天孫降臨の地に佇む、鹿児島初の国宝建造物

鹿児島県霧島市の山懐に抱かれた霧島神宮は、2022年2月9日、その本殿・幣殿・拝殿が国宝に指定されました。これは鹿児島県内の建造物としては初めての国宝指定であり、日本の神社建築史において極めて重要な意味を持つ出来事となりました。

6世紀頃の創建と伝えられる霧島神宮は、日本神話の天孫降臨の舞台となった高千穂峰を背後に仰ぎ、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)をはじめとする日向三代の神々を祀る、日本でも数少ない「神宮」号を持つ格式高い神社です。

300年の時を超えて輝く、極彩色の社殿建築

現在の社殿は、1715年(正徳5年)に薩摩藩第4代藩主・島津吉貴によって寄進されたもので、約300年の歳月を経てもなお、その豪華絢爛な姿を保ち続けています。

霧島神宮の建築最大の特徴は、自然の傾斜地を巧みに利用した独特の配置にあります。勅使殿から登廊下を通り、拝殿、幣殿を経て、最も高い位置に本殿を構える構成は、まるで天に向かって昇っていくような荘厳な空間演出を生み出しています。この高低差を活かした躍動感あふれる建築構成は、他の神社では見られない霧島神宮独自の魅力です。

朱塗りの社殿には、至る所に精緻な彫刻と極彩色の装飾が施されています。本殿の内部には、中国の故事「二十四孝」や「琴棋書画」の絵画が描かれ、欄間には唐獅子や奏楽天女の彫刻が配されています。その華麗さから「西の日光」とも称される霧島神宮は、江戸時代中期の神社建築装飾の集大成として、日本の建築史上極めて重要な位置を占めています。

東アジアの文化が息づく、唯一無二の龍柱

霧島神宮を国宝たらしめている最も重要な要素の一つが、本殿正面の向拝柱に施された「龍柱」です。瑞雲がなびく中を二頭の龍が巻き付くように彫刻されたこの柱は、右側の龍が口を開き、左側の龍が口を閉じて玉を持つ「阿吽」の形を成しています。

龍柱は東アジア圏に広く分布する装飾様式ですが、日本の神社建築においては南九州の一部にのみ見られる極めて地域性の高い意匠です。霧島神宮の龍柱は、その立体的な造形と鮮やかな彩色において最も完成度が高く、沖縄や中国の文化的影響を受けながら、薩摩藩独自の地方色として昇華された貴重な文化財となっています。

この龍柱様式は、後に鹿児島神宮や蒲生八幡神社など周辺の神社建築にも影響を与え、南九州の社寺建築文化の発展に大きく貢献しました。

年間100を超える祭事が織りなす、生きた信仰の場

霧島神宮は単なる文化財ではなく、今も生きた信仰の場として、年間約100もの祭事が執り行われています。特に天孫降臨の故事にちなんだ「お田植祭」は、瓊瓊杵尊が初めて水稲を作ったという伝承に由来する300年の歴史を持つ祭りで、鹿児島県の無形民俗文化財に指定されています。

また、霧島神宮に伝わる「九面(くめん)」と呼ばれる九つの面は、魔除けや災難除けのご利益があるとされ、「工面」に通じることから物事がうまく進む縁起物として親しまれています。これらの伝統は、霧島神宮が長い歴史の中で育んできた独自の信仰文化を今に伝えています。

霧島の大自然が織りなす、四季折々の絶景

霧島神宮の魅力は建築物だけにとどまりません。境内を包む豊かな自然は、四季を通じて訪れる人々を魅了します。特に11月上旬から中旬にかけての紅葉シーズンは、国道223号線(日本の道百選選定)沿いの紅葉と朱塗りの社殿が織りなすコントラストが絶景を生み出します。

境内には樹齢800年を超える御神木の杉があり、その根元には「さざれ石」と呼ばれる岩があります。これは国歌「君が代」にも歌われる石で、小さな石が長い年月をかけて一つの大きな岩となったもので、永遠の繁栄を象徴する縁起物として信仰されています。

また、霧島神宮から山手に5分ほど歩いた場所には、木花咲耶姫の父神・大山祇神を祀る山神社があり、静寂な古道を歩きながら、より深い霧島の神域を体験することができます。

温泉と共に楽しむ、霧島観光の拠点

霧島神宮の周辺には、霧島温泉郷が広がり、多様な泉質の温泉を楽しむことができます。硫黄泉、単純泉、明礬泉など11種類もの温泉が湧出する霧島は、九州有数の温泉地として知られています。

神宮から車で約15分の距離には、温泉水が流れ落ちる珍しい「湯の滝」である丸尾滝があり、高さ23メートル、幅16メートルの迫力ある姿は、夜間のライトアップでは幻想的な美しさを見せます。

また、霧島は幕末の英雄・坂本龍馬が妻のお龍と日本初の新婚旅行を行った地としても知られ、「ハネムーンの聖地」として、カップルや夫婦にも人気の観光地となっています。

Q&A

Q霧島神宮の社殿を見学する最適な時期はいつですか?
A紅葉シーズンの11月上旬から中旬が特に美しく、朱塗りの社殿と紅葉のコントラストが絶景を生み出します。また、年間を通じて参拝可能ですが、新年や例祭時は混雑が予想されますので、ゆっくり見学されたい場合は平日の午前中がおすすめです。
Q国宝の本殿内部は見学できますか?
A通常は本殿内部の一般公開はしていませんが、年に数回、限定特別拝観日が設けられることがあります。最新情報は霧島神宮の公式サイトでご確認ください。なお、勅使殿での参拝は常時可能です。
Q霧島神宮へのアクセス方法を教えてください。
AJR日豊本線「霧島神宮駅」からバスで約15分、鹿児島空港からはバスで約1時間です。車の場合は九州自動車道「横川IC」から約40分、「溝辺鹿児島空港IC」からも約40分です。
Q霧島神宮の龍柱はなぜ貴重なのですか?
A龍柱は日本の神社建築では極めて珍しく、南九州の一部にのみ見られる装飾です。霧島神宮の龍柱は1715年の造営当時のもので、その立体的な造形と極彩色の美しさは他に類を見ません。東アジアの文化的影響と薩摩藩独自の美意識が融合した、文化交流の証としても重要な価値があります。

基本情報

名称 霧島神宮
所在地 鹿児島県霧島市霧島田口2608-5
創建 6世紀頃(欽明天皇の御代)
現社殿造営 正徳5年(1715年)
造営者 島津吉貴(薩摩藩第4代藩主)
国宝指定 令和4年(2022年)2月9日
主祭神 瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)
建築様式 入母屋造り銅板葺き(本殿)
本殿規模 正面5間、奥行4間
アクセス JR霧島神宮駅からバス約15分

参考文献

霧島神宮公式サイト - 国宝指定記念ページ
https://kirishimajingu.or.jp/national-treasure/
サライ.jp - 祝!鹿児島の建築初「霧島神宮の社殿」が国宝に指定された理由
https://serai.jp/hobby/1099072
霧島市公式サイト - 指定文化財の概要【霧島】
https://www.city-kirishima.jp/bunka/kyoiku/rekishi/bunkazai/shitebunkazai/bunka-kirishima.html
鹿児島県観光サイト - 霧島神宮
https://www.kagoshima-kankou.com/guide/10113
千年帳 - 霧島神宮の国宝社殿と天孫降臨伝説ゆかりの御朱印
https://sennencho.jp/kirishimajingu-goshuin

最終更新日: 2025.10.26

近隣の国宝・重要文化財