重田家住宅:明治時代の農村繁栄を今に伝える貴重な文化遺産

香川県まんのう町、讃岐山脈北麓の山脇地区に佇む重田家住宅は、明治時代の上層農家建築を代表する貴重な遺構です。国の登録有形文化財として認定された6つの建造物群が、日本の近代化が進む転換期における四国農村部の豊かな暮らしぶりを今日に伝えています。

重田家住宅が建つ山脇は、古来より讃岐国と阿波国を結ぶ交通の要衝でした。金刀比羅宮参詣のための箸蔵街道が通り、春秋の農繁期には阿波から讃岐へ牛を貸し出す「借耕牛」の取引拠点として栄えた歴史があります。こうした地理的優位性が、この地域の農家に富をもたらしました。

歴史的背景:山道と交易が交差した地

山脇地区は讃岐山脈北麓の標高約140メートルに位置しています。この地は古くから阿波国(現在の徳島県)と讃岐国(現在の香川県)を結ぶ重要な交差点でした。金刀比羅宮と箸蔵寺を結ぶ「箸蔵街道」がこの地を通り、多くの参詣者で賑わいました。

昭和20年代まで、山脇は「借耕牛」の中継地点として繁栄しました。借耕牛とは、春と秋の農繁期に阿波の農家から讃岐の農家へ農耕用の牛を貸し出す習慣のことです。讃岐は平野部で稲作に適していましたが、牛を飼う草資源に乏しく、一方の阿波は山がちで稲作には不向きでしたが牧草が豊富でした。この両地域の特性を活かした相互扶助の仕組みが、山脇のような中継地点に繁栄をもたらしたのです。

重田家の初代は農業を営み、当初は現在の主屋東南角隅部に住居を構えていました。明治10年(1877年)に大規模な増築が行われ、さらに大正3年(1914年)には雪隠(トイレ)が増築され、現在の屋敷構えが完成しました。

登録有形文化財:6つの建造物群

平成15年(2003年)9月19日、重田家住宅の6つの建造物が国の登録有形文化財として登録されました。それぞれの建造物が、明治時代の上層農家の暮らしを物語っています。

主屋(しゅおく)

屋敷地中央北寄りに南面して建つ主屋は、木造平屋建てで建築面積158平方メートルを誇ります。現在は金属板葺きですが、元々は茅葺きでした。桁行7間(約12.7メートル)、梁間5間(約9.1メートル)規模の入母屋造りです。

内部は東方を「下手」とし、西方「上手」の南側に6畳、8畳、8畳の三室が配されています。南西隅の8畳間は仏間を兼ねた書院座敷として設えられ、西側には入側縁(廊下)が設けられています。

四周に庇を廻した「四方蓋(しほうぶた)農家」の好例として高く評価されており、この地域の上層農家建築の特徴を今に伝えています。

長屋門(ながやもん)

主屋の南方に東西棟として建つ長屋門は、入母屋造り、桟瓦葺きで、桁行8間規模、建築面積79平方メートルの堂々たる構えです。西方には8畳の座敷が配され、東寄りに門が開けられています。

外装は下部が腰海鼠壁(なまこかべ)、上部が黒漆喰塗りという格式高い仕上げです。両脇には真壁造り、瓦葺きの木造塀が従え、威厳ある佇まいを見せています。

通り沿いの石垣水路との間には前庭が設けられ、上層農家にふさわしい風格ある景観を形成しています。

取合廊下(とりあいろうか)

主屋座敷部と長屋門を結ぶ連絡廊下は、単なる通路としての機能だけでなく、主屋南面の広庭を東方の作業場と西方の庭園に分ける役割も担っています。

廊下幅は半間、桁行長8間規模で建築面積15平方メートル。真壁造りで白漆喰壁の上部には連子窓を開け、桟瓦葺きの切妻屋根を架けています。

廊下と庭塀を兼ねたこの構造は、農家建築としては極めて稀な屋敷構えであり、重田家住宅の特筆すべき特徴の一つとなっています。

土塀及び石垣擁壁(どべいおよびいしがきようへき)

屋敷地を守る外構は二つの要素で構成されています。西辺には高さ約1.5メートルの谷積石垣の上に高さ約2メートルの屋根付土塀が築かれ、東辺の斜面には高さ約2メートルの石垣擁壁が設けられています。

石垣沿いには水路が廻らされており、長屋門や道具蔵とともに、あたかも環濠屋敷を思わせる独特の屋敷景観を作り出しています。季節風からの保護と洪水対策という実用面と、美観の両方を兼ね備えた設計です。

建築的特徴と設計思想

重田家住宅の敷地は、山裾の傾斜地を約50メートル角の正方形に平坦に造成されています。東側と北側の小高い丘がちょうど屏風を立てたような形になり、季節風を防ぐ役目を果たしています。これは明治時代の建築者たちの周到な敷地計画を示すものです。

敷地の配置は伝統的な農家の原則に従っています。主屋は南向きで、元々は右側(西側)に釜屋(台所)と湯殿(浴室)があり、左側(東側)には道具蔵及び雪隠が接続しています。家の前には「カド」と呼ばれる広庭があり、屋外の作業場として農作業を支えてきました。

長屋門の存在は、この住宅が上層農家であることを如実に物語っています。このような立派な門構えは、相応の富と社会的地位を持つ家にのみ許されるものでした。実用性と美意識が見事に融合した、明治時代の農村繁栄を象徴する建築群といえます。

重田家住宅を訪れる

重田家住宅は、一般的な観光ルートから離れた場所で、明治時代の農村生活を体感できる貴重な機会を提供しています。個人所有の住宅であるため、見学の際は敬意を持って公道からご覧いただくか、まんのう町教育委員会を通じて事前にご相談ください。

周辺の山脇地区は今も農村の風情を色濃く残しており、棚田や伝統的な農家建築が明治時代からほとんど変わらない風景を織りなしています。春には桜が丘陵を彩り、秋には讃岐山脈が鮮やかな紅葉に包まれます。

周辺の観光スポット

重田家住宅への訪問と合わせて、まんのう町およびその周辺の観光スポットも楽しむことができます。

  • 国営讃岐まんのう公園:四国唯一の国営公園。広大な花畑、キャンプ施設、サイクリングコースなどが整備されています。11月から1月にかけてのイルミネーションイベントは中四国最大規模です。
  • 満濃池:日本最大の灌漑用ため池。8世紀に築造され、弘法大師空海によって改修されたと伝えられています。日本初の国指定名勝のため池として知られています。
  • 金刀比羅宮:「こんぴらさん」の愛称で親しまれる日本有数の参詣地。本宮まで785段の石段が有名です。山脇はかつての参詣道沿いに位置しています。
  • 箸蔵寺:「こんぴらさんの奥の院」として知られる真言宗寺院。箸蔵街道で山脇と結ばれていました。
  • 塩入温泉:地下500メートルから湧出する天然温泉。文化探訪の後のリラクゼーションに最適です。

Q&A

Q重田家住宅の建物内部を見学できますか?
A重田家住宅は個人所有の住宅であり、一般公開はされていません。外観は公道からご覧いただけます。特別見学やグループツアーをご希望の場合は、事前にまんのう町教育委員会生涯学習課までお問い合わせください。
Q重田家住宅へのアクセス方法を教えてください。
A重田家住宅はまんのう町山脇地区にあります。琴平駅から琴南方面へのバスまたはタクシーをご利用ください。山間部のため公共交通機関は限られており、お車でのアクセスが便利です。
Q訪問に最適な季節はいつですか?
A春(4〜5月)は穏やかな気候と桜が楽しめ、秋(10〜11月)は讃岐山脈の美しい紅葉が見頃です。夏に訪れる場合は、まんのう町内のひまわり畑と合わせて観光するのもおすすめです。
Q「借耕牛」とは何ですか?なぜ重要だったのですか?
A借耕牛は江戸時代中期から昭和40年代まで続いた、徳島と香川の農家間で行われた牛の貸し借りの習慣です。讃岐の農家は田植えや収穫のために牛を借り、対価として米を支払いました。山脇はこの取引の重要な中継地点として栄え、重田家のような地元の農家に繁栄をもたらしました。
Q駐車場はありますか?
A重田家住宅専用の駐車場はありません。周辺道路での駐車は地元住民のご迷惑となりますので、お車でお越しの際は近隣の公共駐車場をご利用ください。詳細はまんのう町教育委員会にお問い合わせください。

基本情報

名称 重田家住宅(しげたけじゅうたく)
指定区分 国登録有形文化財(6件)
登録年月日 平成15年(2003年)9月19日
建築年代 明治10年(1877年)、大正3年(1914年)増築
所在地 香川県仲多度郡まんのう町山脇字上平534
登録建造物 主屋、長屋門、取合廊下、道具蔵及び雪隠、米蔵、土塀及び石垣擁壁
主屋の仕様 木造平屋建、金属板葺(元茅葺)、建築面積158㎡、袖塀付
お問い合わせ まんのう町教育委員会 生涯学習課
電話:0877-89-7020

参考文献

重田家住宅主屋他5件 - まんのう町の文化財
https://www.town.manno.lg.jp/site/bunkazai/4511.html
重田家住宅主屋 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/139398
重田家住宅長屋門 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/194629
重田家住宅取合廊下 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/168942
重田家住宅土塀及び石垣擁壁 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/183543
借耕牛(かりこうし) - まんのう町の文化財
https://www.town.manno.lg.jp/site/bunkazai/1448.html
まんのう町 - 「日本で最も美しい村」連合
https://utsukushii-mura.jp/map/mannou-kotonami_tyuunan_nagasumi/

最終更新日: 2026.01.27

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