昭和4年から働き続けるろ過池

豊橋市街東部の小鷹野浄水場。その中央に、鉄筋コンクリート造の細長い水槽が5つ並んでいる。総面積はおよそ5,236平方メートル。これが緩速ろ過池である。多くの文化財と決定的に異なるのは、いまも現役で稼働している点だ。完成から一世紀近くを経たいまも、川の水はここを通って市民の蛇口へ向かう。

ろ過池ができたのは昭和4年(1929年)。豊橋市の市営上水道の整備にあわせ、まず4池が築かれた。5号池が増設されたのは昭和6年(1931年)である。全体の規模は長さおよそ130.9メートル、幅40メートルで、有効貯水量は約5,320立方メートル。南北に並ぶ5槽は、それぞれ西側に流入口、東側に調整井を備えている。

緩速ろ過という方法

緩速ろ過は、薬品に頼らない穏やかな生物処理である。水を細かい砂の層にゆっくりと通すと、砂の表面に育った微生物の膜が汚れの多くを取り除いてくれる。19世紀のヨーロッパで広まった技術だが、広い敷地と時間を要するため、現代の浄水場の多くは処理の速い方式に置き換えた。1920年代の緩速ろ過池が稼働を続けている例は、いまでは珍しい。

豊橋がこの方式を選べたのは、原水がもともときれいだったからである。水源は豊川の伏流水で、砂礫を通る間に自然にろ過されてから浄水場に届く。設計の顧問を務めたのは、東京の水道で経験を積んだ西大條覚。施設は昭和5年(1930年)3月の通水式を経て、市内全域への給水を開始した。

細部に目を向ける

実用一辺倒になりがちな施設でありながら、つくりは丁寧である。水槽の縁辺には花崗岩が張られ、流入口は素っ気ない開口ではなく馬蹄形にかたどられている。ろ過池一つにもきちんと意匠を施した、当時の土木技術者の姿勢がうかがえる細部である。

緩速ろ過池が登録有形文化財となったのは平成30年(2018年)11月2日。国土の歴史的景観への寄与が評価された。浄水場は稼働中の施設のため気軽に立ち入れる場所ではないが、ここは昭和5年以来途切れることなく豊橋の水を支えてきた、システムの静かな中心である。

Q&A

Qこのろ過池は本当にまだ使われているのですか。
Aはい。稼働中の小鷹野浄水場の一部として、現在も市内の水の処理を続けています。働き続けている文化財という、めずらしい例です。
Qいくつの池があり、いつ造られたのですか。
A5槽あります。昭和4年(1929年)にまず4池が完成し、昭和6年(1931年)に5号池が増設されました。全体で長さ約130.9メートル、幅約40メートルです。
Q緩速ろ過とは何ですか。
A細かい砂の層に水をゆっくり通し、砂面にできた微生物の膜で不純物を除く方法です。効果は高い一方で広い敷地を要するため、現在も採用している大規模浄水場は多くありません。
Q見学はできますか。
A小鷹野浄水場は稼働中の施設のため、一般には公開されていません。見学やイベントの有無については、豊橋市上下水道局にお問い合わせください。
Qなぜ原水がこの方式に向いているのですか。
A水源が豊川の伏流水で、砂礫を通る間にすでにろ過され、もともと水質が良いためです。それが穏やかな緩速ろ過を実用的な選択にしました。

基本情報

名称豊橋市上水道施設小鷹野浄水場緩速ろ過池(とよはししじょうすいどうしせつおだかのじょうすいじょうかんそくろかち)
所在地愛知県豊橋市東小鷹野二丁目9-3
指定区分登録有形文化財(建造物)
登録年月日平成30年(2018年)11月2日(登録番号 23-0527)
年代昭和4年(1929年)/昭和6年(1931年)5号池増設
員数・構造1基/鉄筋コンクリート造、面積5,236㎡、無蓋の5槽
所有者豊橋市上下水道局
公開状況稼働中の浄水施設。一般非公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「豊橋市上水道施設小鷹野浄水場緩速ろ過池」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012556
文化遺産オンライン「豊橋市上水道施設小鷹野浄水場緩速ろ過池」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/404131
豊橋市上下水道局「水道の歴史」
https://www.city.toyohashi.lg.jp/3984.htm

最終更新日: 2026.06.25