城崎温泉ロープウェイ温泉寺駅:歴史と絶景を結ぶ登録有形文化財
はじめに:近代建築と古刹が出会う場所
城崎温泉の温泉街を見下ろす標高98メートルの中腹に位置する温泉寺駅は、城崎温泉ロープウェイの中間駅として1962年に建設されました。2017年には国の登録有形文化財に指定され、日本の高度経済成長期を代表する近代建築遺産として、今なお多くの観光客を迎え続けています。
この駅が特別な存在である理由は、単なる交通施設にとどまらないからです。黒部第四ダム建設で培われた最先端のコンクリート技術、故郷への深い愛情から生まれた事業構想、そして1300年の歴史を誇る温泉寺への参拝路という三つの要素が、この小さな駅舎の中で見事に融合しています。
誕生秘話:黒部ダムの技術が城崎に
城崎温泉ロープウェイの生みの親は、関西電力初代社長の太田垣士郎翁です。1894年に城崎町の町医者の長男として生まれた太田垣翁は、京都帝国大学を卒業後、阪急電鉄で小林一三に師事し、経営者としての基礎を築きました。
その後、関西電力の社長として「20世紀のピラミッド」と称された黒部第四ダムの建設を陣頭指揮。この大事業の完成を目前に控えた1962年、太田垣翁は故郷城崎の発展のため、黒部ダム建設で培った技術とノウハウを活かしたロープウェイ事業を発案しました。
同年8月、関西電力、阪急電鉄、城崎町、地元有志の賛同を得て城崎観光株式会社が設立され、翌1963年5月26日にロープウェイが開業しました。温泉寺駅は、交走式ロープウェイとしては日本で唯一の中間駅として設計され、温泉寺への参拝を目的とした特別な存在として誕生したのです。
建築的特徴:シンプルさの中に宿る技術力
温泉寺駅の建築は、鉄筋コンクリート造2階建て、建築面積141平方メートルという規模です。最も印象的な特徴は、緩やかな曲線を描くヴォールト状の屋根。山の傾斜に応じて柱を延ばし、その上に架けられた屋根は、周囲の自然と調和しながらも、確かな存在感を放っています。
乗降場は吹き放ちの開放的な設計で、1階にはホールと駅務室、2階には中央の乗降場に加え、温泉寺側にも別の乗降口が設けられています。この実用的でありながら美しいデザインは、当時の日本建築が国際的なモダニズムをいかに消化し、独自の表現へと昇華させたかを示す好例といえます。
特筆すべきは、竣工から60年以上が経過した現在も、当初の姿をほぼそのまま保っている点です。5年前に実施された耐震診断では、築50年を超えているにもかかわらず、ほぼ建設当時のままで耐震基準をクリア。黒部ダムで培われたコンクリート技術の確かさが、城崎の地で今も証明され続けています。
登録有形文化財としての価値
2017年10月27日、城崎温泉ロープウェイの山麓駅、温泉寺駅、山頂駅の3駅舎すべてが、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。この指定は、以下のような複合的な価値が認められた結果です。
第一に、戦後日本の交通インフラ整備における重要な一章を物語る建造物であること。黒部ダムという国家的プロジェクトの技術が、地方の観光振興に還元された好例として、高度経済成長期の地域開発の姿を今に伝えています。
第二に、建築デザインと施工品質の卓越性です。同時代に建てられた多くの建造物が大規模改修や建て替えを余儀なくされる中、これらの駅舎は60年以上にわたって原形を保ち続けています。
第三に、1960年代初頭という特定の時代の建築様式を保存している点です。ヴォールト状の屋根と開放的なプラットホームの設計は、国際的なモダニズム建築を日本の風土に適応させた独自の解釈として、建築史上の重要な位置を占めています。
温泉寺:1300年の歴史を持つ城崎の守護寺
温泉寺駅を降りると、目の前に広がるのが末代山温泉寺の境内です。天平10年(738年)、城崎温泉の開祖である道智上人によって開創されたこの古刹は、聖武天皇より「城崎温泉の守護寺」として山号・寺号を賜りました。
本堂は至徳4年(1387年)頃の建立で、但馬地方最古の木造建造物として国の重要文化財に指定されています。和様・禅宗様・大仏様の三様式が折衷された建築様式は、日本建築史においても貴重な存在です。
本堂に安置される本尊・十一面観音立像は、高さ2メートルを超える檜の一木彫で、こちらも国の重要文化財。奈良の長谷寺、鎌倉の長谷寺の観音像と同木同作と伝えられ、「城崎」という地名は「木の先」、つまり聖木の先端から作られたこの観音像に由来するという説もあります。
この十一面観音は33年に一度しか全身を拝むことができない秘仏で、次回のご開帳は2051年に予定されています。毎年4月23・24日の開山忌(温泉まつり)には厨子が開扉され、一部を拝観することができます。
古式入湯作法:温泉と信仰の一体
かつて城崎温泉を訪れる湯治客は、まず温泉寺本堂で道智上人の霊前に参拝し、湯杓を授かってから外湯へ向かうのが習わしでした。これが「古式入湯作法」と呼ばれる伝統的な入浴儀礼です。
湯杓は「道智上人のお手」とされ、入湯中も湯壺につけることなく丁重に扱います。湯壺に至っては偈(げ)を唱え、温泉開祖・本尊・薬師如来に真言を三遍ずつ唱えてから入浴するという、温泉を聖なる恵みとして受け止める精神性が込められています。
現在もこの古式入湯作法は温泉寺で伝授されており、体験することが可能です。温泉寺の薬師堂には、湯治によって回復した人々が奉納した杖や手下駄が保存されており、かつての城崎が真剣な療養の場であったことを物語っています。
見どころと周辺情報
温泉寺駅周辺には、本堂以外にも見どころが点在しています。城崎美術館(温泉寺宝物館)では、鎌倉時代の仏像や古文書など、温泉寺や城崎温泉にまつわる多数の所蔵品を見学できます。拝観料は300円、本堂との共通券は400円です。
境内にそびえる多宝塔は、1768年に再建された但馬地方唯一の多宝塔で、金剛界大日如来を安置しています。紅葉の季節には、本堂や多宝塔を彩る紅葉が見事で、多くの写真愛好家が訪れます。
山頂駅まで足を延ばせば、城崎温泉の街並み、円山川、日本海までを一望できる展望台があります。ミシュラン・グリーンガイドで一つ星を獲得したこの絶景を眺めながら、みはらしテラスカフェで自家焙煎のスペシャリティコーヒーを味わうのもおすすめです。
城崎温泉の魅力
温泉寺駅から見下ろす城崎温泉は、ミシュラン・グリーンガイドで二つ星を獲得した日本屈指の温泉地です。大谿川沿いに柳並木と太鼓橋が連なる風情ある街並みは、浴衣姿で下駄の音を響かせながら散策するのにぴったりです。
城崎といえば7つの外湯めぐり。「駅は玄関、道は廊下、宿は客室、外湯は大浴場」と例えられるように、温泉街全体が一つの大きな旅館として機能しています。各外湯にはそれぞれ異なる趣と効能があり、すべてを巡ることで城崎温泉の醍醐味を存分に味わえます。
また、城崎は志賀直哉の小説『城の崎にて』の舞台としても知られ、文学散歩を楽しむこともできます。冬季(11月〜3月)には松葉ガニの旬を迎え、新鮮な海の幸を求める観光客で賑わいます。
アクセスと利用案内
城崎温泉ロープウェイは、毎月第2・第4木曜日(祝日の場合は営業)を除き、通年で運行しています。始発は9時10分、上り最終は16時50分で、年末年始(12月29日〜1月5日)も営業しています。
温泉寺駅までの往復乗車券は大人570円、小人280円。山頂駅までは大人910円、小人460円です。山麓駅から温泉寺駅までは約3分、山頂駅までは約7分の空中散歩をお楽しみいただけます。
JR城崎温泉駅からロープウェイ山麓駅までは、温泉街を抜けて徒歩約15〜20分です。なお、駐車場から乗り場までは約97段の階段がありますので、足元にご注意ください。駐車場は約20台収容、2時間700円(普通車)です。
Q&A
- 温泉寺駅が登録有形文化財に指定された理由は?
- 2017年に指定された理由は、ヴォールト状の屋根を持つ優れた建築デザイン、黒部ダム建設技術を活用した歴史的意義、そして60年以上経過しても原形を保つ卓越した施工品質が評価されたためです。1960年代初頭の日本におけるモダニズム建築の重要な事例として認められています。
- ロープウェイを使わずに温泉寺に行けますか?
- はい、山麓から約500段の石段を登って参拝することも可能です。ただし、ロープウェイを利用すれば登録有形文化財の駅舎も見学でき、体力を温存しながら参拝できます。上りはロープウェイ、下りは徒歩というプランも人気です。
- 温泉寺駅と黒部ダムの関係は?
- このロープウェイは、黒部ダム建設を指揮した関西電力初代社長・太田垣士郎翁が発案しました。太田垣翁は城崎出身で、故郷の発展のために黒部ダム建設で培ったコンクリート技術を駅舎建設に応用しました。そのため、60年以上経った今も耐震基準をクリアする堅牢な構造を維持しています。
- 温泉寺の十一面観音はいつ拝観できますか?
- 本尊の十一面観音立像は33年に一度しか全身を拝観できない秘仏で、次回のご開帳は2051年です。ただし、毎年4月23・24日の開山忌(温泉まつり)には厨子が開扉され、一部を拝観することができます。通常の拝観では、お寺の方の案内付きで本堂内を見学できます(拝観料300円)。
- おすすめの季節はいつですか?
- 四季それぞれに魅力があります。秋(11月頃)は温泉寺境内の紅葉が見事です。冬は雪景色と松葉ガニのシーズン。春は桜、夏は新緑と涼を求める避暑に最適です。4月23・24日の温泉まつりでは秘仏の一部が公開され、特別な体験ができます。
基本情報
| 正式名称 | 城崎温泉ロープウェイ温泉寺駅(きのさきおんせんろーぷうぇいおんせんじえき) |
|---|---|
| 文化財指定 | 登録有形文化財(建造物)/2017年(平成29年)10月27日登録 |
| 竣工年 | 1962年(昭和37年) |
| 構造・規模 | 鉄筋コンクリート造2階建、建築面積141㎡ |
| 標高 | 98メートル |
| 所在地 | 〒669-6101 兵庫県豊岡市城崎町湯島字寺ノ谷806-1 |
| 所有者・運営 | 城崎観光株式会社 |
| 営業時間 | 始発9:10/上り最終16:50(季節により変動あり) |
| 定休日 | 毎月第2・第4木曜日(祝日の場合は営業) |
| 乗車料金(往復) | 温泉寺駅まで:大人570円・小人280円/山頂駅まで:大人910円・小人460円 |
| 電話番号 | 0796-32-2530 |
| アクセス | JR城崎温泉駅より徒歩約15〜20分 |
参考文献
- 文化遺産オンライン - 城崎温泉ロープウェイ温泉寺駅
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/294880
- 城崎温泉ロープウェイ 公式サイト
- https://www.kinosaki-ropeway.jp/
- 城崎温泉ロープウェイ建設ストーリー
- https://kinosaki-ropeway.jp/story/
- 豊岡市観光公式サイト - 温泉寺
- https://toyooka-tourism.com/recommend/culture/onsenji/
- 城崎温泉観光協会 - 太田垣士郎資料館
- https://kinosaki-spa.gr.jp/facility/ootagaki/
- Wikipedia - 城崎ロープウェイ
- https://ja.wikipedia.org/wiki/城崎ロープウェイ
- Wikipedia - 温泉寺 (豊岡市)
- https://ja.wikipedia.org/wiki/温泉寺_(豊岡市)