓦葺きの建物は皇居や大寺院、重要な官庁施設に限られた特別なものでした。大吉山のような専門的な瓦窯が遠く離れた大崎地域に設けられたことは、中央政府が北方経営にいかに大きな資源を投入したかを物語っています。大吉山瓦窯跡は、古代陸奥国の「官窯」(かんよう)として、国家プロジェクトの一翼を担った重要な生産施設だったのです。
令和の発掘調査で明らかになった新発見(2021〜2023年)
国史跡に指定されてから約50年間、大吉山瓦窯跡では本格的な発掘調査が行われていませんでした。しかし、令和3年度から5年度(2021〜2023年度)にかけて、ついに初めての発掘調査が実施され、驚くべき新事実が次々と明らかになりました。
調査の結果、瓦を焼いた窯が6基と木炭を作った窯が1基発見されました。また、窯の周辺には「灰原」(はいばら)と呼ばれる廃棄場所があり、窯から掻き出した灰や焼成に失敗した瓦が多数見つかりました。これらの発見により、遺跡の規模と操業の実態がより詳しく解明されました。
特に注目すべき成果は、「陽出蓮華文平瓦」(ようしゅつれんげもんひらがわら)と呼ばれる新種の瓦の発見です。平瓦の表面全体に蓮の花の模様が規則的に陽刻されたこの瓦は、多賀城跡では未発見の型式でした。この瓦がどこに運ばれて使用されたのか、今後の調査で明らかになることが期待されています。
大吉山瓦窯跡の見どころ
大吉山瓦窯跡の窯は、朝鮮半島から伝わった「窖窯」(あながま)技術を用いて築かれました。斜面を利用して地中にトンネル状の焼成室を設けるこの技術により、瓦の焼成に必要な高温を効率的に得ることができました。丘陵の傾斜は自然の通気を生み出し、地下構造は安定した焼成温度の維持に貢献しました。
出土品の中には、製作者の名前や記号が刻まれたものがあり、当時の工人たちの存在を今に伝えています。アーチ形の蓮華文鬼板(おにいた)には「小田建万呂」(おだのたてまろ)という陽刻があり、窯を統括した工人の名前と考えられています。また、丸瓦には「下」「毛」などの箆書き(へらがき)が見られ、製造ロットや品質管理の印であった可能性があります。
瓦に施された蓮華文(れんげもん)は、仏教美術の重要なモチーフです。蓮は泥の中から清らかな花を咲かせることから、悟りへの道を象徴する神聖な植物とされました。これらの意匠は、奈良時代における仏教と国家建設の密接な関係を物語っています。
現地を訪れる
大吉山瓦窯跡は、有名な観光地とは異なる静謐な雰囲気の中で歴史と向き合える場所です。遺跡は自然の状態に近い形で保存されており、1300年前の瓦職人たちが見た風景を想像しながら散策することができます。
見学は通年自由に行うことができ、入場料もかかりません。自分のペースでゆっくりと歴史を探訪したい方に最適です。大崎耕土の豊かな田園風景を見下ろす丘陵の立地は、かつてこの地で繰り広げられた活発な生産活動を思い起こさせます。
奈良時代の東北史をより深く理解するためには、関連遺跡とあわせて訪れることをおすすめします。南東約50キロメートルに位置する特別史跡・多賀城跡では、復元された南門や政庁跡を見学できます。隣接する東北歴史博物館には、地域から出土した瓦や文化財の優れたコレクションが収蔵されています。
大崎地域の魅力
大吉山瓦窯跡が位置する大崎地域には、古代遺跡以外にも多くの魅力があります。2017年には、大崎地域の伝統的な農業景観が国連食糧農業機関(FAO)により「世界農業遺産」(GIAHS)に認定されました。東北地方では初めての認定です。
「大崎耕土」(おおさきこうど)と呼ばれるこの農業景観は、400年以上にわたる巧みな水管理によって、洪水や渇水、冷害に悩まされた平野を日本有数の穀倉地帯に変えてきた歴史を持っています。農家を厳しい風から守る「居久根」(いぐね)と呼ばれる屋敷林が点在する風景は、他では見られない独特の美しさを持っています。
遺跡から車で約40分の場所には、奥州三名湯の一つに数えられる鳴子温泉郷があります。日本随一の泉質の多様さを誇る温泉で旅の疲れを癒すことができます。特に紅葉の季節に美しい鳴子峡は、東北を代表する景勝地です。また、日本最古の学問所建築として知られる「旧有備館」は、この地域の教育・文化の歴史を伝えています。
Q&A
- 大吉山瓦窯跡が国史跡に指定された理由は何ですか?
- 出土した瓦が多賀城創建期の瓦と同じ型式であることが判明し、古代陸奥国の官窯として多賀城の建設を支えた重要な生産施設であることが明らかになったためです。特別史跡である多賀城との直接的な関係は、古代国家の行政・生産体制を解明する上で極めて重要な意義を持っています。
- 大吉山瓦窯跡ではどのような瓦が生産されていましたか?
- 重弁蓮華文で装飾された軒丸瓦(のきまるがわら)、平瓦(ひらがわら)、丸瓦(まるがわら)、装飾用の鬼板(おにいた)などが生産されていました。令和の発掘調査では、蓮華文が陽刻された新種の平瓦「陽出蓮華文平瓦」も発見されています。
- 大吉山瓦窯跡へのアクセス方法を教えてください。
- 車の場合は東北自動車道・古川インターチェンジから約10分です。電車の場合は東北新幹線・古川駅からタクシーで約15分です。見学は自由で、入場料は無料、通年で見学可能です。
- 周辺に関連する遺跡はありますか?
- 宮城県内には多賀城に瓦を供給した関連窯跡がいくつかあります。大崎市の木戸瓦窯跡(きどかわらがまあと)や色麻町の日の出山瓦窯跡(ひのでやまかわらがまあと)も国史跡に指定されており、あわせて訪れることで当時の瓦生産体制をより深く理解できます。
- 出土した瓦はどこで見ることができますか?
- 蓮華文軒丸瓦をはじめとする出土品は大崎市教育委員会が所蔵しています。また、多賀城市にある東北歴史博物館では、地域から出土した瓦の充実したコレクションを見学できます。発掘調査報告書は奈良文化財研究所の「全国遺跡報告総覧」でも閲覧可能です。
基本情報
| 名称 | 大吉山瓦窯跡(だいきちやまかわらがまあと) |
|---|---|
| 指定 | 国指定史跡(昭和51年3月31日指定) |
| 時代 | 奈良時代(8世紀) |
| 所在地 | 宮城県大崎市古川小林字浦越 |
| アクセス(車) | 東北自動車道・古川インターチェンジから約10分 |
| アクセス(電車) | 東北新幹線・古川駅からタクシーで約15分 |
| 見学 | 自由(通年・無料) |
| 関連史跡 | 特別史跡多賀城跡、木戸瓦窯跡、日の出山瓦窯跡 |
| お問い合わせ | 大崎市教育委員会 文化財課(電話:0229-23-2214) |
参考文献
- 宮城県公式ウェブサイト - 指定文化財〈史跡〉大吉山瓦窯跡
- https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bunkazai/kuni-siseki17.html
- 大崎市 - 大吉山瓦窯跡(古川地域)~新たに見つかった謎の瓦~
- https://www.city.osaki.miyagi.jp/shisei/soshikikarasagasu/kyoikuiinkaijimukyoku/bunkazaika/oosakinotakara/19440.html
- 宮城県多賀城跡調査研究所 - 多賀城跡
- https://www.thm.pref.miyagi.jp/kenkyusyo/explanation_tagajoato.html
- 大崎市 - 世界農業遺産(GIAHS)情報
- https://www.city.osaki.miyagi.jp/shisei/sekainogyoisanjoho/index.html
- 農林水産省 - 宮城県大崎地域:世界農業遺産
- https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_3_092.html
最終更新日: 2026.01.27
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