内田三連橋梁:明治の匠が残した鉄道遺産

福岡県田川郡赤村の穏やかな田園風景の中に、日本の近代化を物語る貴重な鉄道遺産が静かに佇んでいます。内田三連橋梁(うちださんれんきょうりょう)は、1895年(明治28年)に竣工した三連アーチ橋で、130年以上の時を経た今も現役の鉄道橋として活躍しています。地元の人々からは親しみを込めて「みつあんきょ」と呼ばれるこの橋は、日独の技術者が協力して築き上げた、日本の産業革命を支えた重要な文化遺産です。

二つの顔を持つ橋:独特の構造美

内田三連橋梁の最大の特徴は、上流側と下流側で全く異なる表情を見せることです。下流側(西側)を見れば、温かみのある赤煉瓦が縞模様や市松模様を描きながら並んでいます。一方、上流側(東側)に回れば、整然と積まれた灰色の切石が堂々とした姿を見せてくれます。

この二面性は、決して偶然ではありません。下流側の煉瓦積みには「げた歯構造」と呼ばれる技法が用いられており、煉瓦が交互に突き出すように積まれています。これは将来の複線化を見据えた工夫で、新しい橋梁を増設する際に煉瓦同士を噛み合わせることができるよう設計されていたのです。上流側の切石積みは、洪水時の水圧に耐えるための選択でした。橋脚が船形に迫り出しているのは、増水時に水流を受け流すための工夫です。

結果として複線化は実現しませんでしたが、そのおかげで私たちは今も、この美しい「未完成」の姿を見ることができるのです。歴史の偶然がもたらした贈り物と言えるでしょう。

橋を設計した技術者たち

内田三連橋梁を設計したのは、日本人技師の野辺地久記です。そしてその基本計画には、ドイツ人鉄道技師ヘルマン・ルムシュッテルが深く関わっていました。

ルムシュッテルは1887年(明治20年)に九州鉄道会社の招聘を受けて来日しました。当時、日本の鉄道技術はイギリスの影響が主流でしたが、ルムシュッテルはドイツ式の技術を導入し、九州の鉄道発展に大きな影響を与えました。彼の指導のもと、九州鉄道ではメートル法が採用されるなど、その影響は今日まで続いています。

温厚で学識深いルムシュッテルは、多くの日本人技術者を育て、帰国後も日本から訪れた技師たちを自宅に迎え入れたと伝えられています。JR博多駅のつばめの杜ひろばには、彼の功績を称える銅版レリーフが設置されています。

筑豊炭田と鉄道の歴史

内田三連橋梁は、もともと豊州鉄道株式会社が石炭輸送のために建設した路線の一部でした。筑豊地方は、かつて日本最大の産炭地として知られ、ここで採掘された石炭が日本の近代化を支える燃料となりました。

橋梁の所有は、豊州鉄道から九州鉄道、国鉄、JR九州、そして現在の平成筑豊鉄道へと変遷してきました。炭鉱産業の衰退を経ても、この橋は130年以上にわたって現役で使用され続けています。一台の小さな気動車が橋を渡る姿は、かつて石炭を満載した貨物列車が行き交った時代の記憶を今に伝えています。

文化財としての価値

1999年(平成11年)、内田三連橋梁は国の登録有形文化財に指定されました。また、経済産業省の近代化産業遺産にも認定されています。

文化財指定の理由としては、保存状態の良さ、将来を見据えた二重構造という先進的な設計思想、そして日本の近代化を象徴する産業遺産としての価値が挙げられます。同じ年には、田川線にある九州最古の鉄道トンネル「第二石坂トンネル」も登録有形文化財に指定されており、この地域一帯が鉄道遺産の宝庫であることを示しています。

橋梁の見学について

内田三連橋梁は、平成筑豊鉄道田川線の赤駅と内田駅の間に位置しています。県道418号線から橋を見渡すことができ、三連アーチの中央を内田川が流れ、両側のアーチの下は道路として利用されています。

見学の醍醐味は、何といっても平成筑豊鉄道に乗車して橋を渡ることでしょう。1両編成の気動車がゆっくりと橋を渡る体験は、130年の歴史と一体になる瞬間です。車窓からは筑豊ののどかな田園風景が広がり、日本の原風景を感じることができます。

写真撮影には、げた歯構造の模様が美しく浮かび上がる午後の光がおすすめです。春から夏にかけては周囲の緑と赤煉瓦のコントラストが美しく、秋には紅葉が彩りを添えます。

周辺の観光スポット

赤村とその周辺には、内田三連橋梁と合わせて楽しめる魅力的なスポットがあります。

「源じいの森」は、平成筑豊鉄道源じいの森駅から徒歩5分の場所にある自然学習村です。長寿の象徴である亀をイメージした温泉施設があり、竹林に囲まれた露天風呂で日頃の疲れを癒すことができます。キャンプ場やバンガローも整備されており、自然の中でゆったりと過ごすことができます。夏には蛍が舞い、川遊びも楽しめます。

鉄道ファンには、田川線上にある「第二石坂トンネル」の見学もおすすめです。1895年に完成した九州最古の鉄道トンネルで、内田三連橋梁と同年に登録有形文化財に指定されています。また、赤村では一度も定期運行されることなく廃線となった旧国鉄油須原線を走る観光トロッコも運行されており、「幻の鉄道」を体験することができます。

アクセス・お役立ち情報

平成筑豊鉄道では、伊田線・糸田線・田川線が一日乗り放題となる「ちくまるキップ」を販売しています。大人1,000円、小人500円で、沿線の歴史的建造物を巡るには最適です。

源じいの森温泉では、平成筑豊鉄道の乗車証明書を提示すると100円引きで入浴できる特典があります。鉄道の旅と温泉を組み合わせた日帰り旅行がおすすめです。

橋梁は公道から見学できますが、線路内への立ち入りは禁止されています。見学や撮影は、県道や河川敷から安全にお楽しみください。

Q&A

Qなぜ橋の両側で構造が異なるのですか?
A下流側の煉瓦積みは「げた歯構造」と呼ばれ、将来の複線化を見据えて新しい橋梁と連結しやすいよう設計されました。上流側の切石積みは、洪水時の水圧に耐えるための選択です。複線化が実現しなかったため、現在も両方の構造を見ることができます。
Q現在も電車は通っていますか?
Aはい、1895年の開業以来、現在も平成筑豊鉄道田川線の現役橋梁として使用されています。毎日、気動車が橋を渡っています。
Qどのようにアクセスできますか?
A平成筑豊鉄道田川線の赤駅または内田駅が最寄りです。橋梁は両駅の間にあり、県道418号線沿いから見学できます。内田駅からは徒歩約20分です。
Q地元での呼び名はありますか?
A地元では「みつあんきょ」という愛称で親しまれています。三連アーチの形状から名付けられました。
Q近くに他の歴史的な鉄道遺産はありますか?
A同じ田川線上にある「第二石坂トンネル」は、九州最古の鉄道トンネルとして知られ、1999年に内田三連橋梁と同時に登録有形文化財に指定されています。また、中津原橋梁も同様のげた歯構造を持つ歴史的橋梁です。

基本情報

正式名称 内田三連橋梁(うちださんれんきょうりょう)
通称 みつあんきょ
所在地 福岡県田川郡赤村大字内田1804-1
竣工 1895年(明治28年)8月
設計者 野辺地久記(ヘルマン・ルムシュッテルの技術指導)
構造形式 煉瓦造3連アーチ橋
橋長 約17メートル
径間 3.35メートル(各アーチ)
所属路線 平成筑豊鉄道田川線
文化財指定 登録有形文化財(1999年)、近代化産業遺産
アクセス 平成筑豊鉄道赤駅〜内田駅間、内田駅より徒歩約20分
見学料 無料(公道より見学可)
問い合わせ 赤村教育委員会 TEL: 0947-62-3003

参考文献

内田三連橋梁 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E7%94%B0%E4%B8%89%E9%80%A3%E6%A9%8B%E6%A2%81
内田三連橋梁 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137228
土木遺産 in 九州:内田川橋梁 - 九州地域づくり協会
https://dobokuisan.qscpua2.com/heritage/fukuoka/fuk22_uchidakawabashi/
ヘルマン・ルムシュッテル (鉄道技術者) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘルマン・ルムシュッテル_(鉄道技術者)
平成筑豊鉄道田川線 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/平成筑豊鉄道田川線
源じいの森 - 赤村役場
https://www.akamura.net/government/genjii.html
内田三連橋梁 - 福岡県町村会
https://www.f-chousonkai.gr.jp/sight/detail213.html
九州の鉄道は博多駅から - 博多町家ふるさと館
https://www.hakatamachiya.com/staffblog/?p=347

最終更新日: 2026.01.29

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