竹内源造記念館(旧小杉町役場庁舎)― 富山が誇る鏝絵の殿堂と名匠の技を訪ねて

富山県射水市の中心部、旧小杉町のまちなみに静かにたたずむ洋風建築――竹内源造記念館は、昭和9年(1934年)に建てられた旧小杉町役場庁舎を活用した、国の登録有形文化財です。この建物そのものが芸術作品であると同時に、日本最大級の鏝絵(こてえ)「双龍」をはじめとする名匠・竹内源造の作品群を間近で鑑賞できる、鏝絵文化の一大発信拠点となっています。入館無料で気軽に訪れることができ、左官技術の奥深さと日本の近代建築の魅力を同時に体感できる、知る人ぞ知る文化スポットです。

鏝絵(こてえ)とは ― 左官職人が生んだ浮き彫りの芸術

鏝絵とは、左官職人が鏝(こて)を使い、漆喰(しっくい)で壁面に立体的な絵を描き出す日本独自の装飾技法です。漆喰は石灰に牡蠣殻の灰、海藻由来の糊であるふのり、砂、そして麻やワラを臼でついた「すさ」を練り込んだ粘土状の素材で作られます。江戸時代後期、防火のために土蔵造りの建物が増えると、その壁面を華やかに彩る装飾として鏝絵が発達しました。

題材には龍や鳳凰、恵比寿・大黒といった縁起のよい動物や福の神が多く、白や黒の一色仕上げから鮮やかに着色された作品まで、その表現は多彩です。小杉地区(現・射水市)は古くから左官業が盛んな土地柄で、江戸時代後期には左官職人の技術検定や相互扶助を担う「左官講」が結成されるほど、地域全体で高い技術水準を誇っていました。こうした土壌から「小杉左官」の名声が全国に広まり、数多くの名工を輩出してきました。

竹内源造 ― 鏝絵の名匠、その生涯と作品

竹内源造は、明治19年(1886年)に旧小杉町三ケの上新町で、優れた左官職人であった竹内平右衛門(通称・勘吉)の五男として生まれました。父の姿に憧れ、小学校卒業と同時に左官の道に進みます。

源造の才能は若くして開花し、明治34年(1901年)、わずか15歳にして初代東京帝国ホテル貴賓室の漆喰彫刻を手がけました。明治44年(1911年)には25歳で射水郡役所から一級漆喰彫刻士の認定を受け、「鏝絵の名人」として全国にその名を知られるようになります。大正8年(1919年)には弟子や仲間20余名を率いて海を渡り、中国・大連にある旧朝鮮銀行大連支店の建築工事にも従事しました。この建物は現在も大連市重点保存建築に指定されています。

源造の作品の最大の特徴は、その圧倒的な立体感にあります。壁面から60センチ以上も飛び出す「高肉彫り」の作風は、「絵」というよりも「彫刻」と呼ぶべき迫力です。また、龍や鳳凰の目にガラス片や電球を埋め込む「玉眼」の技法も源造ならではの工夫で、作品にいっそうの生命感を与えています。昭和17年(1942年)、56歳でこの世を去るまで、富山県内外の土蔵、寺社、公共建築に数多くの傑作を残しました。

建物の魅力 ― 登録有形文化財としての旧小杉町役場庁舎

記念館の建物は、昭和9年(1934年)に小杉町役場庁舎として建設された木造2階建ての擬洋風建築です。寄棟造(一部切妻)、桟瓦葺きで、建築面積は約219平方メートル。東京大学安田講堂を模したとされる正面玄関のポーチ(車寄せ)を中心に左右対称の堂々たる構成をとり、屋根中央にはかつて時報や緊急サイレンに使われた吹鳴台の塔屋がそびえています。

外壁は下見板張りにペンキ仕上げ、基礎は石積み風、縦長の窓が並ぶ外観は、昭和初期の洋風公共建築の典型的な意匠を伝えています。正面のマンサード型破風にはアカンサス(アザミ科植物)模様の鏝絵が施され、2階の旧議場入口には鳳凰の漆喰彫刻が飾られるなど、建物各所に竹内源造の手による装飾が見られます。

昭和51年(1976年)に町役場機能が移転した後は小杉町立図書館として利用され、平成13年(2001年)に竹内源造記念館として生まれ変わりました。平成25年(2013年)には大規模な復原改修工事が行われ、翌年リニューアルオープン。平成26年(2014年)10月7日、国の登録有形文化財(建造物)に登録されています。

見どころ

日本最大級の鏝絵「双龍」

館内最大の見どころは、1階に展示されている竹内源造の最高傑作「双龍(そうりゅう)」です。全長約17メートル、高さ約1メートル、壁面からの厚みは18センチに及ぶこの作品は、日本最大級の鏝絵として知られています。荒波の中を雄龍と雌龍が向き合い、阿吽(あうん)の姿で泳ぐ様子が圧倒的な迫力で表現されています。もとは砺波市宮森新の旧家・名越家の土蔵に飾られていたもので、記念館への移設を経て、現在この場所で大切に保存・展示されています。

旧議場の鳳凰漆喰彫刻

2階に残る旧町議会議場には、源造が手がけた鳳凰の漆喰彫刻が飾られています。壁面から大きく突出した高肉彫りの鳳凰は、源造の豪放かつ繊細な技の真骨頂といえる作品です。

展示室と体験教室

1階の第一展示室では、源造と父・勘吉の鏝絵作品をはじめ、源造が実際に使用していた鏝などの道具類や、小杉左官の歴史に関する資料が展示されています。2階の第二展示室では、鏝絵や左官文化をテーマにした企画展示が随時開催されます。また、年間を通じて鏝絵の制作体験教室が開かれており、小さな額入り鏝絵づくりや「光る漆喰ボール」づくりなど、気軽に左官技術を体験できるプログラムが用意されています。体験は事前予約がおすすめです。

周辺情報

記念館は旧北陸道沿いの歴史ある小杉地区に位置しており、徒歩圏内にもいくつかの見どころがあります。

  • 小杉展示館(射水市小杉展示館) ― 記念館から徒歩3〜4分。明治33年(1900年)に建てられた旧小杉貯蓄銀行の建物で、こちらも国の登録有形文化財です。黒漆喰のなまこ壁に洋風の内装を持つ独特の建築で、鏝絵関連の展示も行われています。
  • まちなかの鏝絵看板 ― 小杉の商店街を歩くと、各店舗のオリジナル鏝絵看板が目に入ります。まち全体がまるで屋外美術館のような趣です。
  • 金胎寺 ― 小杉地区にある歴史ある寺院。記念館から散策がてら訪れることができます。
  • 新湊エリア ― 車で約20分。日本海側最大の斜張橋「新湊大橋」、帆船海王丸パーク、新鮮な海産物が楽しめるきっときと市場、「日本のベネチア」とも称される内川沿いの風情ある街並みなど、魅力的なスポットが集まっています。

Q&A

Q入館料はかかりますか?
A入館は無料です。どなたでもお気軽にご来館いただけます。
Q最寄り駅からのアクセスを教えてください。
Aあいの風とやま鉄道(旧JR北陸本線)小杉駅から徒歩約6分です。お車の場合は、北陸自動車道・小杉ICから約15分で、建物正面に駐車スペースがあります。
Q鏝絵の制作体験はできますか?
Aはい、年間を通じて鏝絵の制作体験教室を開催しています。小さな額入り鏝絵づくりや「光る漆喰ボール」づくりなど、初心者でも楽しめるプログラムが用意されています。詳しくは記念館(電話:0766-55-3288)までお問い合わせください。事前予約がおすすめです。
Q写真撮影は可能ですか?
A館内の展示品は基本的に撮影可能ですが、特別展示など一部撮影不可の場合があります。訪問時にスタッフにご確認ください。
Qおすすめの訪問時期はありますか?
A屋内展示がメインですので、一年を通じて楽しめます。春は近くの下条川沿いの桜が美しく、秋は旧北陸道沿いの散策も快適です。また、特別イベントや企画展示も随時開催されていますので、公式サイトで最新情報をご確認の上お出かけください。

基本情報

名称 竹内源造記念館(旧小杉町役場庁舎)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)/平成26年(2014年)10月7日登録
竣工 昭和9年(1934年)
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積約219㎡
所在地 〒939-0351 富山県射水市戸破2289-1
所有者 射水市
開館時間 午前9時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日 月曜日(祝日の場合はその翌日の火曜日)、12月28日〜1月3日
観覧料 無料
アクセス あいの風とやま鉄道 小杉駅から徒歩約6分/北陸自動車道 小杉ICから車で約15分
お問い合わせ 電話:0766-55-3288

参考文献

竹内源造記念館(旧小杉町役場庁舎) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/287979
竹内源造記念館 — 鏝絵のまち小杉(小杉まちづくり協議会)
https://kotee.net/genzou/
鏝絵の名工竹内源造 — 鏝絵のまち小杉
https://kotee.net/kotee/
竹内源造記念館(旧小杉町役場庁舎) — とやまの文化遺産
https://toyama-bunkaisan.jp/search/2469/
旧小杉町役場(竹内源造記念館) — とやまの旅
https://www.toyatabi.com/kosugi/yakuba.html
竹内源造記念館 — いこまいけ高岡
http://takaoka.zening.info/Imizu/Modern_Building/Takeuchi-Genzo-memorial-hall.htm
鏝絵について — 竹内源造記念館公式サイト
https://genzou3288.com/%E9%8F%9D%E7%B5%B5%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/

最終更新日: 2026.03.03