建部駅:明治時代へのタイムトリップ

岡山県を走るJR津山線の沿線に、明治時代から変わらぬ姿で旅人を迎え続ける駅があります。1900年(明治33年)に建設された建部駅は、125年以上の歴史を刻みながら、今なお現役の駅として使用されている貴重な木造駅舎です。観光客で賑わう有名スポットとは一味違う、日本の鉄道遺産の魅力を静かに伝えるこの駅は、歴史と郷愁を求める旅行者にとって、忘れられない体験を提供してくれます。

建部駅の歴史的背景

中国鉄道株式会社が岡山と津山を結ぶ路線を開通させたのは1898年(明治31年)のことでした。この路線は、岡山県の南部と北部を結ぶ重要な交通手段として、地域の発展に大きく貢献してきました。建部駅は、その開通から2年後の1900年(明治33年)4月14日、地元住民からの強い要望と寄付金によって「請願駅」として誕生しました。地域の人々の熱意によって建設されたという経緯は、この駅と地域コミュニティとの深い絆を物語っています。

その後、1944年(昭和19年)に国有化され国有鉄道津山線の駅となり、1987年(昭和62年)の国鉄民営化に伴いJR西日本の駅となりました。こうした変遷を経ながらも、開業当初の木造駅舎は大切に保存され続け、2006年(平成18年)3月2日には国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。

建築的特徴と見どころ

建部駅の駅舎は、明治期の鉄道建築を代表する木造平屋建ての建物です。切妻造りの屋根にはセメント瓦が葺かれ、建築面積は約84平方メートル。桁行7間、梁行3間の規模を持ち、機能性と日本の伝統的美意識を調和させた設計となっています。

外壁は二段構成が特徴的で、腰壁部分には堅羽目板が貼られ、上部には白漆喰が塗られています。基礎には花崗岩の切石が回され、幾星霜を経た沓石は多くの人々の足元で磨かれ、光沢を放っています。木製の建具が嵌められた窓からは、柔らかな光が内部に差し込みます。

特筆すべきは、内部の保存状態の良さです。一文字型の小荷物扱口や出札口の窓口カウンターなど、開業当初の姿がそのまま残されており、往時の鉄道旅行の雰囲気を今に伝えています。駅舎ホーム側の柱上部には、建設年代を記した小さな標識「建物財産標」が貼り付けられていますので、訪れた際にはぜひ探してみてください。

登録有形文化財に指定された理由

建部駅が登録有形文化財に指定された背景には、いくつかの重要な価値が認められています。まず、津山線において開業当初の姿を残す数少ない駅舎の一つとして、日本の初期鉄道発展の貴重な記録となっています。屋根瓦がセメント瓦に改変されている以外は、1900年の建設当時の構造をほぼ忠実に保っています。

また、「請願駅」という成り立ちも、この駅舎の文化的価値を高めています。地域住民が資金を出し合い、自らの手で交通インフラを整備するという、日本独特の鉄道発展のあり方を象徴する存在として、建部駅は今日も静かにその歴史を語り継いでいます。

映画「カンゾー先生」のロケ地として

建部駅は、1998年公開の映画「カンゾー先生」のロケ地としても知られています。監督は「楢山節考」(1983年)と「うなぎ」(1997年)でカンヌ国際映画祭パルムドールを二度受賞した今村昌平。今村監督は、この駅舎の明治時代の雰囲気をいたく気に入り、撮影地に選んだと伝えられています。

映画は坂口安吾の短編小説「肝臓先生」を原作とし、戦時下の岡山県を舞台に、「カンゾー先生」と呼ばれる献身的な町医者の姿を描いた人間喜劇です。柄本明、麻生久美子、松坂慶子らが出演し、第51回カンヌ国際映画祭の特別招待作品にも選ばれました。映画ファンにとっては、作品の世界観を追体験できる聖地としての魅力も加わります。

周辺の魅力スポット

建部駅は、自然豊かな建部地区への玄関口として最適な場所に位置しています。この地域は「福」にまつわる縁起の良い地名が多いことでも知られ、近隣の「福渡」や旭川に架かる「しあわせ橋」など、幸運を招くパワースポットとして親しまれています。しあわせ橋は、過去に3度も流されながらも復活を遂げた幸運の橋として、地元のシンボルとなっています。

リラクゼーションを求めるなら、たけべ八幡温泉がおすすめです。アルカリ性単純温泉で、少しぬるめのお湯が特徴。源泉かけ流しの温泉で、大浴場、露天風呂、サウナ、家族風呂を完備しています。テラス席からは目の前を流れる旭川と建部の山々を見渡すことができ、絶景を眺めながらの食事も楽しめます。

家族連れには、環境学習センター「めだかの学校」がおすすめです。メダカをはじめとする水辺の生物を通じて、自然の大切さを学べる体験型施設で、隣接する旭川ミニ淡水魚水族館では約30種類以上の魚たちを観察できます。また、「建部ヨーグルト」工場では、建部町の牧場から運ばれた生乳100%で作る無添加ヨーグルトが人気で、ここでしか味わえないヨーグルトソフトクリームは必食です。

歴史に興味のある方は、七社八幡宮を訪れてみてください。毎年10月に行われる「建部祭」は岡山県指定重要無形民俗文化財で、近隣8社の神輿が一堂に会する勇壮な祭りです。神社脇からは「たけべ古道」のハイキングコースが始まり、眼下に広がる町の絶景を楽しみながら散策できます。

訪問のご案内

建部駅は、JR津山線の岡山駅と津山駅のほぼ中間に位置しています。岡山駅からは普通列車で約40〜45分。車窓からは岡山の豊かな田園風景を楽しむことができます。駅は無人駅となっていますので、乗車の際は精算機をご利用ください。

建部地区では、無料のレンタサイクルサービスを実施しています。たけべ八幡温泉と北区役所建部支所・建部町公民館に自転車が設置されており、自転車で気軽に周辺スポットを巡ることができます。ショートコース(約4.43km、所要時間約45分)とロングコース(約11〜12km、所要時間約90分)が用意されていますので、体力や時間に合わせてお選びください。

春は桜、夏は新緑と鮎、秋は紅葉、冬は静寂の中で歴史を感じる時間と、四季折々の魅力があります。どの季節に訪れても、建部ならではの発見があることでしょう。

Q&A

Q建部駅は現在も使用されていますか?
Aはい、建部駅はJR津山線の現役の駅として使用されています。岡山と津山を結ぶ列車が定期的に停車します。無人駅ですが、運賃精算機で乗車券を購入できます。
Q建物財産標はどこにありますか?
A建物財産標は、駅舎のホーム側にある柱の上部に貼り付けられています。線路に面した木製の柱をよく観察すると、建設年を示す小さな金属製のプレートを見つけることができます。鉄道ファンにとっては見逃せない隠れたポイントです。
Qバリアフリー対応はされていますか?
A2016年に駅舎北側(旧駅員宿舎跡地)にスロープとタクシー待機場が設置されました。これにより、駅舎を通らずにホームへアクセスできるようになりました。ただし、明治期の建築物のため、駅舎内部には一部段差がありますのでご了承ください。
Qたけべ八幡温泉は日帰りで利用できますか?
Aもちろんです。たけべ八幡温泉は日帰り入浴がメインの施設で、営業時間は10:00〜21:00です。駅からも近く、駅舎見学と組み合わせた日帰り旅行に最適です。施設で無料レンタサイクルも借りられますので、サイクリングで汗をかいた後に温泉で疲れを癒すのもおすすめです。
Q岡山県内で他に見学できる歴史的な駅舎はありますか?
A岡山県には複数の登録有形文化財の駅舎があります。因美線の美作滝尾駅は映画「男はつらいよ」シリーズのロケ地として有名で、伯備線の美袋駅も明治期の駅舎が良好に保存されています。それぞれ個性的な魅力を持っていますので、駅舎めぐりの旅もおすすめです。

基本情報

正式名称 JR津山線(旧中国鉄道)建部駅駅舎
読み方 じぇいあーるつやません(きゅうちゅうごくてつどう)たけべえきえきしゃ
文化財指定 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2006年(平成18年)3月2日
登録番号 第33-0103号
建築年 1900年(明治33年)
構造 木造平屋建、瓦葺
建築面積 84平方メートル
所在地 岡山県岡山市北区建部町中田403-3
アクセス JR岡山駅から津山線で約40〜45分
路線 JR西日本 津山線
運営 西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)

参考文献

文化遺産オンライン - JR津山線(旧中国鉄道)建部駅駅舎
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/151965
津山瓦版 - JR津山線 建部駅 駅舎(登録有形文化財)
https://www.e-tsuyama.com/report/2018/04/jr.html
建部駅 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/建部駅
岡山市観光情報サイト - たけべ八幡温泉
https://okayama-kanko.net/sightseeing/spot/128/
ココロ満チル たけべ - 岡山市建部エリア観光情報
https://michill-takebe.jp/
カンゾー先生 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/カンゾー先生

最終更新日: 2026.01.26

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