放生津八幡宮祭の曳山・築山行事:370年の伝統が息づく秋の祭典
富山県射水市の旧新湊市街地に鎮座する放生津八幡宮。毎年秋になると、この歴史ある港町は県内最多を誇る13基の絢爛豪華な曳山が練り歩き、境内では全国的にも珍しい「築山行事」が執り行われます。江戸時代から370年以上にわたり受け継がれてきたこの祭礼は、2021年に国の重要無形民俗文化財に指定され、2025年12月にはユネスコ無形文化遺産「山・鉾・屋台行事」への追加登録が予定されている、日本が世界に誇る文化遺産です。
文化財としての価値
放生津八幡宮の祭礼が特に重要視される理由は、「曳山行事」と「築山行事」という形態の異なる二つの「山」行事が一体となって現在まで伝承されている点にあります。移動する山である曳山と、境内に設える臨時の置山である築山——この二つの祭礼形式が同時に残る例は全国的にも極めて稀であり、北陸地方における祭礼行事の地域的展開や、日本における山・鉾・屋台行事の変遷を理解する上で貴重な事例とされています。
曳山行事は、県内では高岡御車山祭に次いで発祥が古く、慶安3年(1650年)に古新町の曳山が創始されてから今日まで、約370年以上の歴史を持っています。この長い歴史の中で培われた技術や伝統は、伏木・四方・氷見など富山湾沿岸の港町に伝播し、「放生津型」と呼ばれる曳山文化圏を形成しました。
曳山行事:昼は花山、夜は提灯山
毎年10月1日、13基の曳山が各町から引き出され、旧新湊市街地を巡行します。放生津の曳山は、中央に一本の心柱(しんばしら)を立て、その天辺にダシと花傘(はながさ)で美しく飾り付ける「花傘山」と呼ばれる形式が特徴です。
昼間の巡行では、色とりどりの花傘や精巧な人形で飾られた「花山(はなやま)」として、その華やかな姿を披露します。揃いの法被を身にまとった曳き手たちが「イヤサー、イヤサー」という独特の掛け声とともに曳山を引き、狭い路地を練り歩く様子は勇壮そのものです。
夕暮れ時になると、曳山は劇的な変貌を遂げます。花傘を外し、代わりに250個以上の提灯で四方を覆いつくした「提灯山(ちょうちんやま)」へと姿を変えるのです。無数の提灯が揺らめく灯りを放ちながら夜の町を巡行する光景は、まさに幻想的。温かな金色の光が古い町並みに映え、訪れる人々を魅了してやみません。
築山行事:海から神を迎える神秘の儀式
築山行事は、全国的にも類例の少ない臨時の置山行事です。9月30日の夕刻、「魂迎え(たまむかえ)」の儀式によって海上から神霊を招き、境内に設えた臨時の祭壇である「築山」にお迎えします。
築山台は山に見立てた雛壇様の構造で、ここに「ウバガミ(姥神)」または「オンバサマ」と呼ばれる主神人形、広目天・増長天・持国天・多聞天の四天王人形が安置されます。さらにその前方には「マロウド(客人)」と称される飾り人形が配置され、地域ゆかりの人物や歴史的場面を毎年趣向を凝らして表現します。
この築山の公開は10月2日の本祭に行われ、古代の信仰形態を今に伝える貴重な機会として、多くの参拝者が訪れます。かつては能登の石動山にある伊須流岐比古神社でも行われていましたが明治期に廃絶し、現在では放生津八幡宮と高岡市の二上射水神社でのみ継承されている大変珍しい行事です。
放生津八幡宮の歴史
放生津八幡宮の創建は天平18年(746年)と伝えられ、越中守として赴任した万葉歌人・大伴家持が宇佐神宮から御分霊を勧請したことに始まります。「放生津」の地名は、石清水八幡宮との関係から行われていた放生会に由来するとも言われています。
現在の社殿は文久3年(1863年)に再建されたもので、大坂城西丸の修復にも携わった高瀬輔太郎が棟梁を務めました。明治42年(1909年)に奈呉八幡宮から現在の放生津八幡宮に改称されています。
曳山行事の歴史において特筆すべきは、安永4年(1775年)に起こった「曳山車騒動」です。高岡の御車山との間で車輪の形式をめぐる騒動が起こり、その結果、加賀藩領内の曳山祭りの発展に大きな影響を与えました。この事件は、当時いかに曳山が地域の誇りとして重要視されていたかを物語っています。
祭りのスケジュール
放生津八幡宮祭の曳山・築山行事は、毎年9月30日から10月2日にかけて開催されます。
- 9月30日(夕刻):魂迎え(たまむかえ)——海辺で行われる神霊をお迎えする儀式
- 10月1日:曳山巡行——昼は「花山」として、夜は「提灯山」として13基の曳山が旧新湊市街地を練り歩きます
- 10月2日:本祭——築山の一般公開、神社での各種祭礼
周辺の観光スポット
放生津八幡宮祭を訪れた際には、魅力あふれる新湊エリアの観光もお楽しみください。
海王丸パーク:「海の貴婦人」と称される帆船海王丸が係留されている公園です。富山湾越しに望む立山連峰、日本海側最大級の斜張橋である新湊大橋との景観は絶景。年に10回ほど行われる総帆展帆は必見です。「恋人の聖地」にも選定されています。
内川:「日本のベニス」とも称される情緒豊かな運河沿いには、漁師町の風情ある町並みが広がります。個性的なデザインの12の橋を巡る観光船クルーズでは、水上から懐かしい風景を楽しめます。
新湊きっときと市場:富山湾の宝石と呼ばれる白えび、ズワイガニ、ブリ、ホタルイカなど、新鮮な海の幸を堪能できます。お土産の購入にも最適です。
射水市新湊博物館:地域の歴史や曳山祭りに関する貴重な資料を展示しています。祭りの背景を深く理解したい方におすすめです。
アクセス情報
富山駅から:富山地鉄ぶりかにバスで海王丸パーク下車(約35分)。祭り当日は富山駅北口から無料臨時バスが運行されます(12:00、14:00、16:00、18:00、20:00発)。
高岡駅から:万葉線で新町口駅または中新湊駅下車(約40分)。
新高岡駅(北陸新幹線)から:か〜にばすで海王丸パーク下車(約40分)。
小杉駅(あいの風とやま鉄道)から:射水市コミュニティバス新湊・小杉線でクロスベイ新湊下車(約33分)。
お車で:北陸自動車道小杉ICから新湊方面へ約20分。祭り当日は海王丸パーク駐車場から会場への無料シャトルバスが運行されます。
Q&A
- 祭りを見るのにおすすめの時間帯は?
- 10月1日の曳山巡行が最大の見どころです。昼間の「花山」は午前中から、夜の「提灯山」は日没後から深夜まで巡行します。午後早めに到着すれば、昼から夜への劇的な変化を両方楽しめます。特に提灯山の幻想的な光景は必見です。
- 入場料はかかりますか?
- 曳山巡行は公道で行われるため、無料でご覧いただけます。10月2日の築山公開も無料です。
- 曳山の巡行順はどのように決まりますか?
- 毎年8月初めの大安の日に放生津八幡宮で「籤取り式」が行われ、12町の巡行順が決定されます。ただし、曳山元祖の町である古新町は、享保6年(1721年)に籤で一番を引き当てて以来、毎年「一番山」を務める「籤除山(くじのけやま)」となっています。
- 雨天の場合はどうなりますか?
- 曳山巡行は雨天の場合、順延または中止となる場合があります。最新情報は射水市観光協会や公式サイトでご確認ください。築山行事は神社境内で行われるため、雨天でも実施されることが多いです。
- 祭り会場周辺で食事はできますか?
- 祭り当日は露店が出店するほか、新湊地区には新鮮な海の幸を味わえる飲食店が多数あります。特に新湊きっときと市場では、白えび丼やカニなど富山湾の名物を堪能できます。混雑が予想されますので、早めの食事をおすすめします。
基本情報
| 名称 | 放生津八幡宮祭の曳山・築山行事(ほうじょうづはちまんぐうさいのひきやま・つきやまぎょうじ) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国指定重要無形民俗文化財(令和3年3月11日指定) |
| ユネスコ無形文化遺産 | 「山・鉾・屋台行事」への追加登録勧告(2025年12月正式決定予定) |
| 開催日 | 毎年9月30日〜10月2日 |
| 開催場所 | 放生津八幡宮および旧新湊市街地(富山県射水市) |
| 神社所在地 | 〒934-0025 富山県射水市八幡町2丁目2-27 |
| 曳山の数 | 13基(13の曳山町による) |
| 曳山創始 | 慶安3年(1650年)古新町曳山 |
| 保存団体 | 放生津八幡宮曳山・築山保存会 |
| お問い合わせ | 射水市生涯学習・スポーツ課 TEL: 0766-51-6637 |
参考文献
- 放生津八幡宮祭の曳山・築山行事 | 文化遺産検索 | とやまの文化遺産
- https://toyama-bunkaisan.jp/search/4347/
- 放生津八幡宮祭の曳山・築山行事 | 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/589090
- 放生津曳山祭 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/放生津曳山祭
- 放生津八幡宮 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/放生津八幡宮
- 放生津八幡宮公式HP
- https://www.houjyoudu.com/
- 放生津八幡宮祭の曳山・築山行事が国指定重要無形民俗文化財に指定されました|射水市
- https://www.city.imizu.toyama.jp/event-topics/svTopiDtl.aspx?servno=20448
- 「放生津八幡宮祭の曳山・築山行事」ユネスコ無形文化遺産登録へ|射水市
- https://www.city.imizu.toyama.jp/event-topics/svTopiDtl.aspx?servno=31822
- 新湊曳山まつり|射水市公式観光サイト きららか射水観光NAVI
- https://www.imizu-kanko.jp/event/6282/
- 海王丸パーク|射水市公式観光サイト きららか射水観光NAVI
- https://www.imizu-kanko.jp/sightseeing/418/
- 新湊観光船
- https://shinminatokankousen.jp/
最終更新日: 2026.01.14
近隣の国宝・重要文化財
- 竹内源造記念館(旧小杉町役場庁舎)
- 富山県射水市戸破2289-1
- 小杉町民展示館(旧小杉貯金銀行本店)
- 富山県射水市戸破4286-1
- 小杉丸山遺跡
- 射水市
- 吉田家住宅土蔵
- 富山県射水市二口字馬渡り1953他
- 石黒信由関係資料
- 射水市新湊博物館 富山県射水市鏡宮299番地
- 吉田家住宅石蔵
- 富山県射水市二口字馬渡り1953他
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