城崎温泉の奥にひっそり佇む、禅の聖域

兵庫県北部、日本有数の温泉街として名高い城崎温泉の西南の奥まった一角に、極楽寺(ごくらくじ)はひっそりと佇んでいます。七つの外湯のひとつ「まんだら湯」のすぐ隣にあり、山門をくぐると白砂の枯山水「清閑庭」が広がり、その奥に端正な本堂が姿を見せます。大正十年(1921年)の再建ながら、江戸時代の禅の精神を受け継ぐこの本堂は、2015年に国の登録有形文化財に登録された貴重な近代建築。伝統と近代の感性が静かに融け合う、忘れがたい空間です。

沢庵和尚ゆかりの由緒ある禅寺

萬年山極楽寺は、臨済宗大徳寺派の寺院で、本尊は阿弥陀如来です。寺伝によれば、室町時代初期の応永年間(1394年〜1427年)に金山明昶(きんざんみょうしょう)禅師によって開創されたと伝わります。金山明昶は、同じく但馬の出石に宗鏡寺を開いた禅僧でもあり、極楽寺と出石の禅寺とは深い縁で結ばれています。

その後、寺は一時衰退の時期を迎えましたが、江戸時代初期の寛永年間(1624年〜1644年)に、沢庵宗彭(たくあんそうほう)禅師によって中興されました。但馬・出石の出身で、京都・大徳寺の住職を務めた沢庵和尚は、城崎温泉をこよなく愛し、湯治にたびたび訪れていたといいます。その折には極楽寺に寝泊まりし、この地で詠んだ歌も多く残されていると伝わります。

慶安5年(1652年)には豊岡藩主・杉原伯耆守から寺領を寄進され、現在の寺観が整えられました。以来、城崎温泉の歴史とともに歩み、多くの人々に親しまれてきた古刹です。

大正期に再建された、伝統と近代の融合

極楽寺のかつての本堂は焼失しており、現在の建物は大正10年(1921年)に再建されたものです。木造平屋建て、瓦葺きで、建築面積は約200平方メートル。城崎温泉の奥寄りの境内に南面して建ち、平成27年(2015年)11月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。

方丈型の六間取り

本堂は、禅宗寺院における方丈の様式を踏まえた「方丈型本堂」で、間取りは六間取です。三方には広縁と落縁がめぐらされ、庭と堂内をゆるやかにつなぐ中間領域として、静謐な雰囲気を生み出しています。

火灯窓と折上格天井

正面にはガラス戸が建てられ、当時としては新しい素材を積極的に取り入れています。その両端間には、禅宗建築に特徴的な火灯窓(花頭窓)が開かれ、伝統的な意匠を今に伝えます。室内に入ると、仏間と室中には折上格天井が設けられ、格式の高さを示しています。室中の両側には竹の節を思わせる欄間があしらわれ、上間・下間ともに奥室には床が備えられています。

文化財に指定された理由

極楽寺本堂は、伝統的な方丈型の平面を守りながら、正面のガラス戸のように近代的な要素を取り入れている点が高く評価されました。大正期という時代の空気を反映しつつも、禅宗寺院としての風格を失わない、過渡期の寺院建築の貴重な事例として、国の登録有形文化財に登録されています。山陰地方においてこの規模でこれほど良好な状態で残る方丈型本堂は少なく、近代和風建築の流れを知る上でも貴重な遺構です。

本堂とともに楽しみたい見どころ

清閑庭──静謐な枯山水

本堂の前庭には、枯山水の石庭「清閑庭(せいかんてい)」が広がります。京都の白川砂、鞍馬の赤石、吉野の青石などを用い、苔の緑と調和する七五三の石組が配されています。山門から眺める姿、本堂の広縁から眺める姿、それぞれで表情が異なり、四季折々の光の移ろいとともに、心を鎮める時間を提供してくれます。

元禄期の山門と弁天堂

極楽寺の山門は、元禄年間(1688年〜1703年)に建てられた楼門形式の立派な門で、豊岡市の指定文化財となっています。本堂の端正な佇まいとは対照的に、風格ある古材の味わいが魅力です。山門に至る参道脇には弁天堂や苔むした石仏が並び、境内へと導く静かな導入部を形づくっています。

独鈷水──無病長寿の霊泉

本堂の裏手、墓地を通り抜けた先の岩かげからは、冷たく清らかな清水が湧き出ています。城崎温泉の開祖と伝わる道智上人が、手にしていた独鈷(とっこ)で岩壁を突いた際に湧き出したとされる霊水で、「独鈷水(どっこすい)」と呼ばれ、無病長寿の水として知られています。

坐禅体験で静かな時間を

極楽寺では、予約をすれば住職の指導のもと坐禅を体験することができます。坐禅の組み方から丁寧に教わることができるため、初心者でも安心して参加できます。坐禅のあとは抹茶と和菓子をいただきながら、住職の法話を拝聴することもでき、海外からの観光客にも高く評価されている静かな人気プログラムです。

極楽寺周辺の観光

城崎温泉は、外湯巡り発祥の地として知られ、浴衣と下駄でそぞろ歩きながら七つの外湯をめぐる文化が根付いています。大谿川沿いには柳並木と石橋が連なり、温泉街全体が一つの旅館のように楽しめる街並みが続きます。

まんだら湯

極楽寺のすぐ隣には、外湯のひとつ「まんだら湯」があります。奈良時代の養老年間(717年頃)、道智上人が1000日間にわたり八曼陀羅経を唱え続けたところ霊湯が湧き出したという伝説があり、これが城崎温泉の起源とされています。「一生一願の湯」としても知られ、人生の節目に訪れる人も多い外湯です。

温泉寺と城崎温泉ロープウェイ

極楽寺のすぐ上手からは、大師山山頂へと続く城崎温泉ロープウェイが運行されています。途中駅には温泉寺があり、その本堂は国指定重要文化財。極楽寺・温泉寺・ロープウェイ展望を組み合わせれば、半日かけて城崎の歴史と景観をじっくり味わうことができます。

城崎の街歩きとグルメ

温泉街を歩けば、和カフェや土産物店、食事処が軒を連ねています。冬は日本海の松葉がに、年間を通じては但馬牛など、兵庫北部ならではの山海の幸を堪能できます。夜にはライトアップされた温泉街が幻想的な雰囲気を醸し出し、昼とは違った表情を楽しめます。

Q&A

Q極楽寺は一般に公開されていますか。拝観料はかかりますか。
Aはい、境内は概ね8:00〜17:00の間、一般に公開されています(不定休のため事前確認推奨)。通常の参拝は無料です。坐禅体験など特別な体験は予約制で、別途志納が必要です。
Q最寄駅からのアクセスを教えてください。
AJR山陰本線「城崎温泉駅」から徒歩約13分です。温泉街を抜けた奥に位置しており、路線バスで「まんだら湯」周辺まで向かい、そこから徒歩数分で到着することもできます。
Q本堂の建築の見どころは何ですか。
A伝統的な方丈型の六間取に広縁と落縁をめぐらせ、火灯窓や折上格天井といった禅宗建築の要素を備えつつ、正面にガラス戸を用いるなど大正期の近代的要素を融合させている点が大きな特徴です。その伝統と近代の調和が評価され、2015年に国の登録有形文化財に登録されました。
Q坐禅体験は外国人でも参加できますか。
Aはい、事前予約をすれば外国からの観光客も坐禅体験に参加できます。坐り方から丁寧に指導いただけるため初心者でも安心で、体験後には抹茶と和菓子をいただきながら住職と語らう時間もあります。
Q訪れるのに良い季節はいつですか。
A四季それぞれに趣があります。春は近くの大谿川沿いの桜、夏は清閑庭の苔と独鈷水の清涼感、秋は紅葉に彩られる枯山水、冬は雪化粧した庭と城崎温泉の湯との組み合わせが格別です。

基本情報

名称 極楽寺本堂(ごくらくじほんどう)
指定区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 2015年(平成27年)11月17日
竣工 1921年(大正10年)
構造 木造平屋建、瓦葺、建築面積約200㎡、1棟
宗派 臨済宗大徳寺派
本尊 阿弥陀如来
所在地 兵庫県豊岡市城崎町湯島字寺ノ谷800-3
所有者 宗教法人極楽寺
アクセス JR山陰本線「城崎温泉駅」より徒歩約13分
拝観時間 概ね8:00〜17:00(不定休、事前確認推奨)

参考文献

極楽寺本堂 - 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/237971
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00010856
極楽寺 | 豊岡市観光公式サイト
https://toyooka-tourism.com/spot/gokurakuji/
極楽寺 - 城崎温泉観光協会
https://kinosaki-spa.gr.jp/facility/gokurakuji/
美しい石庭にカラダもココロも癒される - 豊岡市観光公式サイト
https://toyooka-tourism.com/recommend/culture/gokurakuji/
極楽寺庭園"清閑庭" - 庭園情報メディア【おにわさん】
https://oniwa.garden/gokurakuji-temple-toyooka-kinosakionsen/
極楽寺 (豊岡市) - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/極楽寺_(豊岡市)

最終更新日: 2026.04.22