こみせ通りの裏手に残る侍町の一軒

九戸家住宅主屋は、青森県黒石市大字甲大工町にある江戸後期の茅葺住宅で、平成18年(2006年)10月18日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

黒石を訪ねる人の目的はたいてい中町のこみせ通りである。雪と雨を避けて歩ける木造アーケードが連なる通りで、平成17年(2005年)に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。甲大工町はそこから少し離れた住宅地で、通りを歩いても近代の家並みが続くだけに見える。この一帯は黒石陣屋に付属する侍町であり、九戸家住宅主屋はその名残として残る一棟にあたる。

建築年代は確定していない。国指定文化財等データベースは時代を「江戸後期」とし、西暦欄に1751年から1829年という幅を記す。黒石市はこれとは別の推論を立てている。文化6年(1809年)、8代領主・津軽親足のときに黒石藩が成立しており、陣屋町が分知の支配所から藩の中心地へと性格を変えたその頃の建築ではないか、というものである。

黒石津軽家14代・津軽承捷の生家としても記録されている。

桁行六間・梁間五間、寄棟の茅葺

敷地は東西に長く、建物はやや西寄りに西面して建つ。規模は桁行6間、梁間5間、木造平屋建、屋根は寄棟造の茅葺で、登録上の建築面積は114平方メートルである。

間取りの記述は資料によって詳しさが異なる。文化庁のデータベースは、北西隅に玄関を設け、6畳間を続け、南西隅に12畳間の座敷を配すると記す。黒石市の解説はさらに奥まで踏み込み、玄関側に6帖の広間と12帖の座敷が並び、その奥に9帖の茶の間と8帖の押入れ付き和室があること、この押入れは後補で当初は9帖であったとみられることを示している。

登録の決め手として文化庁が挙げるのは床構えである。床の間まわりの造作に古い形式が残っており、この一点が、間取りや屋根以上に、住み手を藩の一般家中ではなく上級武士の層に位置づける根拠となっている。適用された登録基準は「再現することが容易でないもの」。

茅葺であることも大きい。豪雪地の市街地で茅屋根を維持し続けている個人住宅は、いまや県内でも数えるほどである。

入らずに見る ― 訪問時の実際

九戸家住宅主屋は現に人が住む個人住宅である。公開はしておらず、拝観時間も入館の仕組みも存在しない。日本の登録有形文化財制度は所有者に緩やかな届出義務を課すもので、第三者に立入りの権利を与えるものではない。見学は公道からの外観に限られる。路上からの撮影は禁じられていないが、門内や玄関にレンズを向けるのは別の話であり、物件についての問い合わせは居宅ではなく黒石市教育委員会人づくり推進課(電話 0172-52-2111)が受けている。

組み込むなら陣屋町歩きの一点としてがよい。核になるのは中町こみせ通りで、通り沿いの重要文化財・高橋家住宅(昭和48年指定)は見学無料ながら個人住宅のため公開が限られ、12月から3月の冬期は公開していない。ほかに、明治25年(1892年)着工・明治35年(1902年)完成の大石武学流庭園である名勝・金平成園(澤成園)、保存地区内の登録記念物・鳴海氏庭園がある。

鉄道なら弘南鉄道弘南線の黒石駅が起点で、弘前からおよそ30分。冬の黒石は積雪が深く、こみせという構造そのものがその気候の産物である。

九戸家と高橋家を同じ日に見ておくと得るものがある。片方は藩士の住まい、片方は米を扱った御用達商家で、両者が何を必要と考えたかの差は、十分ほど眺めれば読み取れる。

Q&A

Q九戸家住宅主屋は内部を見学できますか。
Aできません。現に使用されている個人住宅で、公開も入館の仕組みもありません。見学は公道からの外観に限られます。問い合わせ先は居宅ではなく黒石市教育委員会人づくり推進課です。
Q九戸家住宅主屋はいつ建てられたのですか。
A正確な年は不明です。文化庁のデータベースは江戸後期(1751年〜1829年)とし、黒石市は黒石藩が成立した文化6年(1809年)前後と推定しています。
Q九戸家住宅主屋はなぜ登録有形文化財になったのですか。
A平成18年10月18日、「再現することが容易でないもの」という登録基準で登録されました。床構えに古い形式が残り全体の残存状況もよいことから、上級武士の住宅として評価されています。
Q九戸家住宅と黒石津軽家はどのような関係がありますか。
A建物は黒石陣屋内の侍町・甲大工町に建てられた黒石藩家中の家とされ、黒石津軽家14代・津軽承捷の生家としても知られています。
Q九戸家住宅主屋の間取りはどうなっていますか。
A桁行6間・梁間5間の木造平屋建で、玄関側に6帖の広間と12帖の座敷が並び、奥に9帖の茶の間と8帖の押入れ付き和室が続きます。押入れは後補で、当初は9帖であったとみられます。
Q九戸家住宅主屋の周辺で他に見るべき文化財はありますか。
A重要伝統的建造物群保存地区の中町こみせ通り、重要文化財の高橋家住宅(冬期非公開)、名勝・金平成園(澤成園)、登録記念物・鳴海氏庭園が徒歩圏にあります。

基本情報

名称九戸家住宅主屋
所在地青森県黒石市大字甲大工町10-1
指定区分国登録有形文化財(建造物)/登録番号 02-0051/登録基準「再現することが容易でないもの」
指定年平成18年(2006年)10月18日登録
員数1棟
寸法木造平屋建、茅葺、建築面積114㎡/桁行6間・梁間5間、寄棟造
所有者個人
公開状況非公開。公道からの外観見学のみ
建設年江戸後期(データベース記載 1751〜1829年)。黒石市は文化6年(1809年)頃と推定

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「九戸家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00005728
文化遺産オンライン「九戸家住宅主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/181946
黒石市「国指定文化財」
https://www.city.kuroishi.aomori.jp/kankou/bunkazai/bunkazai/kunishitei-bunkazai.html
黒石市「中町こみせ通り」
https://www.city.kuroishi.aomori.jp/kankou/spot/kankou/komise/index.html

最終更新日: 2026.08.14