大きいほうの水槽と、道路の下の石造アーチ

九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンクは、鹿児島県霧島市牧園町宿窪田にある大正10年(1921年)築の石造水槽で、平成23年(2011年)1月26日に登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号46-0094、種別は「その他工作物」、面積は478平方メートルである。

位置は石造の本館の背後、急斜面のなかでも1号機ヘッドタンクより低いところにあたる。上の水槽が小ぶりな円筒であるのに対し、こちらは平面が矩形。壁は同じく石を階段状に積み上げてつくられている。水は本館の前を流れる天降川から取り込み、二本の水圧鉄管を通じて2号機と3号機へ送られる。

ただ、この物件でいちばん見るべきものは水槽そのものではない。鉄管が道路を横切る地点である。管は道の下を抜けており、その上を通す道路を、石工たちは石造のアーチで受けている。気づかずに踏んで通り過ぎてしまうような小さな仕事だ。そしてこの発電所がどの建築の系譜から来たのかを、いちばんはっきり示している部分でもある。

大正10年に、なぜアーチだったのか

1920年代であれば、この種の暗渠は鉄筋コンクリートで造るのが普通だった。材料は手に入り、手間は少なく、施工も速い。妙見の石工たちは、そうせずに切石でアーチを組んだ。

鹿児島は石造アーチ橋の技術が日本でもとくに厚く蓄積した土地である。島津藩の時代から明治期にかけて、この地方の石工は各地の川に石橋を架け、地元の溶結凝灰岩を輪石に加工して、圧縮の力だけで道を渡してきた。コンクリートが入ってきたからといって、その知識が消えたわけではない。大正10年に雇える職人の手の中に、それはまだ生きていた。電力会社が「管の上に道を通したい」と言ったとき、地元の職人がいちばん上手にできる方法がアーチだった、ということになる。

日本の近代化は、木と石から鉄とコンクリートへの整然とした交代として語られやすい。この小さなアーチはその筋書きにうまく収まらない。時代の最先端にあった電気技術が、前の時代から引き継がれた手仕事によって、隣の火山から切り出した石で建てられている。順番が混ざっているところが面白い。

景観に寄与するものとして登録された

登録有形文化財は、重要文化財の指定とは別の制度である。平成8年(1996年)に始まり、現状変更に許可ではなく届出を求める緩やかな規制のもとに、現役で使われている近代の構造物を置くための枠組みだ。この水槽は、その想定にそのまま当てはまる。登録基準は三つあり、妙見に適用されたのは「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。

この基準は、ここでは文字どおりに受け取っておきたい。文化庁のこの物件の解説文は、末尾で「本館と一連の石造タンクが残り、歴史的景観をつくる」と述べている。評価されているのは、大正10年の水槽が古いという事実ではない。川に面した本館、低い位置の矩形の水槽、高い位置の円筒形の水槽、それらを結ぶ水圧鉄管、道路下のアーチが揃って残っていること、そしてその全体が散在する遺構ではなく、動いている風景として読めることである。

平成23年1月26日には三件が同時に登録された。本館が46-0092、1号機ヘッドタンクが46-0093、この水槽が46-0094。三つの解説文を順に読むと、どれか一つを読むよりもこの場所の姿がよく見えてくる。

斜面を読む

上の水槽の六倍以上の面積を持ち、形は円ではなく矩形。この違いは役割の違いから来ている。こちらは二基の発電機に水を送り、水源は1号機の中津川より流量の大きい天降川である。緩衝すべき水の量が多く、常に満たしておくべき鉄管が二本あり、斜面にかかる荷重を広く分散させる必要がある。

矩形という平面は、地形との相性でも理にかなっている。急斜面では、長辺を等高線に沿わせた細長い水槽のほうが、同じ容量の円形水槽より山を削る量が少ない。階段状に積んだ石も、両側の擁壁工事と直接つなぎやすい。意匠の判断というより、地面の読み方の結果に見える。

水の道を辿ると、この敷地の立体図が頭の中に残る。二つの川に二つの取水口。二つの高さに、円と矩形の二つの水槽。斜面を落ちる鉄管、うち一本は150メートルを超える。そして最下部、川に接して溶結凝灰岩の本館が建ち、三条の放水路が水を天降川に返す。構成要素はすべて石か鉄で、そのすべてが今も当初の役目を続けている。

訪ねる場合の実際

稼働中の発電所に付属する社有地であり、一般公開も入場料も公開時間の設定もない。多くの訪問者にとっての視点場は、鉄管を跨いで通る道路になる。公道からの撮影に制限はない。斜面に踏み込むこと、水槽に近づくことは別の話で、九州電力への事前の許可が前提になる。

所在地は牧園町、妙見温泉に近い天降川沿いである。住所の印象より交通は良い。鹿児島空港から車で約15分、九州自動車道の溝辺鹿児島空港インターチェンジからも同程度。公共交通ではJR日豊本線の隼人駅から妙見路線バスで約17分、JR肥薩線の嘉例川駅から約10分。国分駅と鹿児島空港を結ぶ空港連絡バスも妙見温泉に停車する。

写真を撮って立ち去るには惜しい谷である。天降川のこの一帯の宿は川岸の自然湧出泉を引いており、11月には渓谷が色づく。初夏には鮎釣りの人が浅瀬に立つ。本殿が重要文化財の霧島神宮も車で行ける範囲にあり、バスで10分の嘉例川駅は明治36年(1903年)の木造駅舎でこちらも登録有形文化財である。道路下の小さなアーチを生んだ石橋の技術そのものを追いたければ、県内には辿れる橋がいくつも残っている。

Q&A

Q九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンクは、1号機ヘッドタンクとどう違うのですか。
A同じ斜面のより低い位置にあり、平面は矩形で面積478平方メートル。円筒形で76平方メートルの1号機ヘッドタンクより六倍以上大きく、二基の発電機に水を送ります。取水源も異なり、こちらは天降川から、1号機は中津川から取水しています。
Q九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンクの石造アーチとは何ですか。
A水槽から下る水圧鉄管が道路の下を通る箇所に設けられ、道路を管の上に渡すための石造のアーチです。コンクリートではなく切石で組まれており、鹿児島に厚く蓄積した石橋の技術を背景に持つ、この登録三件のなかでも特徴的な部分です。
Q九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンクは見学できますか。料金は?
A稼働中の発電所に属する社有地内にあるため一般公開はされておらず、入場料や公開時間もありません。鉄管を跨ぐ道路からの眺めが通常の視点で、公道からの撮影は自由です。それ以上の接近には九州電力への事前連絡が必要です。
Q九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンクはいつ、どの基準で登録されましたか。
A平成23年(2011年)1月26日、第69回登録で登録番号46-0094です。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。文化庁の解説文は、本館と一連の石造タンクが残って歴史的景観をつくっている点を挙げています。
Q九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンクへのアクセスを教えてください。
A車なら鹿児島空港、または九州自動車道の溝辺鹿児島空港インターチェンジから約15分です。公共交通ではJR日豊本線の隼人駅から妙見路線バスで約17分、JR肥薩線の嘉例川駅から約10分。国分駅と鹿児島空港を結ぶ空港連絡バスも妙見温泉に停車します。

基本データ

名称九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンク(きゅうしゅうでんりょくみょうけんはつでんしょにごうきおよびさんごうきへっどたんく)
所在地鹿児島県霧島市牧園町宿窪田字葉切4224-6
指定区分登録有形文化財(建造物)/登録番号 46-0094/第69回登録/種別:生活関連・その他工作物/登録基準:国土の歴史的景観に寄与しているもの
指定年平成23年(2011年)1月26日登録
員数1基
寸法石造、面積478平方メートル。石を階段状に積み上げた矩形の水槽、水圧鉄管の道路下通過部に石造アーチ
所有者九州電力株式会社
公開状況非公開(稼働中の発電所の社有地内)。建設年は大正10年(1921年)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンク
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008607
かごしま文化財事典プラス/九州電力妙見発電所2号機及び3号機ヘッドタンク
https://k-bunkazai.com/cultural/f-q-60092/
国指定文化財等データベース(文化庁)/九州電力妙見発電所本館
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008605
国指定文化財等データベース(文化庁)/九州電力妙見発電所1号機ヘッドタンク
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008606
鹿児島県観光サイト/妙見温泉
https://www.kagoshima-kankou.com/guide/10128

最終更新日: 2026.07.30