天正11年の再建 ― 大社造で現存最古

神魂神社本殿は、島根県松江市大庭町にある天正11年(1583年)再建の神社建築で、明治33年(1900年)4月7日に重要文化財、昭和27年(1952年)3月29日に国宝に指定された。員数は1棟。文化庁の構造及び形式等の記載は「大社造、とち葺」である。

文化庁の解説は、この建物の位置づけを一文で示している。出雲国、すなわち島根県東半部にのみ分布する大社造のなかの最古の遺構である、と。大社造は出雲地方特有の神社建築様式で、高床式の建物から発展したと考えられている。その現存最古の例がこの本殿にあたる。

神魂は「かもす」と読む。社伝によれば、出雲国造の祖神である天穂日命がこの地に天降って創建したと伝えられ、以後25代にわたって出雲国造がこの神社に奉仕したという。大庭という土地について、文化庁は「古く出雲国造の住んだところであった」と記す。主祭神は伊弉冊大神、配祀神は伊弉諾大神である。

出雲大社本殿との違い ― 桁行・柱・屋根

大社造の代表例は出雲大社本殿だが、文化庁の解説は両者を並べたうえで神魂神社本殿の特徴を挙げている。出雲大社本殿によく似ているが、梁行に対して桁行がやや長く、また規模に比して柱が太く、大社造の古い形式を伝えるものと考えられる、と。

この指摘は現地で確かめられる。桁行は二間、梁間も二間だが、両者は等しくない。桁行がやや長いため、平面は正方形にならない。延享元年(1744年)造営の出雲大社本殿が正方形平面をとるのに対し、161年古いこちらは正方形に至っていない。規模に比して柱が太いという点も、建物の小ささを知ったうえで柱を見上げると分かりやすい。

屋根の材も違う。出雲大社本殿が檜皮葺であるのに対し、こちらはとち葺、すなわち板を重ねて葺く。厚みと表情が異なるので、両方を訪ねる場合は屋根の面を見比べたい。

正面と背面の中央に立つ棟持柱が壁面から大きく突出する点は、伊勢神宮の神明造と共通する古い建築の特徴とされる。九本の柱はいずれも円柱で礎石の上に立ち、中心に心御柱が据えられる。床の高さが床上の壁の高さを上回るという比例も、出雲大社本殿とは逆の関係にあり、より古い形式を伝えるものと考えられている。

女造 ― 御神座の向きが逆であること

大社造の本殿は、内部を心御柱で仕切り、御神座を側面に寄せて配置する。その配置には二通りあり、出雲大社の形式を男造、神魂神社の形式を女造と呼ぶ。両者は左右が逆になる。

屋根の上の千木も対応している。神魂神社本殿の千木は先端を水平に削ぐ内削ぎで、女千木と呼ばれる。鰹木は3本。これらは装飾ではなく、祀られる神の性格を示す標識として読まれてきた。伊弉冊大神を主祭神とすることと、女造・女千木という形式が呼応している。

出雲大社本殿を先に見た人は、八足門の前で「御神座が西を向く」と聞いたはずである。神魂神社本殿ではその向きが反転する。二つの国宝を続けて訪ねると、大社造という一つの様式のなかに二つの型があることが、言葉ではなく建物の形で理解できる。

内部の彩色と、扉が開く日

本殿の内部は通常公開されていない。ただし何が納められているかは公表されている。

内部の梁や柱は丹塗りとし、天井には九つの瑞雲が五色で描かれる。八雲と呼ばれるもので、数が九つであることは古くから指摘されてきた。中央の梁には竜と雲が描かれる。壁面には八面の絵があり、狩野山楽や土佐光起の筆によるものと伝えられる。ただし作者の比定は社伝によるもので、文化庁の記録は絵師の名を挙げていない。

正面の扉にも絵がある。向かって左の月の扉には満月が、右の日の扉には太陽と舞楽の図が描かれる。これらは祭礼の日に扉が開かれる際にのみ垣間見ることができる。日程は年により変わるため、目的とする場合は事前に社務所へ確認したい。社務所では絵葉書も扱われている。

参拝

境内は開放されており、拝観料はかからない。社務所はおよそ午前9時から午後5時まで開いている。本殿は瑞垣に囲まれ、外観からの拝観となる。撮影に一般的な制限はないが、瑞垣の内側や祭礼中については社務所に確認するのが無難である。

参道は自然石を積み上げた石段から始まる。一段ごとの高さが揃っていないため足元に注意が要る。歩きやすい靴で訪れたい。境内は深い森に囲まれ、出雲大社のような人出はない。早朝は静かで、本殿の屋根と森の輪郭が重なる時間帯にあたる。

交通はJR松江駅から市営バスで約25分。駐車場は無料で約150台分ある。問い合わせは神魂神社(0852-21-6379)へ。

境内には末社の貴布祢稲荷両神社本殿があり、こちらは別に重要文化財の指定を受けている。すぐ近くには八雲立つ風土記の丘があり、岡田山古墳の出土品などを見ることができる。

Q&A

Q神魂神社本殿はいつ建てられ、いつ国宝に指定されましたか。
A天正11年(1583年)の再建です。明治33年(1900年)4月7日に重要文化財となり、昭和27年(1952年)3月29日に国宝へ指定されました。員数は1棟、構造は大社造・とち葺です。
Q神魂神社本殿はなぜ国宝なのですか。
A出雲国にのみ分布する大社造のなかで最古の遺構だからです。文化庁は、出雲大社本殿によく似ているが梁行に対して桁行がやや長く、規模に比して柱が太く、大社造の古い形式を伝えるものと評しています。
Q神魂神社本殿と出雲大社本殿はどこが違いますか。
A桁行が梁間よりやや長く平面が正方形にならない点、規模に比して柱が太い点、屋根がとち葺である点(出雲大社本殿は檜皮葺)です。床の高さと壁の高さの比例も逆で、より古い形式を伝えるとされます。
Q神魂神社本殿の女造とは何ですか。
A大社造の本殿は心御柱で内部を仕切り御神座を側面に寄せますが、その配置に二通りあり、出雲大社の形式を男造、神魂神社の形式を女造と呼びます。両者は左右が逆になります。屋根の千木も内削ぎの女千木で、鰹木は3本です。
Q神魂神社本殿の内部は見学できますか。
A通常は非公開です。内部には丹塗りの梁と柱、五色の八雲を描いた天井、八面の壁画があります。正面の扉に描かれた月と太陽の図は、祭礼の日に扉が開かれる際にのみ垣間見られます。日程は年により変わるので事前に社務所へ確認してください。

基本情報

名称神魂神社本殿(かもすじんじゃほんでん)
所在地島根県松江市大庭町563
指定区分国宝(建造物)/宗教建築
指定年1900年(明治33年)4月7日 重要文化財/1952年(昭和27年)3月29日 国宝
員数1棟
寸法大社造、とち葺/桁行二間、梁間二間(桁行がやや長い)/棟持柱が壁面から突出、九本の円柱、中心に心御柱/桃山、1583年
所有者神魂神社
公開状況境内参拝は無料。社務所はおよそ午前9時から午後5時。本殿は瑞垣に囲まれ外観からの拝観。内部は非公開で、扉の絵は祭礼日のみ

参考文献

文化遺産オンライン 神魂神社本殿
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/146648
しまね観光ナビ 神魂神社
https://www.kankou-shimane.com/destination/20261
松江観光協会
https://www.kankou-matsue.jp/
八雲立つ風土記の丘
https://www.yakumotatu-fudokinooka.jp/

最終更新日: 2026.08.31