鉱山の街に息づく和洋折衷の建築美

岐阜県の最北端、北アルプスの麓に広がる飛騨市神岡町。かつて「東洋一の鉱山」と謳われた神岡鉱山とともに栄えたこの町には、昭和初期の繁栄を今に伝える貴重な建築遺産が点在しています。その中でも特に注目すべき存在が、2014年に国の登録有形文化財として登録された「浅井銃砲火薬店店舗兼主屋」です。

この建物は、単なる歴史的建造物ではありません。日本の近代化の波が山間の町にまで及んだ証であり、当時の商家が持っていた文化的洗練と経済的繁栄を物語る、建築史上貴重な和洋折衷建築なのです。通りに面した伝統的な町家の佇まいと、モルタル塗りの洋風意匠を見事に融合させたその姿は、訪れる人々に昭和初期の神岡の活気を鮮やかに伝えてくれます。

文化財としての価値:なぜ登録有形文化財に選ばれたのか

浅井銃砲火薬店店舗兼主屋は、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準により、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。この登録制度は、近年の国土開発や生活様式の変化により消滅の危機にさらされている近代建築を、後世に幅広く継承していくために設けられたものです。

神岡町は明治7年(1874年)に三井組が神岡鉱山の近代的経営を開始して以降、急速に発展しました。最盛期には人口2万4千人を数え、映画館が3〜4軒も営業するほどの賑わいを見せていたといいます。銃砲火薬店は、山間部での狩猟が盛んだったこの地域において重要な商売であり、浅井家もまたこの繁栄の中で財を成した商家でした。

この建物が特に価値を認められた理由は、昭和初期という時代の特徴を色濃く反映した和洋折衷様式にあります。地方の商家が最新の洋風意匠を取り入れながらも、日本の伝統的な建築様式を大切に守り続けた姿勢が、この建物には凝縮されているのです。

建築の見どころ:和と洋の見事な調和

浅井銃砲火薬店店舗兼主屋は、木造および土蔵造りの2階建て、瓦葺きで、建築面積は約270平方メートルに及びます。通りに西面する正面は、二階建ての町家としての伝統的な佇まいを見せ、神岡の歴史的街並みと見事に調和しています。

洋風応接間

この建物の最も特徴的な要素が、正面右手に設けられた洋風の応接間です。モルタル塗りの壁面に洋風意匠が施され、内外ともに西洋建築の雰囲気を漂わせています。ここは重要な来客を迎え、商談を行うための空間として使われていたと考えられ、当時の商家の国際的な商取引への意識の高さがうかがえます。

伝統的な居住空間

玄関の後方には、伝統的な日本建築の手法に基づく居室が連なります。最奥部には二階建ての内蔵(うちぐら)が設けられており、これは商家にとって不可欠な耐火性の収蔵庫でした。内蔵の存在は、浅井家の経済的成功と堅実な商売姿勢を物語っています。

丁寧な造作の客座敷

洋風応接間の背後には、日本の伝統的な建築技術の粋を集めた客座敷が配されています。前庭に面したこの空間は、入念な造作が施された格式高い部屋であり、和の美意識と職人技が結集された見どころの一つです。洋風と和風、それぞれの最上の空間を使い分けていた当時の暮らしぶりが想像されます。

神岡町の魅力:レトロとサイエンスが交差する不思議な街

浅井銃砲火薬店店舗兼主屋がある神岡町は、日本でも類を見ない独特の魅力を持つ街です。昭和の面影を色濃く残すレトロな街並みと、世界最先端の宇宙物理学研究施設が共存するこの街は、訪れる人々を不思議な感覚に包み込みます。

街を歩けば、河岸段丘の地形が生み出した坂道や入り組んだ路地、趣のある石垣の風景が続きます。町のあちこちに残る共同水屋(きょうどうみずや)は、かつて住民が山水を共同で利用していた時代の名残であり、現在も野菜を洗ったり冷やしたりと、地域の暮らしに溶け込んでいます。

そしてこの鉱山の街の地下1,000メートルには、ニュートリノ研究で2度のノーベル物理学賞をもたらした「スーパーカミオカンデ」が稼働しています。歴史と最先端科学が交差する、日本でここにしかない体験が待っています。

周辺の観光スポット:神岡を満喫するために

浅井銃砲火薬店店舗兼主屋の見学と合わせて、ぜひ訪れていただきたい神岡町周辺の観光スポットをご紹介します。

  • ひだ宇宙科学館カミオカラボ:道の駅スカイドーム神岡に併設された無料の科学館。高さ7メートルの大型スクリーンでスーパーカミオカンデ内部を疑似体験できるほか、ニュートリノ研究の魅力を楽しく学べます。
  • レールマウンテンバイク ガッタンゴー:2006年に廃線となった旧神岡鉄道のレールの上を、専用のマウンテンバイクで走る人気アクティビティ。トンネルや鉄橋を走り抜ける爽快感は格別です(営業期間:4月〜11月下旬)。
  • 神岡城・高原郷土館:戦国時代に江馬氏が築いた城跡に再建された天守閣からは、神岡の街並みを一望できます。鉱山資料館や旧松葉家住宅も併設。
  • 神岡街歩きガイド:地元を知り尽くしたガイドとともに、共同水屋や歴史的建造物を巡る散策ツアー。所要時間は1時間30分〜2時間30分程度。
  • 奥飛騨温泉郷:神岡から車で約20分。温泉でゆっくりと旅の疲れを癒すことができます。

訪問のご案内

浅井銃砲火薬店店舗兼主屋は、神岡町船津地区の歴史的街並みの中に位置しています。個人所有の登録有形文化財であるため、建物の外観を通りから鑑賞する形での見学となります。建物やその周辺では、所有者様や近隣の方々へのご配慮をお願いいたします。

神岡の街歩きを楽しむには、「神岡街歩きガイド」のご利用がおすすめです。地元ガイドの案内により、建物の背景にある歴史や文化をより深く理解することができます。食べ歩きツアーでは、地元の酒蔵や和菓子店にも立ち寄れます。

季節としては、春(4〜5月)や秋(10〜11月)が街歩きに最適です。冬は雪景色の情緒ある街並みを楽しめますが、防寒対策は万全に。ガッタンゴーなど一部のアクティビティは冬季休業となりますのでご注意ください。

Q&A

Q浅井銃砲火薬店店舗兼主屋の内部を見学できますか?
Aこの建物は個人所有の登録有形文化財であるため、一般公開は行われておりません。登録文化財としての価値を認められた和洋折衷の建築美は、通りから外観をご鑑賞いただけます。神岡の歴史的街並み全体を巡る街歩きの一環としてお楽しみください。
Q神岡町へのアクセス方法を教えてください。
A高山市街からは国道41号・471号経由で約60分、富山市街からは約50分です。公共交通機関をご利用の場合は、JR飛騨古川駅から濃飛バス神岡行きに乗車し、約40分で神岡町中心部に到着します。駅からのバス本数は限られるため、お車でのアクセスをおすすめします。
Q飛騨高山や古川との違いは何ですか?
A高山や古川が江戸時代の城下町・商家町の風情を残すのに対し、神岡は明治から昭和にかけての鉱山町として発展した街並みが特徴です。昭和レトロな雰囲気と、ノーベル賞研究施設、ガッタンゴーなど独自のアクティビティが組み合わさった、他にはない個性的な体験ができます。
Qおすすめの滞在時間はどのくらいですか?
A街歩きとカミオカラボ見学で約2〜3時間、ガッタンゴーを加えると半日程度が目安です。神岡城や周辺の温泉も楽しむ場合は、1日かけてゆっくり巡ることをおすすめします。飛騨古川や高山と組み合わせた1泊2日の旅程も人気です。
Qスーパーカミオカンデは見学できますか?
Aスーパーカミオカンデ本体は最先端の研究施設であるため、一般見学は年に数回に限られています。代わりに、道の駅スカイドーム神岡に併設された「ひだ宇宙科学館カミオカラボ」では、大型スクリーンによる施設内部の疑似体験や、研究内容をわかりやすく紹介する展示を無料でお楽しみいただけます。

基本情報

名称 浅井銃砲火薬店店舗兼主屋(あさいじゅうほうかやくてんてんぽけんしゅおく)
文化財種別 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2014年(平成26年)4月25日
登録番号 21-0220
建築年代 昭和初期(1926〜1945年)
構造・形式 木造及び土蔵造2階建、瓦葺
建築面積 約270平方メートル
所在地 〒506-1161 岐阜県飛騨市神岡町船津字西町1196
アクセス 高山市街から車で約60分(国道41号・471号経由)、富山ICから車で約50分
登録基準 国土の歴史的景観に寄与しているもの

参考文献

浅井銃砲火薬店店舗兼主屋 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/260422
国指定文化財等データベース - 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009955
神岡街歩きガイド - 飛騨市公式観光サイト「飛騨の旅」
https://www.hida-kankou.jp/spot/300
カミオカラボについて - 飛騨市公式ウェブサイト
https://www.city.hida.gifu.jp/site/kamiokalab/11761.html
カオスな神岡!東洋一の鉱山が造り出した街 - ほんのひととき
https://note.com/honno_hitotoki/n/n829d18f48e66
レールマウンテンバイク Gattan Go!! 公式サイト
https://rail-mtb.com/

最終更新日: 2026.01.27

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