旧対川荘:西馬音内川のほとりに佇む明治の庭園建築
秋田県雄勝郡羽後町西馬音内の川原田地区、北流する西馬音内川を望む敷地に静かに佇む旧対川荘(きゅうたいせんそう)は、明治後期に建てられた木造二階建ての庭園建築です。2011年(平成23年)1月26日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されたこの建物は、かつて地域の迎賓館として多くの文化人を迎え入れた歴史を持ちます。現在は洋菓子ブランド「CAFE OHZAN(カフェオウザン)」を展開する株式会社櫻山が所有し、歴史ある建築空間を活かしたカフェとして新たな命が吹き込まれています。
歴史的背景
旧対川荘は、明治後期(1898年~1912年)に西馬音内川に面した敷地に建設されました。「対川荘(たいせんそう)」の名は、川に対面する(向き合う)荘(別荘・宿)という意味を持ち、その名のとおり川の景観を楽しむために設計された建物です。建設当時から地域の迎賓施設として機能し、文化的サロンの役割も果たしてきました。
明治期には、正岡子規の高弟として知られる俳人・河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)が、この地を訪れた際に滞在したと伝えられています。碧梧桐は1907年(明治40年)に西馬音内を訪れ、偶然目にした盆踊りを「初めて絵になる盆踊りを見た」と評したことで知られています。また、小説家の藤原審爾もこの建物にゆかりがあり、櫻山にはその部屋が今も残されています。さらに、直木賞作家の阿佐田哲也(本名:色川武大)もかつてこの敷地にあった川原田荘に仕事部屋を構えていたとされ、多くの文人墨客に愛された場所でした。
時代の変遷とともに使い手を失い、雑木林の中にひっそりと眠っていた対川荘でしたが、羽後町出身でCAFE OHZANのオーナーである榎本鈴子氏の強い思いによって、2007年(平成19年)に大規模な改修が行われました。歴史的建造物としての価値を損なうことなく現代的な用途に適合させたこの改修により、建物は「森のカフェ」として新たな役割を担うこととなりました。
登録有形文化財としての価値
旧対川荘は、2011年(平成23年)1月26日に登録番号05-0184として、第69回登録において国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とされています。
文化庁による解説では、本建物の特徴として以下の点が挙げられています。西馬音内川に西面する敷地に建つ木造二階建、寄棟造鉄板葺の建物で、建築面積は111平方メートル。一階・二階とも眺望のためにガラス戸を建て、開放的な佇まいとしている点が特筆されます。二階にはトコ(床の間)や棚を構える主座敷と次の間が並び、三方に縁をまわす構造となっています。全体として「軽快な意匠になる庭園建築」と評価されており、川辺の自然景観と一体となった優美な住居建築の好例とされています。
近代以降の建造物が急速に失われつつある中、明治期の地方における迎賓施設の姿を今に伝える貴重な遺構として、その保存と活用が高く評価されています。
建築の見どころ
旧対川荘の最大の魅力は、川の景観を最大限に取り込むための設計思想にあります。一階・二階ともに大きなガラス戸が設けられ、室内にいながらにして西馬音内川の流れと対岸の緑を楽しむことができます。これは日本建築の伝統的な手法である「借景」の考え方を取り入れたもので、自然の風景を建物の一部として取り込む巧みなデザインです。
二階の主座敷は、床の間と飾り棚を備えた本格的な和室で、三方に回された縁側からは川沿いの風景を広角に楽しむことができます。寄棟造の屋根は鉄板で葺かれており、豪雪地帯である秋田県南部の気候に対応した実用的な選択が見て取れます。全体として過度な装飾を排しながらも、随所に上質な意匠が施された、品格ある建築となっています。
現在のCAFE OHZAN森のカフェとしての営業では、フランスから集められたヴィンテージレースやバラ柄の雑貨がディスプレイされ、和洋折衷の独特な雰囲気が創出されています。看板商品であるクロワッサンラスクの焼き立てをいただけるのは、この森のカフェならではの特別な体験です。
アクセス・拝観情報
旧対川荘は、秋田県雄勝郡羽後町西馬音内字川原田12-2に所在しています。CAFE OHZAN森のカフェとして営業しており、主に春から秋にかけての土日祝日に開店しています。営業日程は季節によって変動するため、訪問前に最新の情報をご確認ください。
公共交通機関をご利用の場合は、JR奥羽本線湯沢駅から羽後交通の路線バス(西馬音内線)で約20~30分です。お車の場合は、湯沢横手道路の湯沢インターチェンジから約15分で羽後町の中心部に到着します。秋田空港からは、リムジンバスで秋田駅へ向かい、JR奥羽本線に乗り換えて湯沢駅をご利用ください。
周辺の見どころ
羽後町は文化財の宝庫であり、旧対川荘の訪問と合わせてさまざまな歴史・文化スポットを巡ることができます。
毎年8月16日から18日に開催される西馬音内盆踊りは、日本三大盆踊りの一つに数えられ、国の重要無形民俗文化財に指定されるとともに、2022年にはユネスコの無形文化遺産にも登録されました。約700年の歴史を持つこの盆踊りでは、端縫い衣装や彦三頭巾を身にまとった踊り手が、篝火のもとで幻想的な舞を披露します。西馬音内盆踊り会館では、シーズン外でもお囃子の実演や踊りの体験が可能です。
盆踊りが行われる本町通りの一角には、秋田県指定有形文化財の黒澤家住宅があり、江戸時代後半に建てられた秋田藩の典型的な町屋建築を見学することができます。国の重要文化財に指定されている鈴木家住宅は、東北地方でも最も古い部類に属する中門造りの民家で、東北における鈴木姓の発祥の地としても知られています。
三輪神社・須賀神社はともに国の重要文化財に指定されており、桃山時代の建築様式を伝える急勾配の屋根が特徴的です。また、鎌鼬美術館では、写真家・細江英公による前衛舞踏家・土方巽の作品を鑑賞することができます。
食の楽しみとしては、1818年に始まる西馬音内そばがおすすめです。冷やがけスタイルの蕎麦が名物で、弥助そばやをはじめとする老舗が町内に点在しています。道の駅うごでは、地元産の野菜やジェラート、羽後牛を使った料理も楽しめます。五輪坂温泉としとらんどでは、日帰り入浴でくつろぐこともできます。
Q&A
- 旧対川荘は現在どのように利用されていますか?
- 現在は株式会社櫻山が所有し、洋菓子ブランド「CAFE OHZAN(カフェオウザン)」の「森のカフェ」として営業しています。明治期の歴史ある建築空間で、看板商品のクロワッサンラスクやスペシャルティコーヒーを楽しむことができます。主に春から秋にかけての土日祝日に営業しています。
- 旧対川荘はいつ建てられ、いつ文化財に登録されましたか?
- 建物は明治後期(1898年~1912年)に建てられ、2007年(平成19年)に改修されました。2011年(平成23年)1月26日に、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として国の登録有形文化財(建造物)に登録されています。登録番号は05-0184です。
- 東京からのアクセス方法を教えてください。
- 東京からは秋田新幹線で大曲駅まで行き、JR奥羽本線(上り)に乗り換えて湯沢駅で下車します。湯沢駅からは羽後交通の路線バス(西馬音内線)で約20~30分です。また、東京~横手間の夜行高速バス(グリーンライナー号)を利用する方法もあります。お車の場合は湯沢横手道路の湯沢ICが最寄りです。
- この建物にゆかりのある著名人はいますか?
- 正岡子規門下の俳人・河東碧梧桐がこの地に滞在したと伝えられています。また、小説家の藤原審爾ゆかりの部屋が櫻山に残されているほか、直木賞作家の阿佐田哲也(色川武大)もかつてこの敷地内の川原田荘に仕事部屋を持っていたとされています。
- 冬季に訪問することは可能ですか?
- CAFE OHZAN森のカフェは主に春から秋にかけての季節営業のため、冬季は休業していることが多いです。羽後町は特別豪雪地帯に指定されており、冬季のアクセスには十分な注意が必要です。訪問前に最新の営業情報をご確認ください。建物の外観は通年で見学可能です。
基本情報
| 名称 | 旧対川荘(きゅうたいせんそう) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 2011年(平成23年)1月26日 |
| 登録番号 | 05-0184(第69回登録) |
| 登録基準 | 国土の歴史的景観に寄与しているもの |
| 建築年代 | 明治後期(1898年~1912年)/平成19年(2007年)改修 |
| 構造・形式 | 木造2階建、寄棟造鉄板葺、建築面積111㎡ |
| 種別 | 住宅(庭園建築) |
| 所在地 | 〒012-1131 秋田県雄勝郡羽後町西馬音内字川原田12-2 |
| 所有者 | 株式会社櫻山 |
| 交通アクセス | JR奥羽本線湯沢駅から羽後交通バス(西馬音内線)約20~30分/湯沢横手道路 湯沢ICから車で約15分 |
| 問い合わせ | 羽後町役場 みらい産業交流課 観光担当 TEL:0183-62-2111 |
参考文献
- 旧対川荘 - 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/169588/2
- 国指定文化財等データベース - 旧対川荘
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00008412
- CAFE OHZAN 森のカフェ - ぐるたび
- https://gurutabi.gnavi.co.jp/a/a_1179/
- 西馬音内 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A5%BF%E9%A6%AC%E9%9F%B3%E5%86%85
- 羽後町への交通アクセス - 羽後町公式サイト
- https://www.town.ugo.lg.jp/sightseeing/detail.html?id=1957&category_id=45
- 西馬音内盆踊り概要 - 羽後町観光物産協会
- https://ugokanko.com/bonodorigaiyou/
- 黒澤家住宅 - 羽後町観光物産協会
- https://ugokanko.com/kurosawake/
- 株式会社珠屋櫻山 公式サイト
- https://ohzan.jp/
最終更新日: 2026.04.17