1口の腰刀 ― 1952年に国宝

菊造腰刀〈刀身無銘伝当麻〉は、毛利博物館(山口県防府市多々良1-15-1)にある鎌倉時代の工芸品で、1933年(昭和8年)1月23日に重要文化財となり、1952年(昭和27年)3月29日に国宝に指定された。員数は1口、所有は公益財団法人防府毛利報公会である。

重要文化財となった1933年1月23日は、青井阿蘇神社と太刀〈銘三条(名物三日月宗近)〉が重要文化財となった日と同じである。

寸法は総長40.9センチメートル、中身長26.5センチメートル、元幅2.6センチメートルとされる。総長は拵を含めた長さ、中身長は刀身の長さである。刀〈金象嵌銘正宗本阿花押〉でも、拵込みと刀身の二つの寸法が示されていた。

名が、刀身ではなく外装から来ている

名称の「菊造」が何を指すかを確かめておきたい。

文化庁は、柄には赤銅魚々子地に枝菊を高彫りにし、と記す。菊は柄に彫られた文様である。

刀身のほうは、名称に刀身無銘伝当麻とある。銘がなく、当麻の作と伝えられているという意味になる。

名称の前半が外装の意匠、後半が刀身の伝承である。菊は刀身にはない。

太刀〈銘三条(名物三日月宗近)〉の三日月は刃に現れた模様、曜変天目茶碗の稲葉天目は所持者の家名だった。刀〈金象嵌銘正宗本阿花押〉は銘文の転記である。

本件は、外装に彫られた文様が名になっている。中身ではなく、包むもののほうが名を決めている。

名の由来である菊のうち、一つだけが後補である

品質・形状の欄の末尾に、短い注記がある。

銀色絵、銀小縁の筒金入り縁頭、小柄、笄、鐺は同作で、目貫の菊花のみ後補、とある。

目貫は柄に付ける金具をいう。その菊の花だけが、後から補われている。

縁頭、小柄、笄、鐺は同じ作者の手による。目貫だけが違う。

浄土寺多宝塔では、高欄が1732年に初めて設けられたと記されていた。あれは建物の一部が後から加わった例である。

本件は、名の由来である菊の一部が後補になる。菊造という名を支える意匠のなかに、後の時代のものが混じっている。

同じ名の腰刀が、東京国立博物館にもある

菊造腰刀という名の物件は、これだけではない。

東京国立博物館にも菊造腰刀があり、時代を南北朝から室町時代の14世紀から15世紀とする。本件は鎌倉である。

員数はどちらも1口である。名称が同じで、時代が違う。

催馬楽譜では、佐賀の国宝と東京国立博物館の重要文化財が同名で員数の単位まで違った。太刀〈銘正恒〉では同じ銘の刀が複数あった。

東京国立博物館の記録には、もう一つ目を引く点がある。解説文に「刀装@とうそう@」「合口造@あいくちづくり@」といった書き方が残っている。

読みを示す記法が、本文にそのまま出ている。阿高・黒橋貝塚ではファイル名が、蝶螺鈿蒔絵手箱ではローマ字が残っていた。記録の作り方が文面に現れる例は、これで数を重ねている。

鑑賞

所在は毛利博物館で、所有は公益財団法人防府毛利報公会である。館が保管する腰刀であり、常設で公開される性格のものではない。

評価も記される。鎌倉時代末の作とみられ、中世の軍記物などに散見する筒金入りの腰刀がこれにあたる。遺品が少なく、現存するこの種のもののうちで優品である、とある。

軍記物に書かれているものが、実物として残っている。文章に出てくる道具が、現物で確かめられることになる。

刀身についても、中身は、大和物に多い冠落造り、鍛えが柾目、沸出来の直刃を焼く。当麻作と伝えられ、鎌倉時代末期の典型的な大和物で健全である、とされる。

茎は生ぶで、元来無銘とある。削られておらず、はじめから銘がない。展示の予定は変わることがあるため、訪問前に館の案内で確認したい。

Q&A

Q菊造腰刀はいつ指定されましたか。
A1933年(昭和8年)1月23日に重要文化財、1952年(昭和27年)3月29日に国宝へ指定されました。員数は1口、所在は毛利博物館、所有は公益財団法人防府毛利報公会です。
Q「菊造」とは何を指すのですか。
A柄の意匠です。文化庁は「柄には赤銅魚々子地に枝菊を高彫りにし」と記します。菊は刀身にはなく、外装に彫られた文様が名称になっています。
Q後から補われた部分があるのですか。
Aあります。文化庁は「目貫の菊花のみ後補」と記します。縁頭、小柄、笄、鐺は同じ作者の手によりますが、目貫の菊だけが後の時代のものです。
Q寸法はどのくらいですか。
A総長40.9センチメートル、中身長26.5センチメートル、元幅2.6センチメートルです。総長は拵を含めた長さ、中身長は刀身の長さで、二つの寸法が示されています。
Q同じ名前の物件が他にもありますか。
Aあります。東京国立博物館の菊造腰刀は時代を南北朝から室町時代の14世紀から15世紀とします。本件は鎌倉で、名称が同じで時代が違います。

基本情報

名称菊造腰刀〈刀身無銘伝当麻〉(きくづくりこしがたな とうしんむめいでんたいま)/東京国立博物館の菊造腰刀は別の物件
所在地毛利博物館 山口県防府市多々良1-15-1
指定区分国宝(工芸品)
指定年1933年(昭和8年)1月23日 重要文化財/1952年(昭和27年)3月29日 国宝
員数1口
寸法総長40.9センチメートル、中身長26.5センチメートル、元幅2.6センチメートル。合口造りで柄と鞘はともに金梨子、柄には赤銅魚々子地に枝菊を高彫りにする。目貫の菊花のみ後補。刀身は冠落造、無反り、茎は生ぶで元来無銘。時代は鎌倉
所有者公益財団法人防府毛利報公会
公開状況館が保管する腰刀で、常設の公開ではない

参考文献

文化遺産オンライン 菊造腰刀〈刀身無銘伝当麻/〉
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/125544
文化遺産オンライン 菊造腰刀(東京国立博物館)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/553930
山口県 文化財データベース
https://bunkazai.pref.yamaguchi.lg.jp/sp/bunkazai/summary.asp?mid=70061
毛利博物館 公式サイト
https://mohri-museum.com/

最終更新日: 2026.09.05