玉や主屋:當麻寺門前に佇む江戸末期の旅籠建築
奈良県葛城市、二上山の麓に広がる古刹・當麻寺の門前に、江戸時代末期から170年以上の歴史を刻み続ける建物があります。「玉や主屋」は、2016年に国の登録有形文化財に登録された貴重な旅籠建築です。瓦葺き屋根と格子戸が美しいこの二階建ての建物は、かつて當麻寺への参詣者をもてなした宿として、今なお門前町の景観を守り続けています。
歴史的背景
玉や主屋が建てられたのは江戸時代末期、1830年から1868年の間とされています。この時代、日本各地の寺社の門前には多くの旅籠が軒を連ね、参詣者に宿泊と食事を提供していました。當麻寺は中将姫伝説で知られる古刹として、古くから多くの参詣者を集めてきた寺院です。玉や主屋は、そうした参詣者をもてなす門前の旅籠として誕生しました。
旅籠とは、江戸時代に発達した宿泊施設の形態で、素泊まりが基本の木賃宿とは異なり、食事付きの宿として旅人に親しまれました。街道筋や寺社の門前に多く建てられ、日本の旅文化を支える重要な存在でした。玉や主屋は、當麻寺の山門直前という絶好の立地に位置し、参詣前後の旅人の憩いの場として愛されてきたのです。
登録有形文化財に選ばれた理由
玉や主屋は2016年2月25日、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録有形文化財制度は1996年に創設され、近代化の中で失われつつある歴史的建造物を幅広く保護することを目的としています。
玉や主屋が登録に至った主な理由は、その建築的・景観的価値にあります。まず、江戸末期の旅籠建築として良好な保存状態を維持していること。そして、當麻寺門前の角地という立地において、古刹の門前景観に大きく寄与していることが評価されました。さらに、「松に鶴」の鏝絵(こてえ)や、軒の持送りに彫刻された宝珠など、華やいだ雰囲気を醸し出す装飾的意匠も高く評価されています。
建築の見どころと芸術的価値
玉や主屋の建築構造は、西面が入母屋造、東面が切妻造という組み合わせで、起りのある桟瓦葺きの屋根が特徴です。建築面積は142平方メートル、木造二階建ての堂々たる構えは、往時の旅籠の繁栄を今に伝えています。
外観の最大の見どころは、建物の壁面を飾る「松に鶴」の鏝絵です。鏝絵とは、左官職人が漆喰を用いて壁面に立体的な絵柄を描く日本独自の装飾技法。江戸時代中期から盛んになり、豪商や網元の邸宅を彩る富の象徴として発展しました。松と鶴は長寿と繁栄を象徴する吉祥のモチーフであり、旅人の幸福を願う心意気が込められています。
また、軒の持送り(のき の もちおくり)には宝珠の彫刻が施されています。宝珠は仏教において願いを叶える宝物とされ、寺院の門前建築にふさわしい荘厳さを添えています。外周には格子戸が巡らされ、下屋と高欄が建物に風格を与えています。
現在の玉や:歴史と美食の融合
現在、玉や主屋は「釜めし 玉や」として、奈良県産の食材を使った釜めし料理を提供するレストランとして営業しています。床など一部はリノベーションされていますが、建物の骨格と外観は江戸時代の面影をそのまま残しています。店内では、中庭や通りを眺めながら食事ができる大広間(テーブル26席)や半個室(12席)で、ゆったりとした時間を過ごすことができます。
看板メニューの「せんどめし」は、奈良の方言で「何度も」を意味する言葉。一つの釜めしを三通りの味わい方で楽しめるセットです。まずはそのまま炊き立てを、次に温泉卵をかけて、最後は特製出汁をかけてお茶漬け風に。ヤマトポーク角煮、大和肉鶏、奈良きのこ、大和牛時雨煮など、奈良県産の食材を贅沢に使った釜めしは、當麻の里観光の醍醐味を倍増させてくれます。
周辺の観光スポット
玉や主屋が建つ當麻寺門前は、見どころが豊富なエリアです。何といっても最大の目的地は當麻寺。推古天皇20年(612年)に創建されたこの古刹は、中将姫が蓮糸で一夜にして織り上げたという伝説の「當麻曼荼羅」を本尊とし、国宝の本堂(曼荼羅堂)や日本で唯一現存する天平時代の東西両塔など、多くの文化財を有しています。
参道沿いには、相撲の開祖・當麻蹶速(たいまのけはや)の墓とされる「當麻蹶速塚」があり、隣接する「葛城市相撲館けはや座」では相撲の歴史を学ぶことができます。また、當麻寺の背後にそびえる二上山(ふたかみやま)は、古来より西方浄土の象徴として信仰を集め、美しい夕陽の名所としても知られています。ハイキングコースも整備されており、當麻寺参詣と合わせて自然散策を楽しむ方も多くいらっしゃいます。
春にはボタンの花が各塔頭寺院を彩り、秋には紅葉が境内を錦色に染め上げます。四季折々の表情を見せる當麻の里は、何度訪れても新しい発見がある魅力的なエリアです。
訪問のご案内
玉や主屋と當麻寺へは、大阪や奈良市内から日帰りで訪れることができます。近鉄南大阪線「当麻寺駅」から西へ徒歩約10分強、昔ながらの町並みが続く参道を歩けば、やがて當麻寺の山門が見えてきます。その手前、右手の角地に建つのが玉や主屋です。
當麻寺は境内に多くの見どころがあり、じっくり巡るには半日程度の時間を見ておくとよいでしょう。伽藍三堂(本堂・講堂・金堂)の拝観、中之坊や奥院などの塔頭寺院の庭園散策、そして玉やでの食事を組み合わせれば、充実した一日になることでしょう。混雑を避けた静かな参詣を楽しみたい方には、特におすすめのスポットです。
Q&A
- 玉や主屋とはどのような建物ですか?
- 玉や主屋は、奈良県葛城市の當麻寺門前に建つ江戸時代末期(1830〜1868年)の旅籠建築です。2016年に国の登録有形文化財に登録されました。木造二階建て、瓦葺きの建物で、壁面には「松に鶴」の美しい鏝絵が残されています。現在は「釜めし 玉や」というレストランとして営業しています。
- 玉や主屋の内部を見学することはできますか?
- はい、現在は「釜めし 玉や」として営業していますので、食事をしながら建物内部を見学することができます。江戸時代の建物の趣を残しながら、一部リノベーションされた店内で、奈良県産食材を使った釜めし料理を楽しめます。営業時間は11:00〜15:00(ラストオーダー14:00)、月曜定休(祝日の場合は翌日)です。
- 玉や主屋へのアクセス方法を教えてください。
- 近鉄南大阪線「当麻寺駅」で下車し、西方向へ徒歩約10〜15分です。駅前から當麻寺参道をまっすぐ進み、當麻寺の山門手前右側の角地に位置しています。近隣に有料パーキングがありますので、お車でもお越しいただけます。
- 鏝絵(こてえ)とは何ですか?
- 鏝絵とは、左官職人が鏝(こて)を使って漆喰で壁面に立体的な絵や文様を描く日本の伝統的な装飾技法です。江戸時代中期から盛んになり、豪商や網元の邸宅を飾る富の象徴として発展しました。花鳥風月や吉祥モチーフが多く描かれ、玉や主屋には長寿と繁栄を象徴する「松に鶴」の鏝絵が残されています。
- 當麻寺周辺の見どころを教えてください。
- 當麻寺は国宝の本堂(曼荼羅堂)や東西両塔、中将姫ゆかりの當麻曼荼羅など多くの文化財を有する古刹です。境内には中之坊や奥院など複数の塔頭寺院があり、庭園や宝物を拝観できます。参道沿いには相撲の開祖・當麻蹶速の墓や葛城市相撲館があります。また、背後にそびえる二上山は夕陽の名所として知られ、ハイキングも楽しめます。
基本情報
| 名称 | 玉や主屋(たまやしゅおく) |
|---|---|
| 文化財種別 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2016年(平成28年)2月25日 |
| 建築年代 | 江戸時代末期(1830〜1868年) |
| 構造 | 木造2階建、瓦葺、建築面積142㎡ |
| 所在地 | 〒639-0276 奈良県葛城市當麻元當麻方1242 |
| アクセス | 近鉄南大阪線「当麻寺駅」より徒歩約15分 |
| 現在の用途 | 釜めし 玉や(レストラン) |
| 営業時間 | 11:00〜15:00(ラストオーダー14:00) |
| 定休日 | 月曜日(祝日の場合は翌日) |
| 電話番号 | 0745-48-5470 |
| 駐車場 | 近隣に有料パーキングあり |
参考文献
- 文化遺産オンライン - 玉や主屋
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/298969
- Narakko!(奈良っこ)- 釜めし 玉や
- https://www.narakko.jp/tamaya/
- 當麻寺 中之坊 公式サイト
- https://www.taimadera.org/
- 當麻寺 奥院 公式サイト
- http://www.taimadera.or.jp/
- 日本遺産ポータルサイト - 當麻寺
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/3130/
- Wikipedia - 鏝絵
- https://ja.wikipedia.org/wiki/鏝絵
- Wikipedia - 旅籠
- https://ja.wikipedia.org/wiki/旅籠
最終更新日: 2026.01.14