二ノ宮窯跡:大水上神社に眠る中世の瓦焼きの記憶

香川県三豊市、讃岐国二宮として知られる大水上神社(おおみなかみじんじゃ)の境内に、国指定史跡「二ノ宮窯跡(にのみやかまあと)」があります。大正14年(1925年)に発見され、昭和7年(1932年)に国の史跡に指定されたこの遺跡は、平安時代後期から鎌倉時代にかけて使われた2基の窯の跡で、当時の瓦や陶器の製造技術を今に伝える貴重な文化財です。

深い社叢に抱かれた静寂の中で、かつて職人たちが瓦や硯を焼いていた営みの跡に触れることは、四国の知られざる歴史の深さを実感させてくれます。観光客で賑わう有名スポットとは異なる、本物の文化体験を求める方にこそ訪れていただきたい場所です。

発見と史跡指定の経緯

二ノ宮窯跡は、大正14年(1925年)に大水上神社境内の丘陵西麓において2基の窯跡として発見されました。この発見は、三豊地域が古くから瓦の一大生産地であったことを裏付ける重要な考古学的発見でした。発見から7年後の昭和7年(1932年)4月25日、その歴史的・学術的価値が認められ、国の史跡に指定されています。

窯が稼働していたのは平安時代後期から鎌倉時代にかけてと推定されており、この時代は日本各地で寺社建築が盛んに行われ、屋根瓦の需要が大きく高まった時期にあたります。三豊地域では、飛鳥時代に藤原宮の瓦を焼いた宗吉瓦窯跡(国指定史跡、窯数24基は当時日本最多)が知られていますが、二ノ宮窯跡はそれよりも後の時代の瓦生産を伝える遺跡として、地域の窯業史における重要な位置を占めています。

2基の窯の構造

二ノ宮窯跡には、形状も構造も異なる2基の窯が残されています。いずれも覆屋(おおいや)で保護されており、内部に立ち入ることはできませんが、覗き窓から窯の様子を観察することができます。

第一窯は略円形(楕円形)をしており、焚き口は北に向いています。底部には6つの造付台(ぞうつけだい)があり、その間の通火溝(つうかこう)が葉脈状に配置されています。傾斜を利用して熱を上方に導く構造から、「登り窯」の一種と考えられています。

第二窯は第一窯の西北約12メートル(約40尺)の地点にあり、方形をしています。焚き口は東北を向き、底部には2つの造付台が水平に配置されていることから「平窯」と呼ばれています。

同一の遺跡に登り窯と平窯という異なるタイプの窯が併存している点は注目に値し、ここの職人たちが製品の種類や用途に応じて焼成方法を使い分けていたことを示唆しています。

出土遺物の魅力

二ノ宮窯跡からは、当時の工芸技術の水準の高さを物語る多様な遺物が出土しています。

代表的な出土品は、忍冬唐草文(にんどうからくさもん)や互生葉文の軒平瓦(のきひらがわら)です。忍冬(スイカズラ)の蔓が優美に絡み合う唐草文様は、大陸から伝わった装飾技法を讃岐の職人が自らの手で表現したものであり、中世の美意識を今に伝えています。また、三ツ巴文(みつどもえもん)の軒丸瓦も出土しており、神社仏閣の建築に用いられた瓦であることがわかります。

屋根瓦だけでなく、杯(つき)や硯(すずり)といった日用品も出土しており、この窯が寺社建築の資材供給だけでなく、地域の人々の暮らしを支える窯業の拠点であったことがうかがえます。

国指定史跡としての価値

二ノ宮窯跡が国の史跡に指定された背景には、いくつかの重要な学術的価値があります。まず、平安時代後期から鎌倉時代にかけての四国地方における瓦・陶器製造技術の実態を直接的に示す遺跡であること。次に、讃岐国二宮という格式高い神社の境内に立地しており、中世における宗教施設と工芸生産の密接な関係を物語っていること。そして、装飾性の高い軒瓦から実用的な日用品まで多様な出土品が、窯の生産活動と地域社会の姿を総合的に示していることが挙げられます。

近隣の宗吉瓦窯跡(飛鳥時代、7世紀)と合わせて考えると、三豊地域が数世紀にわたって日本有数の瓦生産地であったことが明らかになり、二ノ宮窯跡はその歴史の重要な一章を担っています。

大水上神社:悠久の聖地

二ノ宮窯跡が位置する大水上神社は、それ自体が深い歴史と霊気を湛えた聖地です。創建は弥生時代とも古墳時代とも伝えられ、延喜式神名帳に讃岐国二宮として記載されています。水の神・龍神として古来より崇敬され、干ばつの際には雨乞い神事が行われてきました。

境内は昼でも薄暗いほどの鬱蒼とした社叢に包まれ、「まるでジブリの世界のよう」と形容されることもあります。境内を流れる宮川は香川の水環境に認定された美しい渓流で、岩畳の上を清らかな水が流れる姿は訪れる人の心を癒してくれます。雨乞い神事の舞台であった「うなぎ淵(竜王淵)」、古代の御神体である磐座(いわくら)、南北朝時代(1346年)建立の時雨燈籠(県指定有形文化財)なども見どころです。

また、弘法大師・空海が入唐前に参拝し、三神と問答和歌を詠んだという伝説も残されています。元暦元年(1184年)の源平合戦の際には、源氏と平氏の双方が願文を奉納したと伝わり、歴史の厚みを感じさせます。

見どころと楽しみ方

二ノ宮窯跡と大水上神社の訪問は、日本の歴史と自然が重層的に織りなす空間を体感する旅となります。県道沿いの一の鳥居から参道に入り、宮川のせせらぎを聞きながら境内へと進みましょう。参道の脇にはかつて全国2位の大きさを誇るとされるネズの木(県指定天然記念物)が立っています。

本殿で参拝した後、社殿の右手奥に進むと窯跡に到着します。日本語の案内板で窯の歴史や出土品について知ることができます。覆屋の中の窯を覗くと、千年近い時を経てなお残る造付台や通火溝の構造を確認でき、往時の職人の技に思いを馳せることができます。

周辺の高瀬地区は高瀬銘茶の産地として知られ、4月下旬には「高瀬二ノ宮ふる里まつり」が開催され、茶畑を巡るウォーキングを楽しむことができます。初夏にはホタルの鑑賞スポットとしても知られ、四季折々の魅力があります。

周辺情報

三豊市とその周辺には、二ノ宮窯跡と合わせて訪れたい文化・観光スポットが点在しています。

  • 宗吉かわらの里展示館(宗吉瓦窯跡史跡公園):飛鳥時代に藤原宮の瓦を焼いた24基の窯跡を紹介する展示館。車で約20分。復元模型や出土品の展示、粘土工作体験もあります。開館9:00〜17:00、月曜休館。入館料:大人100円。
  • 父母ヶ浜(ちちぶがはま):「日本のウユニ塩湖」と称される絶景ビーチ。干潮時の夕暮れに水面に映る鏡のような景色で知られます。車で約25分。
  • 金刀比羅宮(ことひらぐう):「こんぴらさん」の愛称で親しまれる海の守り神。1,368段の石段で有名。車で約30分。
  • 四国八十八箇所霊場:三豊市周辺には第67番札所・大興寺、第70番札所・本山寺など、お遍路の名刹があります。

Q&A

Q窯の中に入って見学することはできますか?
A窯跡は覆屋で保護されており、内部への立ち入りはできません。ただし、覗き窓から窯の構造を観察することは可能です。近くに設置された案内板で、窯の歴史や出土品について知ることができます。
Q拝観料や入場料はかかりますか?
A二ノ宮窯跡は大水上神社の境内にあり、見学は無料です。神社の参拝も無料で、駐車場も無料でご利用いただけます。
Q公共交通機関でのアクセス方法は?
AJR予讃線・高瀬駅から三豊市コミュニティバス(財田高瀬線)に乗車し、「大水上神社」バス停で下車してすぐです。バスの本数が限られているため、事前に時刻をご確認ください。お車の場合は、高松自動車道さぬき豊中ICから約15分、三豊鳥坂ICから約20分です。
Q見学にはどのくらいの時間がかかりますか?
A窯跡だけの見学であれば15〜20分程度ですが、大水上神社の境内全体(うなぎ淵、磐座、千五百皇子社など)を散策すると、1時間〜1時間半ほどかかります。静かな森の中でゆっくりと過ごされることをおすすめします。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A通年で見学可能ですが、特におすすめは春(4月下旬、茶畑ウォーキングイベント開催時期)と初夏(6月、ホタル鑑賞の時期)、秋(紅葉が社叢を彩る時期)です。夏は蒸し暑いですが、境内の木陰は涼しく、避暑にもなります。

基本情報

名称 二ノ宮窯跡(にのみやかまあと)
文化財指定 国指定史跡(昭和7年〈1932年〉4月25日指定)
時代 平安時代後期〜鎌倉時代(12〜13世紀頃)
発見 大正14年(1925年)
所在地 香川県三豊市高瀬町羽方 大水上神社境内
アクセス JR高瀬駅から車で約20分/高松自動車道さぬき豊中ICから約15分
拝観料 無料
駐車場 あり(無料、大水上神社参拝者駐車場)
主な出土品 忍冬唐草文軒平瓦、三ツ巴文軒丸瓦、杯、硯

参考文献

二ノ宮窯跡 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/217519
大水上神社 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B0%B4%E4%B8%8A%E7%A5%9E%E7%A4%BE
大水上神社(おおみなかみじんじゃ) – 三豊市観光交流局
https://www.mitoyo-kanko.com/facility/ominakami-shrine/
二ノ宮の瓦窯跡 – 全国観光情報サイト 全国観るなび
https://www.nihon-kankou.or.jp/kagawa/detail/37421af2170019689
大水上神社 – 三豊市公式サイト
https://www.city.mitoyo.lg.jp/kakuka/seisaku/sangyo/14_1/4/819.html
【三豊の文化財】二ノ宮の窯跡(国指定史跡) – 週刊みとよ ほんまモンRadio!
http://mitoyo-honmamon.seesaa.net/article/462275038.html
宗吉かわらの里展示館 – 三豊市観光交流局
https://www.mitoyo-kanko.com/facility/muneyoshi-exhibition-hall/

最終更新日: 2026.03.11