城崎温泉ロープウェイ山頂駅:黒部ダムの技術が息づく山上の登録有形文化財

標高231メートルの大師山山頂に佇む城崎温泉ロープウェイ山頂駅は、戦後日本の工業技術と建築の英知を今に伝える貴重な文化財です。1962年(昭和37年)に竣工したこの鉄筋コンクリート造の建物は、2017年10月に国の登録有形文化財に指定されました。その理由は、山頂の景観と調和した優れた外観デザインと、日本を代表する土木事業・黒部ダム建設と結びついた建設技術の継承にあります。

一般的な観光施設とは異なり、山頂駅は産業史、ミッドセンチュリー建築、そして自然美が交差する特別な場所です。屋上展望台からの眺望はミシュラングリーンガイドで一つ星を獲得しており、日本の建築遺産との本物の出会いを求める旅行者にとって必見のスポットとなっています。

大師山山頂に建つ城崎温泉ロープウェイ山頂駅

文化財誕生の物語:黒部ダムの遺産から生まれたロープウェイ

城崎温泉ロープウェイの誕生には、城崎出身の偉人・太田垣士郎の存在があります。関西電力の初代社長を務めた太田垣は、「20世紀のピラミッド」と称された黒部ダム建設の総指揮を執った人物です。この世紀の難工事は後に石原裕次郎、三船敏郎主演の映画『黒部の太陽』として全国に知られることとなりました。

故郷の発展に貢献したいという願いから、太田垣は1962年にロープウェイ事業を発案。関西電力、阪急電鉄、城崎町、地元有志の協力を得て、黒部ダム建設で培ったコンクリート技術を駆使した駅舎の建設が進められました。

驚くべきことに、竣工から50年以上を経た耐震診断において、山頂駅を含む各駅舎はほぼ建設当時のままで現代の耐震基準をクリアしました。黒部ダムで磨き上げられたコンクリート技術が、今なお利用者の安全を守り続けているのです。

建築的価値:山上に佇むミッドセンチュリーモダン

山頂駅は、日本のミッドセンチュリー建築の抑制された美しさを体現しています。鉄筋コンクリート造2階建、建築面積187平方メートルのこの建物は、西側に緩やかなカーブを描く陸屋根を持ち、その屋上が展望台として機能するという、実用性と体験価値を巧みに融合させた設計となっています。

建物西側には運転室や電気室などの諸室が設けられ、乗降場の構造は路線内の他の駅舎と統一されています。設計者は自然環境への配慮を特に重視し、山頂の景観を支配するのではなく調和する外観を創り上げました。

この景観への細やかな配慮こそ、文化庁が登録有形文化財に指定した際に特筆した点です。建物は運輸施設としての機能を維持しながら、山頂の良好な景観形成に成功しているのです。

ミシュラン一つ星の絶景:山頂からのパノラマ

山頂駅屋上の展望台からの眺めは、ミシュラングリーンガイド日本版で一つ星(「寄り道する価値がある」)を獲得しました。この展望台からは、城崎温泉の街並み全景(こちらは二つ星を獲得)、谷間を蛇行する円山川、そして遠く水平線に輝く日本海までを一望することができます。

眺望は四季によって劇的に変化します。春には山肌を彩る桜、夏には鮮やかな緑の樹海、秋には紅葉が斜面を赤や金色に染め上げ、冬には時として白銀の世界が広がります。大師山は太田垣士郎が幼少期に友人たちと駆け巡った思い出の場所でもあり、訪れる人々を自然の美しさと人の歴史の両方に結びつけてくれます。

山頂での体験と見どころ

建築遺産としての価値に加え、山頂エリアにはさまざまな楽しみが用意されています。駅舎内にある「みはらしテラスカフェ」では、自家焙煎のスペシャルティコーヒー、地元食材を使ったホットドッグ、オリジナルスイーツを提供。大きな窓越しに広がる山々の景色や、屋外テラスからのパノラマを眺めながら、ゆったりとした時間を過ごすことができます。

駅舎の近くには温泉寺奥の院・大師堂があります。弘法大師、千手観音、妙見菩薩を祀る、現在では珍しい土間のお堂です。この聖地は山腹にある温泉寺本堂—城崎温泉を1,300年守り続けてきた守護寺—へと繋がっています。

また「かわらけ投げ」も体験できます。素焼きの皿を山頂から投げ、円山川を背景に設置された輪をくぐれば願いが叶うといわれる日本の伝統的な風習。日本の民俗文化に直接触れることができる貴重な機会です。

ロープウェイの旅:日本唯一の中間駅を持つ交走式

城崎温泉ロープウェイは、日本の交通史において唯一の特徴を持っています。交走式(往復式)ロープウェイでありながら中間駅を持つのは、日本でここだけなのです。温泉寺駅での途中下車により、歴史ある寺院境内を散策でき、単なる移動手段ではない重層的な文化体験を提供しています。

山麓駅から山頂駅までの約7分間の空中散歩では、ゴンドラが上昇するにつれて森林を越え、眼下に広がる景色がどんどん開けていきます。運行は20分間隔で、始発9時10分、上り最終16時30分、下り最終17時10分となっています。

訪問ガイド

ロープウェイ山麓駅は城崎温泉街の西端に位置し、JR城崎温泉駅から徒歩約20分です。柳並木の大谿川沿いに伝統的な旅館が建ち並ぶ温泉街を通るルートは、山上体験への素敵な序章となるでしょう。

山麓駅乗り場までには約100段の階段があることにご注意ください。現在、バリアフリー対応はしておりませんので、移動に不安のある方は事前にご確認ください。

より充実した体験のために、ロープウェイ訪問と城崎温泉名物の「外湯めぐり」を組み合わせることをお勧めします。それぞれ異なる特徴と由来を持つ7つの外湯が街に点在しており、山歩きで疲れた足を癒すのにぴったりです。

周辺の見どころ

山頂駅はいくつかの魅力的なスポットへの玄関口でもあります。中間駅から訪れることができる温泉寺は、但馬地方最古の寺院として1,300年の歴史を誇ります。本堂に祀られる十一面観音立像は、奈良・長谷寺の観音像と同じ霊木から彫られたと伝えられています。

山麓駅前には「太田垣士郎翁資料館」があり、ロープウェイの発案者であり黒部ダム建設を指揮した太田垣の生涯を紹介する展示を無料で見学できます。黒部ダム建設の映像資料も上映されています。

但馬地方にはさらなる探訪先が広がっています。柱状節理の玄武洞、日本海沿いの美しいビーチ、そして冬の味覚の王様・松葉がに—全国から食通を惹きつける冬の絶品グルメです。

Q&A

Q城崎温泉ロープウェイ山頂駅が登録有形文化財に指定された理由は?
A2017年10月に指定されました。山の景観と調和した優れた建築デザイン、黒部ダム建設技術を用いて建てられた歴史的意義、そして山頂の良好な景観形成への貢献が評価されました。緩やかにカーブした屋根のラインと景観への配慮は、質の高いミッドセンチュリー建築を体現しています。
Qロープウェイと黒部ダムの関係は?
Aロープウェイは、黒部ダム建設を指揮した関西電力初代社長・太田垣士郎が発案しました。彼は故郷・城崎のために、あの記念碑的プロジェクトで培った先進的なコンクリート技術を持ち込みました。その結果、竣工から60年以上経った今も現代の耐震基準を上回る駅舎が実現したのです。
Q山頂駅からの眺めの魅力は?
Aそのパノラマビューはミシュラングリーンガイド日本版で一つ星を獲得しています。屋上展望台からは、城崎温泉の街並み(二つ星獲得)、円山川の谷間、日本海までを一望でき、四季によって劇的に表情を変える絶景を楽しめます。
Q城崎温泉駅からロープウェイへの行き方は?
A山麓駅はJR城崎温泉駅から徒歩約20分、温泉街の西端に位置しています。直通バスはありませんが、風情ある温泉街を歩くルートは楽しい散策になります。乗り場までは約100段の階段がありますのでご注意ください。
Q山頂にはどんな施設がありますか?
Aスペシャルティコーヒーと地元グルメを提供する「みはらしテラスカフェ」、ミシュラン一つ星の眺望を誇る展望台、温泉寺奥の院・大師堂、開運祈願の「かわらけ投げ」ができる広場、そして遊具のある広場があります。また、来日山へのトレッキングコースの起点にもなっています。

基本情報

名称 城崎温泉ロープウェイ山頂駅(きのさきおんせんロープウェイさんちょうえき)
文化財指定 登録有形文化財(建造物) 2017年(平成29年)10月27日登録
竣工 1962年(昭和37年)
構造 鉄筋コンクリート造2階建、建築面積187㎡
標高 231メートル
所在地 〒669-6101 兵庫県豊岡市城崎町湯島字寺ノ谷806-1
所有者 城崎観光株式会社
営業時間 始発 9:10 / 上り最終 16:30 / 下り最終 17:10
定休日 第2・第4木曜日(祝日の場合は営業)
往復運賃(山頂まで) 大人 1,200円 / 小人 600円
電話番号 0796-32-2530
アクセス JR城崎温泉駅より徒歩約20分

参考文献

城崎温泉ロープウェイ山頂駅 - 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/290043
城崎温泉ロープウェイ 公式サイト
https://kinosaki-ropeway.jp/
ロープウェイ建設ストーリー - 城崎温泉ロープウェイ
https://kinosaki-ropeway.jp/story/
城崎ロープウェイ - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/城崎ロープウェイ
太田垣士郎資料館 - 城崎温泉観光協会
https://kinosaki-spa.gr.jp/facility/ootagaki/
城崎ロープウェイ - まるごと北近畿
https://kitakinki.gr.jp/members/372884
太田垣士郎 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/太田垣士郎

最終更新日: 2026.01.13

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