天使館(旧聖園マリア園):鉱山町が育んだ洋風保育施設の物語

秋田県鹿角郡小坂町の「明治百年通り」沿いに佇む天使館は、かつて東洋一の銅山として栄えた小坂鉱山の従業員の子どもたちのために建てられた幼児教育施設です。昭和7年(1932年)に竣工したこの木造平屋建ての洋風建築は、鉱山町の繁栄と、そこに暮らした人々の豊かな生活を今に伝える貴重な近代化遺産として、平成15年(2003年)に国の登録有形文化財に登録されました。

ドイツ下見板張りの外壁、縦長の上げ下げ窓、ルネサンス風の玄関ポーチなど、小さな保育園とは思えない端正な意匠が施されたこの建物は、向かいに建つ小坂鉱山事務所や近くの康楽館にも引けを取らない存在感を放っています。現在は無料で一般公開され、地域の交流施設としても活用されています。

歴史的背景

小坂鉱山は、秋田県北東部の山間に位置する鉱山で、明治期から昭和期にかけて日本有数の銅・銀の産出量を誇りました。最盛期には数千人の従業員とその家族が暮らし、先進的な都市基盤が整備された小坂の町は「鉱山都市」として独自の文化を築き上げました。

昭和6年(1931年)、カトリック修道会「聖心愛子会」が小坂鉱山の協力を得て、鉱山従業員の子どもたちのための保育施設「聖園マリア園」を開設しました。当初は銀山町にあった既存の建物を改修して使用していましたが、翌昭和7年に現在地に待望の新園舎が完成しました。これが現在の天使館です。

聖園マリア園はキリスト教の精神に基づいた保育を行い、約60年にわたって鉱山の子どもたちの成長を見守り続けました。平成4年(1992年)に新しい園舎への移転に伴い使用を終えましたが、その後、小坂町によって保存・修復が行われ、平成14年(2002年)に「天使館」として再生しました。

文化財指定の理由

天使館は、平成15年(2003年)7月1日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その評価の要点は、小坂鉱山の近代化遺産群の一つとして、昭和初期の洋風建築の特徴をよく残している点にあります。

文化庁の解説によれば、本建物の特徴として、ドイツ下見の外壁(西側背面のみイギリス下見)、縦長の上げ下げ窓、玄関ポーチの柱型やペディメント(三角破風)、大屋根端部やポーチ上部の棟飾りなど、「平明な洋風の意匠」が挙げられています。保育施設という日常的な建物であるにもかかわらず、格調高い意匠が施されている点が、当時の鉱山町の文化水準の高さを物語っています。

建築の見どころ

天使館は木造平屋建て、銅板葺きで、建築面積は372平方メートルです。町の中心を南北に走る町道に東面して建っています。

外観で最も目を引くのは、西洋の教会を思わせる端正なファサードです。淡い色調の下見板張りの外壁に等間隔で並ぶ縦長の上げ下げ窓、そして三角形のペディメントを戴く玄関ポーチが、キリスト教系保育園にふさわしい清楚な雰囲気を醸し出しています。屋根の両端とポーチ上部に配された棟飾りが、建物に華やかなアクセントを加えています。

館内に入ると、かつての保育室であった広々としたホールが広がります。装飾を極力排した簡素な空間は、静謐で心洗われるような雰囲気に満ちています。奥には旧園長室があり、聖園マリア園の歴史に関する展示が行われています。玄関付近にはシスターと子どもたちの像が置かれ、かつてこの場所で営まれた保育の日々を偲ばせます。

毎年12月にはイルミネーションで彩られ、冬の小坂に幻想的な雰囲気を添えています。

周辺情報

天使館が面する「明治百年通り」は、わずか500メートルほどの間に明治から昭和初期にかけての近代化遺産が立ち並ぶ、小坂町を代表する歴史的景観です。

天使館の向かいには、明治38年(1905年)に建てられた旧小坂鉱山事務所がそびえています。ルネサンス様式を基調とした木造三階建ての壮麗な建物で、らせん階段やバルコニーなど見応えのある内部を見学できます。すぐ近くには、明治43年(1910年)に建てられた芝居小屋・康楽館があり、国の重要文化財に指定されています。現在も現役の劇場として歌舞伎や芝居の公演が行われています。

また、旧小坂鉄道の駅舎や車両を活用した「小坂鉄道レールパーク」も徒歩圏内にあり、鉱山鉄道の歴史に触れることができます。周辺には十和田湖や八幡平など、東北を代表する自然景観へのアクセスも良好で、文化財巡りと自然散策を組み合わせた旅が楽しめます。

Q&A

Q入館料はかかりますか?
A入館無料です。開館時間は9:00〜17:00で、年末年始のみ休館となります。
Q天使館へのアクセス方法を教えてください。
Aお車の場合、東北自動車道・小坂ICから約3分です。公共交通機関をご利用の場合は、JR花輪線・十和田南駅からバスで約25分、「鉱山事務所前」バス停下車徒歩約1分です。
Q建物の内部は見学できますか?
Aはい、開館時間中は自由に内部を見学できます。メインホールのほか、マリア園の歴史に関する展示室もご覧いただけます。
Q周辺にはどのような観光スポットがありますか?
A天使館のある明治百年通り沿いに、旧小坂鉱山事務所、康楽館(国重要文化財)、小坂鉄道レールパークなどが徒歩圏内に集まっています。
Q天使館は貸し出し利用できますか?
Aはい、ホールを1時間300円(税込)でご利用いただけます。暖房使用時は別途1時間300円が必要です。ご予約は小坂鉱山事務所(0186-29-5522)までお問い合わせください。

基本情報

名称 天使館(旧聖園マリア園)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成15年(2003年)7月1日
竣工 昭和7年(1932年)
構造 木造平屋建、銅板葺、建築面積372㎡
所在地 秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山字古舘35-6
所有者 小坂町
開館時間 9:00〜17:00
休館日 年末年始
入館料 無料
お問い合わせ 0186-29-5522(小坂鉱山事務所)
アクセス 東北自動車道・小坂ICから車で約3分/JR十和田南駅からバスで約25分、「鉱山事務所前」下車徒歩約1分

参考文献

文化遺産オンライン – 天使館(旧聖園マリア園)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/149955
秋田犬ツーリズム – 天使館(旧聖園マリア園)
https://visitakita.com/tourist-guide/guide25/
明治百年通り – 小坂まちづくり株式会社
https://kosaka-mco.com/pages/71/
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003345

最終更新日: 2026.04.10