名古屋の街路から数寄屋の庭へ

名古屋市千種区の閑静な街路から石段を数段のぼると、間口わずか一・二メートルの木造の門が姿を見せる。古川美術館の分館「爲三郎記念館(旧古川爲三郎邸)」の東門である。記念館は、名古屋で映画興行などを手がけた実業家・古川爲三郎(一八九〇〜一九九三)が暮らした邸宅で、爲三郎の没後、「住まいを皆の憩いの場に」という遺志を受けて一般に公開された。東門は、この敷地に建つ六棟の建造物とともに、平成三十年(二〇一八)十一月に国の登録有形文化財となった。

門そのものは小ぶりで、構えも控えめである。昭和前期、邸宅が現在の姿に整った昭和九年ごろに建てられ、平成七年(一九九五)の公開にあわせて改修された。街路と、椎の大木が茂る数寄屋の庭とを隔てる境にあたる。石段をのぼれば、通りの喧噪は背後へ遠のいていく。

「指定」ではなく「登録」という保護

国宝や重要文化財という言葉は広く知られているが、東門を護るのはそれらとは別の枠組みである。登録有形文化財は平成八年(一九九六)に始まった制度で、おもに近代以降の建造物を対象とする。所有者に厳しい現状変更の規制を課す「指定」に対し、「登録」は届出を基本とし、建物を日常的に使いながら保存することを促す、より緩やかなしくみといえる。

東門が登録された基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。一・二メートルの門は単体では小さな存在だが、戦前の邸宅の一部として、別邸や茶室が並んでいた覚王山界隈の景観を今に残す役割を担う。同じ平成三十年十一月には、主屋の爲春亭、茶室の知足庵、正門、待合、雪隠もあわせて登録された。茶を中心とする邸宅に必要な建物が、ほぼ一式そろって護られている。

門の細部と、その先の庭

門をくぐる前に、少し立ち止まって見上げたい。東門は腕木門と呼ばれる形式で、屋根を支える軒桁を、本柱から突き出した肘木付きの腕木で受ける。形式そのものは各地に見られるが、用いられた材は尋常ではない。軒桁にも垂木にも磨き丸太を使い、木肌を磨き上げて木目を見せる。屋根はこけら葺、左右には袖塀が付く。垂木の間隔はゆったりと広く取られ、塗りも金物の装飾もない。整った比率と素材の質感だけで構えを成り立たせている点に、数寄屋の美意識がうかがえる。

門の先には邸宅が広がる。主屋の爲春亭は昭和九年(一九三四)の上棟で、南西側を懸造とし、斜面に張り出した座敷の下に庭が落ち込む。内部は座敷と茶室を雁行に並べ、それぞれの部屋から異なる庭の眺めが得られるよう工夫されている。庭の西辺に独立して建つ茶室・知足庵は昭和十一年(一九三六)の完成で、国宝の茶室・如庵に着想を得つつ、床の間を台形にするなど独自の意匠を加えている。爲三郎が伐ることを惜しんだ椎の大木が、こうした建物全体を包んでいる。

記念館と美術館、そして周辺

記念館は、北へ徒歩一分ほどの古川美術館とあわせて巡りたい。美術館は平成三年(一九九一)の開館で、爲三郎が生涯をかけて集めた約二八〇〇点を収蔵する。近代日本画を中心に、陶磁器や工芸品、十五世紀の彩飾写本などが含まれる。記念館の邸内には「数寄屋 de Café」があり、庭を眺めながら抹茶や珈琲、季節の和菓子を味わえる(飲食は別料金)。

最寄りは地下鉄東山線の池下駅で、徒歩数分。寺町の参道や小さな店が並ぶ覚王山駅からも歩いて行ける。開館は十時から十七時(入館は十六時三十分まで)、月曜は休館で、祝日にあたる場合は翌平日が休みとなる。入館料は展覧会ごとに変わり、茶の利用は別料金のため、訪問前に公式サイトで確認しておくとよい。

Q&A

Q東門は国宝や重要文化財ですか。
Aいいえ。東門は登録有形文化財で、国宝や重要文化財の「指定」とは別の、平成八年(一九九六)に設けられた緩やかな保護の枠組みにあたります。平成三十年十一月に、敷地内の他の五棟とともに登録されました。
Q門を実際にくぐることはできますか。
A東門は公開されている記念館の敷地内にあり、開館時間中であれば間近に見ることができます。ただし、その日の入口や順路は展覧会や催しによって変わることがあるため、当日の案内に従ってください。
Q門はどのような造りですか。
A切妻屋根の腕木門で、屋根はこけら葺です。軒桁と垂木に磨き丸太を用い、左右に袖塀を付します。間口は約一・二メートルです。
Q敷地内では他に何が見られますか。
A斜面に張り出した懸造の主屋・爲春亭(昭和九年)、独立した茶室・知足庵(昭和十一年)、椎の大木が茂る庭、そして数寄屋 de Café があります。徒歩一分の古川美術館では爲三郎の収集品が公開されています。
Qアクセスと開館時間を教えてください。
A地下鉄東山線・池下駅から徒歩数分です。記念館・美術館とも十時から十七時(入館は十六時三十分まで)の開館で、月曜休館(祝日の場合は翌平日休館)。入館料は展覧会により異なります。

基本情報

名称爲三郎記念館東門(ためさぶろうきねんかんひがしもん)
所在地愛知県名古屋市千種区掘割町一丁目9
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日平成30年(2018)11月2日(登録番号 23-0522)
員数1棟
構造・形式木造、こけら葺、間口約1.2メートル、左右袖塀付の腕木門(切妻造)
年代昭和前期(1926〜1945)/平成7年改修
所有者公益財団法人古川知足会
アクセス地下鉄東山線・池下駅から徒歩数分
開館時間10:00〜17:00(入館は16:30まで)、月曜休館
備考爲三郎記念館の敷地内。入館料は展覧会により異なる

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)爲三郎記念館東門
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012551
文化遺産オンライン 爲三郎記念館爲春亭
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/404121
文化遺産オンライン 爲三郎記念館知足庵
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/432162
古川美術館 爲三郎記念館(旧古川爲三郎邸)について
https://www.furukawa-museum.or.jp/memorial
名古屋市公式ウェブサイト 爲三郎記念館
https://www.city.nagoya.jp/kankou/rekishi/1017268/1017271/1017355.html

最終更新日: 2026.06.17