一ノ坂遺跡:日本最長のロングハウスが眠る縄文時代の石器工房

山形県米沢市の西部、矢来地区にひっそりと佇む一ノ坂遺跡は、日本の先史時代を知る上で極めて重要な遺跡です。1997年(平成9年)に国の史跡に指定されたこの遺跡からは、約6,000年前の縄文時代前期に建てられた日本最長のロングハウス(全長約44メートル)が発見されました。この巨大な竪穴建物は、石器を製作する共同作業所として使われていたと考えられています。

偶然から始まった大発見

一ノ坂遺跡の発見は、1989年(平成元年)のことでした。矢来一丁目に住宅を建設する計画が持ち上がり、工事に先立って緊急の発掘調査が実施されました。調査が進むにつれ、考古学者たちの目の前に現れたのは、楕円形を引き伸ばしたような形状の巨大な建物跡でした。

その規模は驚くべきもので、長さ43.5メートルから44メートル、幅は約4メートルに及びました。これは日本で発見された竪穴住居跡としては最長の記録であり、この発見は全国的なニュースとして報じられました。内部から出土した縄文土器の分析により、この遺跡が約6,000年前の縄文時代前期のものであることが明らかになりました。

縄文時代の「石器工場」

一ノ坂遺跡を特別な存在にしているのは、圧倒的な量の石器とその製作痕跡です。巨大ロングハウスの内部は約20センチほど掘り下げられ、床面はよく踏み固められていました。建物内には6か所の炉跡があり、壁に沿って規則正しく柱穴が並んでいました。

特筆すべきは、内部から出土した石器類の膨大な数です。石槍、石鏃(やじり)、石匙(いしさじ)、石銛(いしもり)などの完成品に加え、製作途中の半製品や、石器を作る際に出る石屑(剥片)まで含めると、その数は138万点を超えました。この膨大な石器類は、ここが単なる住居ではなく、石器を製作する大規模な共同作業所であったことを物語っています。

全国唯一の「連房型竪穴住居跡」

最初のロングハウス発見を契機に、翌年の1990年(平成2年)から国や県の補助を受けた本格的な発掘調査が開始されました。1994年(平成6年)の第8次調査までに、遺跡の総面積約16,000平方メートルの範囲から、合計24棟の住居跡と7基の土壙(どこう=穴)、そして139万点にも及ぶ遺物が発掘されました。

中でも研究者たちを驚かせたのは、軒を接するようにして一列に並ぶ10棟の竪穴住居跡でした。この配置は「連房型竪穴住居跡」と名付けられ、縄文時代の遺跡としては日本で他に類例のない極めて珍しい発見となりました。専門家たちは、これらの連なる住居が、巨大ロングハウスの石器工房で働く人々の生活の場、いわば「宿舎」として機能していたと考えています。

つまり、約6,000年も前のこの地には、石器を作る「工場」と、そこで働く人々のための「アパート」が存在していたことになります。これは縄文時代の社会組織や分業体制について、従来の認識を大きく覆す発見でした。

国指定史跡としての価値

一ノ坂遺跡は1997年(平成9年)7月28日に国の史跡として指定されました。その指定理由には、以下のような考古学的価値が認められています。

  • 日本最長のロングハウス(巨大竪穴建物)の発見。長さでは青森県の三内丸山遺跡のロングハウスをも凌ぐ
  • 大規模な石器製作工房であったことを示す明確な証拠
  • 縄文時代としては全国唯一の「連房型竪穴住居跡」の存在
  • 139万点を超える膨大な出土遺物が縄文時代の技術や生活を詳細に伝える
  • 縄文時代における分業や社会組織を理解する上での貴重な手がかり

この遺跡は、稲作が伝来するはるか以前の縄文時代に、すでに専門的な技術集団と組織的な労働システムが存在していたことを示す重要な証拠となっています。

現在の一ノ坂遺跡を訪ねて

現在、一ノ坂遺跡の住居跡は将来の保存と活用のために埋め戻され、地下に保護されています。地表面には案内看板が設置されており、この場所で行われた発見の重要性を知ることができます。遺跡は御成山を中心とする丘陵北側の山麓台地に位置し、標高は257メートルから260メートル。穏やかな傾斜地は、かつてここに暮らした縄文人たちが選んだ立地の良さを今に伝えています。

周辺には館山城跡をはじめ、他の縄文時代の遺跡や中世の館跡、廃寺跡、塚なども分布しており、米沢の歴史の重層性を感じることができます。

周辺の観光スポット

一ノ坂遺跡の見学は、戦国武将の歴史と美食で知られる米沢観光と組み合わせることで、より充実した旅となります。

  • 上杉神社・松が岬公園:戦国の名将・上杉謙信公を祀る米沢の精神的シンボル。遺跡から車で約15分
  • 伝国の杜 米沢市上杉博物館:上杉家伝来の宝物を収蔵展示。一ノ坂遺跡出土品の特別展示が行われることも
  • 上杉家廟所:杉木立の中に歴代藩主の御廟が並ぶ国指定史跡。静謐な空気が漂う
  • 米沢牛:日本三大和牛のひとつ。市内各所で最高級の味わいを堪能できる
  • 小野川温泉・白布温泉:開湯数百年の歴史を持つ名湯。観光の疲れを癒すのに最適

アクセス

一ノ坂遺跡は米沢市矢来一丁目に位置しています。JR米沢駅からは車またはタクシーで約15分から20分です。米沢駅へは、東京駅から山形新幹線で約2時間でアクセスでき、日帰り旅行も十分に可能です。

車でお越しの場合は、東北中央自動車道・米沢中央インターチェンジまたは米沢八幡原インターチェンジが便利です。周辺には他の縄文時代の遺跡や中世の史跡も点在しており、歴史探訪ルートを組み立てることができます。

Q&A

Q一ノ坂遺跡のロングハウスはなぜ特別なのですか?
A全長約44メートルという長さは、日本で発見された竪穴住居(ロングハウス)として最長の記録です。青森県の三内丸山遺跡のロングハウスは幅が広いため床面積では勝りますが、長さでは一ノ坂遺跡が日本一です。また、単なる住居ではなく石器製作の共同作業所として使われていたと考えられている点も特徴的です。
Q実際の遺構を見ることはできますか?
A遺跡は保存のため埋め戻されており、実際の住居跡を直接見ることはできません。ただし、現地には案内板が設置されており、発見の概要を知ることができます。出土品の一部は、伝国の杜・米沢市上杉博物館で展示されることがあります。
Q「連房型竪穴住居跡」とは何ですか?
A10棟の竪穴住居が軒を接するように一列に並んで発見された、日本で他に例のない遺構です。石器工房で働いていた人々の住居(宿舎)と考えられており、約6,000年前にすでに「工場と労働者住宅」という組み合わせが存在していたことを示す貴重な発見です。
Q遺跡はいつ頃のものですか?
A出土した縄文土器の分析から、縄文時代前期初頭、約6,000年前の遺跡であることが分かっています。これは東北地方の代表的な縄文集落と同時代に当たります。
Q公共交通機関でのアクセスは可能ですか?
A遺跡への直通バスはありませんが、JR米沢駅からタクシーで約15分から20分でアクセスできます。米沢駅へは東京駅から山形新幹線で約2時間ですので、首都圏からの日帰り旅行も可能です。

基本情報

名称 一ノ坂遺跡(いちのさかいせき)
所在地 山形県米沢市矢来一丁目1051ほか
指定区分 国指定史跡(1997年〈平成9年〉7月28日指定)
時代 縄文時代前期初頭(約6,000年前)
遺跡面積 約16,000平方メートル
標高 257〜260メートル
主な発見 日本最長のロングハウス(約44m)、竪穴住居跡24棟、連房型竪穴住居跡10棟、出土遺物139万点以上
アクセス JR米沢駅から車・タクシーで約15〜20分
問い合わせ 米沢市教育委員会教育管理部社会教育文化課
TEL: 0238-22-5111

参考文献

一ノ坂遺跡|米沢市
https://www.city.yonezawa.yamagata.jp/soshiki/10/1034/5/5/278.html
山形の文化財検索サイト「山形の宝検索navi」- 一ノ坂遺跡
https://www.pref.yamagata.jp/cgi-bin/yamagata-takara/?m=detail&id=1139
一ノ坂遺跡|観光スポット|やまがたへの旅
https://yamagatakanko.com/attractions/detail_827.html
一ノ坂遺跡 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/一ノ坂遺跡
超大型住居 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/超大型住居

最終更新日: 2026.01.27

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