花輪祭の屋台行事 ― 太鼓を止めずに歩く、二夜の屋台

毎年8月、秋田県北東部の鹿角市花輪の町なかを、10基の屋台が二夜にわたって巡行する。屋台に近づくと、その独特な造りに気づく。前部に床がないのである。太鼓の叩き手は道そのものに立ち、足と腰でリズムを取りながら屋台とともに歩いて演奏する。屋台が動いている間、囃子の音はやまない。

地元で「花輪ばやし」と呼ばれるこの祭りの正式名称は「花輪祭の屋台行事」。花輪に鎮座する幸稲荷神社と花輪神明社の合同の例大祭であり、少なくとも二世紀半にわたってこの町で続けられてきた。

鉱山町に根づいた祭り

花輪は米代川の上流域に位置し、現在の鹿角市の中心をなす。近世以来、周辺の豊かな山林から産する木材と、近隣の鉱山から出る鉱産物の集積地として発展してきた。盛岡藩は花輪に代官所を置き、盛岡から鹿角街道が通じていた。明治に入っても採掘・製錬技術の近代化により、鹿角は全国屈指の鉱産物量を誇る地となった。

花輪祭の起源ははっきりしない。文献上の初見は明和2年(1765年)の『御銅山御定目帳』で、花輪稲荷の祭礼が毛馬内のものと隔年で行われていたと記されている。文久3年(1863年)の『阿津免久佐』には「花輪祭中止」とあり、近世にはすでに花輪祭の名で行われていたことがわかる。

長らく花輪祭は幸稲荷神社単独の祭礼だった。昭和35年(1960年)に花輪神明社の例大祭がこれに加わり、以後は二社合同の行事となっている。屋台をだすのは、舟場元町・舟場町・新田町・六日町・谷地田町・大町・旭町・新町・横丁・組丁の10町である。

重要無形民俗文化財に指定された理由

花輪祭の屋台行事は、平成26年(2014年)3月10日に国の重要無形民俗文化財に指定された。指定基準は、由来や内容において我が国民の基盤的な生活文化の特色を示す典型的なもの、というもので、五穀豊穣や家内安全を祈願する祭礼としての性格が評価されている。

その2年後、平成28年(2016年)には、全国33件の屋台・山車の祭りをまとめた「山・鉾・屋台行事」の一つとして、ユネスコ無形文化遺産代表一覧表に記載された。京都の祇園祭や高山祭と同じ枠組みのなかに、花輪ばやしは北の一員として位置づけられている。

このグループのなかでも花輪の行事を特徴づけるのは、屋台の構造と、歩きながら囃子を演奏するという点である。花輪ばやしは日本三大ばやしの一つに数えられることもあり、これは公式の格付けではないものの、その囃子がいかに高く評価されているかをうかがわせる。

屋台、囃子、そして若者会

屋台は地元で「腰抜け」と呼ばれる、前部に床のない底抜け形式で造られている。囃子を演奏しながら動けるよう足回りは簡素に仕立てられ、屋根は唐破風。鬼板や懸魚には精巧な彫刻が施され、周囲には約20個の提灯が吊される。太鼓の奏者は床のない前部に入り、足や腰でリズムを取りながら歩いて演奏する。笛と三味線の奏者は後部に乗り、鉦の奏者は高欄に乗ったり、屋台に乗らずに並行して歩きながら演奏したりする。

囃子は本囃子、羯鼓、霧囃子など13曲を数える。なかには天保年間(1830年代から1840年代初頭)に京都から習ってきたと伝えられるものもある。屋台が動いている間は通常、本囃子を演奏することになっており、屋台が動いている限り囃子をやめてはならないとされてきた。

屋台の巡行を担うのは、各町内の若者会と呼ばれる組織である。高校卒業前後に加入し、42歳で脱会するのが慣わしだ。役は年功に応じて定められ、若者会の代表である正頭を頂点に、これを補佐する内頭、巡行を取り仕切る外交長、町内へ指示を伝達する先頭外交などがある。役員以外の者や町外から加わる芸人さんは、囃子の演奏や屋台の曳行を担う。喪中の人は参加しない。

巡行には一定の手順に基づく儀礼がある。先頭の屋台が他町に入るときに行われるのがチョウザカイで、先頭の屋台と迎える屋台が町境で対面し、外交長どうしが挨拶を交わす。ときには撥合わせと称して屋台を接触させ、囃子を競い合うこともある。屋台が特定の場に集合すると、サンサと呼ばれる手締めをする。若者会の役員らが横並びに整列し、手拍子をしながら三度唱える。屋台が葬儀中の家の前を通る際は、囃子をやめ提灯も消す。

訪れたときに見ておきたいこと

花輪祭は毎年8月19日と20日に行われる。屋台の巡行は19日夕方から21日未明まで続き、二夜のあいだほぼ途切れることがない。そのなかでも見どころとなる場面がいくつかある。

19日の夕方には、全10基の屋台が鹿角花輪駅前の広場に集まり、各町が得意の囃子を披露する。この駅前行事が、多くの見物客が目当てとする最高潮の場面で、桟敷席も用意される。20日の日付が変わると朝詰めが始まる。屋台は米代川にかかる橋に集合したのち、町の南外れに向かい、1基ずつ神職の祈祷を受けて神輿の前で得意の囃子を奉納する。夜明けには、屋台が霧囃子を演奏しながらそれぞれの町内へ戻っていく。

旅程が祭りの日程と合わない場合でも、道の駅かづの「あんとらあ」の祭り展示館では屋台を通年で展示しており、8月を除く4月から11月にかけて、月に一度ほど囃子の実演披露が行われている。

鹿角をめぐる

鹿角は腰を据えて訪ねたい土地である。縄文時代の人々が築いた二つの大規模な環状列石、大湯環状列石は車で少し走った先にあり、世界遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」を構成する。祭りを支えた富の源でもあった尾去沢鉱山は、現在は坑道を歩ける産業遺産として公開されている。大湯の温泉郷は宿をとって湯につかるのに格好の場所で、南に広がる八幡平の高原は登山や紅葉で人気がある。鹿角はまた、秋田を代表する郷土料理きりたんぽの本場の一つとして知られている。

Q&A

Qいつ、どこで行われますか。
A毎年8月19日と20日に、秋田県鹿角市花輪地区で行われます。大町・新町などの商店街と、JR花輪線の鹿角花輪駅前広場が中心の舞台です。
Qいちばんの見どころはどこですか。
A多くの見物客は、全10基の屋台が駅前広場に集まり囃子を競演する夕方の駅前行事を目当てに訪れます。この行事には桟敷席が用意されます。20日未明の朝詰めは、静かながら趣のある場面です。
Qなぜ叩き手は道を歩くのですか。
A屋台が前部に床のない底抜け形式で造られているためです。太鼓の奏者は道の上に立ち、動く屋台とともに歩きながら、足や腰でリズムを取って演奏します。
Qどうやって行けばよいですか。
AJR花輪線の鹿角花輪駅が玄関口で、祭りはその周辺で展開します。祭りに合わせて臨時列車が運行されることが多く、駐車場と会場の間をシャトルバスが結びます。両日とも周辺で交通規制があります。
Q祭りの日以外でも屋台を見られますか。
A見られます。道の駅かづの「あんとらあ」の祭り展示館では屋台を通年展示しており、8月を除く4月から11月にかけて、月に一度ほど囃子の実演披露を行っています。

基本情報

名称花輪祭の屋台行事(はなわまつりのやたいぎょうじ)
所在地秋田県鹿角市花輪
指定区分重要無形民俗文化財(平成26年〈2014年〉3月10日指定)/平成28年〈2016年〉に「山・鉾・屋台行事」の一つとしてユネスコ無形文化遺産代表一覧表に記載
種別風俗慣習/祭礼(信仰)
屋台参加10町からそれぞれ1基、計10基
開催日毎年8月19日・20日
保護団体花輪ばやし祭典委員会
アクセスJR花輪線 鹿角花輪駅周辺

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)― 花輪祭の屋台行事
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/302/00000893
花輪ばやし ― 花輪祭の屋台行事(花輪ばやし祭典委員会 公式サイト)
https://www.hanawabayashi.jp/
花輪祭の屋台行事(花輪ばやし)― 旅するかづの/鹿角公式観光サイト
https://explorekazuno.jp/event/hanawabayashi2025/

最終更新日: 2026.05.25