神社の境内に立つ仏塔

鼓神社宝塔は、岡山県岡山市北区上高田の鼓神社(皷神社とも書く)境内にある石造宝塔で、貞和2年(1346年)の造立、昭和31年(1956年)6月28日に国の重要文化財に指定された。

この一文には矛盾が畳み込まれている。宝塔は仏教の塔形式であり、塔身の正面には真言密教の中心尊である金剛界大日如来が彫られている。それが『延喜式』神名帳に載る式内社、備中国二宮と伝えられる神社の境内に据えられている。しかし当時としては何も奇妙ではない。明治元年(1868年)の神仏分離令が出されるまで、神と仏は同じ境内で一つの信仰体系をかたちづくっていた。分離令はこの種の石造物を多くの神社から失わせたが、鼓神社の宝塔は造られた場所に残った。

鼓神社が祀るのは、『古事記』『日本書紀』の吉備平定説話に関わる神々である。大吉備津彦命、その脇将であった遣霊彦命、楽楽森彦命、そして将軍の后とされる高田姫命らを合わせ祀る。往時は5つの社殿が並び「鼓五社大明神」と称された。明治5年の社格制定では村社に列せられたが、当時の神主が県社昇格に奔走し、明治14年(1881年)10月に県社となった経緯が残る。

日付まで刻まれた花崗岩

宝塔は花崗岩製で、高さは4.15メートル。古い記録では一丈三尺八寸と記される。石造宝塔としては岡山県内で最大である。

塔身の背面には銘文が刻まれている。「大勧進沙門正円」「貞和二年十月二日造立之」「大工妙阿」。貞和2年は西暦1346年にあたり、時代区分では南北朝時代前期に入るが、文化庁データベースは時代欄を室町前期としている。年紀の入った石造物自体が貴重であり、そこに石工の名まで残る例はさらに少ない。この妙阿は、康安元年(1361年)銘の八幡神社鳥居(岡山市北区下足守、重要文化財)も手掛けており、一人の石工の仕事を15年の隔たりを置いて二基たどることができる。

見るべきは相輪より基礎である。基礎の正面は二区に分けられ、それぞれ格狭間をつくり、内に近江系の意匠を引く孔雀文様を向かい合わせに刻む。向かって左側面も二区で、茎の付いた開蓮華を対称形に配する。右側面は開蓮華と三茎蓮を左右に彫り分ける。その下には複弁の反花座が厚く刻まれている。

塔身正面は龕状に彫り込まれ、その内側に大日如来坐像が厚肉彫りで表される。高欄より上は別石を用い、下部よりも明らかに技巧を凝らした造りになっている。この切り替わりに気づくと、石工の意識の置きどころが見えてくる。

参拝と交通

宝塔は屋外に立ち、周囲に柵はない。境内は終日自由に立ち入ることができ、拝観料も不要、撮影の制限もない。国指定の文化財のなかでは、事前の手配なしに実物へ近づける数少ない例である。

訪ねるなら光の低い時間帯を選びたい。花崗岩の浮彫りは真上からの強い光では陰影が飛んでしまい、輪郭が読めなくなる。とくに孔雀文様の格狭間は、斜めから光が入って初めて石の面から浮き上がってくる。

車なら山陽自動車道の岡山インターチェンジから約20分。駐車場は普通車26台分がある。公共交通の場合はJR備中三門駅からリハビリセンター前行きのバスに約30分乗り、「山上口」で下車して徒歩約25分かかる。

社務所の連絡先は086-295-2298。近くの星神社は宮司が常駐していないため、御朱印は鼓神社で受けられる。この二社を合わせて参拝する人が多い。国宝の本殿と回廊を持つ吉備津神社も同じ市域の西側にあり、行程に組み込みやすい。

Q&A

Q鼓神社宝塔はどこにあり、どう行けばよいですか?
A岡山県岡山市北区上高田3628の鼓神社境内にあります。山陽自動車道の岡山インターチェンジから車で約20分、駐車場は普通車26台分。公共交通ではJR備中三門駅からバスで約30分、「山上口」下車、徒歩約25分です。
Q鼓神社宝塔は自由に見学できますか。撮影は可能ですか?
Aどちらも可能です。宝塔は柵のない屋外に立ち、境内は終日自由で拝観料も不要、撮影の制限もありません。彫刻の細部を見るなら光が斜めから入る夕方が適しています。
Q鼓神社宝塔はいつ造られたのですか。年代の根拠は何ですか?
A貞和2年(1346年)の造立です。塔身背面に「貞和二年十月二日造立之」の刻銘があり、大勧進沙門正円、大工妙阿の名も併せて刻まれています。
Q鼓神社宝塔に仏像が彫られているのはなぜですか?
A造立された時代には神と仏が一つの信仰体系のなかにあったためです。宝塔は仏教の塔形式で、塔身正面の龕には金剛界大日如来坐像が彫られています。明治の神仏分離令で同種の石造物を失った神社は多く、造立地に残る本例は貴重です。
Q鼓神社宝塔の大きさはどれくらいですか?
A花崗岩製で高さ約4.15メートル(一丈三尺八寸)。石造宝塔としては岡山県内で最大の規模です。

基本情報

名称鼓神社宝塔(つづみじんじゃほうとう)
所在地岡山県岡山市北区上高田(上高田3628)
指定区分重要文化財(建造物)/指定番号 01386
指定年昭和31年(1956年)6月28日
員数1基
寸法石造宝塔(花崗岩)、高さ約4.15メートル/貞和二年十月二日の刻銘あり
所有者鼓神社
公開状況屋外に常設、境内自由・終日見学可、拝観料不要、撮影可

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「鼓神社宝塔」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/3001
岡山県神社庁「皷神社」
https://www.okayama-jinjacho.or.jp/search/18517/
岡山市「岡山市内の石造物(国・県・市指定)」(PDF)
https://www.city.okayama.jp/cmsfiles/contents/0000029/29446/okayamasinainosekizoubutu.pdf
岡山県観光連盟 岡山観光WEB「皷神社」
https://www.okayama-kanko.jp/spot/detail_10059.html

最終更新日: 2026.08.06