小原屋原田商店文庫蔵:富士川舟運300年の歴史を今に伝える商家の蔵

山梨県南巨摩郡富士川町鰍沢の旧商店街に佇む「小原屋原田商店文庫蔵」は、江戸時代の富士川舟運によって栄えた商家の歴史を今に伝える貴重な建造物です。平成11年(1999年)に国の登録有形文化財に指定されたこの小さな土蔵は、かつて「甲州第二の都市」と称された鰍沢の繁栄を静かに物語っています。

富士川舟運と鰍沢の繁栄

文庫蔵の歴史的価値を理解するには、まず富士川舟運の重要性を知る必要があります。富士山と赤石山脈に囲まれた甲斐の国(現在の山梨県)は、かつて交通の便が極めて悪い土地でした。江戸への物資輸送には、笹子峠を越えるか、人力や馬で駿河の岩淵まで運ぶしかなかったのです。

慶長12年(1607年)、徳川家康の命を受けた京都の豪商・角倉了以によって富士川の開削工事が始まりました。5年の歳月をかけて完成した約72キロメートルの水路は、鰍沢から岩淵を結び、甲斐・信濃と駿河を繋ぐ大動脈となりました。

信州往還と駿州往還が交わる要衝に位置していた鰍沢は、この開削によって舟運の一大拠点となり、甲府に次ぐ商いの町として大きく発展しました。「下げ米、上げ塩」と呼ばれたように、下り荷は甲州や信州から幕府への年貢米、上り荷は塩などの海産物が中心でした。陸揚げされた塩は桔梗俵に詰め替えられ、「鰍沢塩」として甲州一帯から遠く信州高遠まで運ばれたといいます。

小原屋:塩の仲買業で栄えた商家

小原屋原田商店は、富士川舟運の黄金時代に塩の仲買業を主な生業として繁栄した商家です。江戸末期の安政年間(1854年頃)に建てられた商家は、鰍沢の商店街の中でも特に歴史的価値の高い建造物群として知られています。

敷地内には用途別に複数の蔵がありました。2階に虫籠窓のある伝統的な店構えの「店蔵」、脱水のために床に竹を敷いた「塩蔵」、正面の腰壁にナマコ壁を施した大きな「油蔵」、そして今回ご紹介する「文庫蔵」です。店蔵は道路拡張に伴い移築されましたが、各蔵にはかつての商いの様子を偲ばせる工夫が随所に見られます。

明治時代に入ると、小原屋は時代の変化に対応し、横浜からランプの燃料となる灯油を取り寄せるなど、新しい商品も扱うようになりました。油蔵の吹き抜けの蔵内には、扱っていた商品の歴史を垣間見ることができる貴重な痕跡が残されています。

文庫蔵の建築的特徴

小原屋原田商店文庫蔵は、敷地の北側角地に建つ切妻造・2階建の小規模な土蔵です。建築面積は53平方メートルとコンパクトながら、江戸末期(1830年〜1867年)の商家建築の特徴をよく残しています。

構造は土蔵造で、外壁は漆喰塗込仕上げの白壁が美しい姿を見せています。この漆喰仕上げは耐火性に優れ、密集した商店街において火災から大切な文書や財産を守る重要な役割を果たしていました。

内部は1、2階ともに1室のシンプルな構成です。1階正面には扉口と小窓があるのみで、2階は両妻面に小窓を開くのみの閉鎖的な造りとなっています。これは、重要な帳簿や文書、貴重品を安全に保管するための設計であり、防火・防犯の両面から考慮された実用本位の建築です。

軒廻りは疎垂木(まばらな垂木)を見せる造りで、屋根は瓦葺きです。外壁とともに塗込の漆喰仕上げとする、当時の商家蔵の標準的かつ端正な造りを今に伝えています。

文化財としての価値

小原屋原田商店文庫蔵は、平成11年(1999年)6月7日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました(登録番号19-0034)。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とされています。

この建物が文化財として評価される理由は複数あります。まず、江戸末期の商家建築として150年以上にわたり良好な状態で保存されてきたこと。次に、富士川舟運によって栄えた鰍沢の商業文化を物語る生きた証人であること。そして、周辺の歴史的建造物とともに、かつて山梨県内で甲府に次ぐ商業都市であった鰍沢の町並み景観を構成する重要な要素であることが挙げられます。

見学のポイントと楽しみ方

文庫蔵は私有地内にあるため内部見学は難しい場合がありますが、外観から江戸時代の商家建築の特徴を観察することができます。白い漆喰壁、切妻屋根の端正な姿、そして閉鎖的ながらも美しい佇まいは、往時の商家の堅実さを今に伝えています。

富士川舟運の歴史をより深く理解するには、令和5年(2023年)2月にオープンした「富士川町歴史文化館 塩の華」への訪問をお勧めします。1階の舟運歴史館では、富士川舟運300年の歴史を資料やパネルでわかりやすく展示しており、実際に使用された渡し船なども見ることができます。入館料は無料です。

訪問に最適な季節は、大法師公園の桜が咲く春(3月下旬〜4月上旬)か、山々が紅葉に染まる秋です。大法師公園は「日本のさくら名所100選」に選ばれており、富士山や甲府盆地を一望できる絶景スポットでもあります。

周辺観光情報

富士川町には、文庫蔵と合わせて訪れたい観光スポットが数多くあります。

大法師公園は、甲府盆地の南西端、大法師山の中腹に広がる公園で、富士山・富士川・八ヶ岳を一望できます。「日本のさくら名所100選」にも選ばれた桜の名所です。

まほらの湯は、地元の人々にも愛される日帰り温泉施設です。「まほら」とは万葉集にも謳われた「すばらしい場所」を意味する言葉で、充実した施設でゆっくりとくつろげます。

道の駅富士川は、地元の特産品が揃う人気スポットです。富士川町名産の柚子を使った商品や、有名なバウムクーヘンなどが購入できます。

大柳川渓谷は、10本の吊り橋と8つの滝を巡るトレッキングコースがある景勝地です。春の新緑、秋の紅葉と、四季折々の自然美を楽しめます。

甲州鰍沢温泉かじかの湯は、地下1,400メートルから湧出する高濃度のナトリウム塩化物泉が自慢の温泉施設です。

Q&A

Q文庫蔵の内部は見学できますか?
A小原屋原田商店は私有地のため、内部の一般公開は行われていない場合があります。外観は道路から見学可能です。富士川舟運の歴史や類似した蔵の構造については、近くの「富士川町歴史文化館 塩の華」で詳しく学ぶことができます。
Qアクセス方法を教えてください。
A電車の場合、JR身延線「鰍沢口駅」が最寄り駅です。駅からはバスまたはタクシーで約20分です。車の場合、中部横断自動車道「増穂IC」から国道52号線を静岡方面へ約10分です。
Q「文庫蔵」とはどのような建物ですか?
A文庫蔵(ぶんこぐら)とは、商家が重要な帳簿や文書、貴重品を保管するために建てた耐火性の蔵です。厚い土壁と最小限の開口部により、火災や盗難から大切な財産を守る役割を果たしていました。
Q見学に適した季節はありますか?
A春(3月下旬〜4月上旬)は近くの大法師公園で桜が楽しめます。秋は周辺の山々の紅葉が美しく、大柳川渓谷のトレッキングもおすすめです。夏は富士川でのカヤックやSUP体験、冬は温泉施設でゆっくりと過ごすのも良いでしょう。
Q富士川舟運についてもっと詳しく知りたいのですが。
A「富士川町歴史文化館 塩の華」では、富士川舟運300年の歴史を詳しく紹介しています。実際に使用された渡し船や、塩を運んだ桔梗俵、舟を繋いだ石など貴重な資料が展示されています。入館料は無料で、開館時間は9:00〜17:00(最終入館16:30)、休館日は月曜日(祝日の場合は開館)です。

基本情報

名称 小原屋原田商店文庫蔵(おばらやはらだしょうてんぶんこぐら)
文化財種別 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成11年(1999年)6月7日
登録番号 19-0034
建築年代 江戸末期(1830年〜1867年)
構造・形式 土蔵造2階建、瓦葺
建築面積 53㎡
所在地 〒400-0601 山梨県南巨摩郡富士川町鰍沢1714
アクセス JR身延線「鰍沢口駅」から車で約20分/中部横断自動車道「増穂IC」から車で約10分
登録基準 国土の歴史的景観に寄与しているもの

参考文献

文化遺産オンライン - 小原屋原田商店文庫蔵
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/136878
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00001108
YBS山梨放送 やまなしレトロモダン - 第29回「小原屋 原田商店」
https://www.ybs.jp/retro/2016/10/18/
富士川町公式ホームページ - 富士川舟運
https://www.town.fujikawa.yamanashi.jp/docs/2023090600071/
富士川町歴史文化館 塩の華
https://fujikawa-shionohana.com/

最終更新日: 2026.01.27

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