榎本家住宅とは
榎本家住宅(えのもとけじゅうたく)は、千葉県我孫子市布佐の利根川西岸に屋敷を構える旧家の住宅で、明治17年(1884年)に建てられた北土蔵から昭和33年(1958年)頃の稲荷社までの6棟が、令和6年(2024年)12月3日に登録有形文化財となった。
登録されたのは主屋、離れ、北土蔵、釜場、正門、稲荷社の6棟である。屋敷は利根川の堤防に接し、6棟のうち4棟は堤防の拡張工事に際して曳家(ひきや)で現在の位置へ移された。我孫子市は、利根川の歴史と深く関わる建物として榎本家住宅を位置づけている。市内にある国の登録文化財としては、根本家住宅に続く2例目にあたる。
利根川の水運を担った家
我孫子市の解説によれば、榎本家は17世紀に下野国都賀郡(現在の栃木県)から布佐へ移り住んだと伝わる。家業は利根川の水運で、明治後期から大正期にかけては布佐町長や衆議院議員を出し、地域の運営に深く関わってきた。
川のそばに住むことは、水害と隣り合わせでもあった。布佐一帯には、洪水に備えて敷地を周囲より高く盛り上げる「水塚(みづか)」が特徴的に見られ、榎本家住宅の建物と庭もその大部分が水塚の上にある。
昭和33年の堤防拡張と曳家
榎本家住宅の現在の姿は、昭和33年(1958年)に形づくられた。利根川の堤防拡張事業に伴って布佐第一土地区画整理事業が行われ、その際に敷地の主要部分へ盛土をし、建物を曳家で動かしている。曳家は建物を解体せず、そのまま引いて移す工法である。
我孫子市によれば、この水塚は周囲の地盤より約1.1メートルから1.5メートル高い。敷地は南北約87メートル、東西約62メートルで、長方形の一部が欠けた形をしており、水塚はその東側のおよそ3分の2を占める。建物は水塚の上、敷地の東寄りにまとまっている。
どの4棟を曳いたかについては、資料によって記載が異なる。文化庁の国指定文化財等データベースは、主屋・離れ・北土蔵・正門を昭和33年頃の移築とし、釜場は同じ頃の改修、稲荷社は同じ頃の建築としている。一方、我孫子市が令和6年(2024年)7月に出した報道資料は、曳家した建物として主屋・離れ・釜場・正門を挙げる。この記事では文化庁の記載に従った。
6棟の年代と登録
榎本家住宅の6棟は、令和6年(2024年)12月3日の第108回登録でそろって登録有形文化財となった。登録番号は12-0328から12-0333までの連番である。登録基準は、離れと北土蔵が「造形の規範となっているもの」、主屋・釜場・正門・稲荷社が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とされた。
年代を決めた手がかりは棟ごとに違う。我孫子市の報道資料によると、北土蔵は棟木の墨書で明治17年(1884年)と分かる。主屋は建物のつくりと2階の地袋に書かれた干支から昭和初期、離れはつくりから明治中期と推定された。釜場は部材の古び具合を比べて昭和初期、正門は古写真と部材から昭和前期、稲荷社は昭和33年の配置図から同年頃とみられている。
- 主屋:昭和前期、木造2階建、瓦葺、建築面積56平方メートル
- 離れ:明治中期、木造平屋建、瓦葺一部銅板葺、建築面積55平方メートル
- 北土蔵:明治17年(1884年)、土蔵造2階建、瓦葺、建築面積20平方メートル
- 釜場:昭和前期、木造平屋建、鉄板葺、建築面積31平方メートル
- 正門:昭和前期、木造、瓦葺、間口2.8メートル
- 稲荷社:昭和33年(1958年)頃、木造平屋建、銅板葺、建築面積1.0平方メートル
屋敷の配置と庭
榎本家住宅の正門は、通りから引き込んだ位置に南を向いて建つ。門の手前の前庭は道路から盛土の坂で上がっていく形になっており、花崗岩の切石が敷かれている。
門の奥では主屋が東西に棟を通し、その南に芝生の内庭が広がる。内庭の中央には大きなサルスベリが1本立つ。主屋の西には離れが接続し、離れの縁先に置かれた大ぶりの沓脱石から、景石や石灯籠を配した表庭へ飛石がのびている。離れの北には北土蔵、西には稲荷社があり、主屋の北東に釜場が建つ。
建物を離れると、裏庭は畑などに使われ、ケヤキやスダジイが大きく育つ。水塚の外に出た外庭には、石積みの護岸をもつ長方形の池が残る。我孫子市は、これらの庭を「榎本氏庭園」として紹介している。
見学と行き方
榎本家住宅は個人の住まいで、一般には公開されていない。我孫子市の解説と報道資料はいずれも非公開と明記しており、敷地に入って6棟を見学できる機会は、確認した範囲では案内されていなかった。
各棟の外観や座敷の様子は、文化庁の国指定文化財等データベースと文化遺産オンラインに掲載された写真で確かめられる。我孫子市の榎本家住宅のページにも、主屋と正門の写真が載っている。
鉄道の最寄りはJR成田線の布佐駅である。成田線のこの区間は常磐線の我孫子駅から分かれて成田方面へ向かう。榎本家住宅は布佐駅から東北東へ直線でおよそ600メートル、利根川の堤防に接する位置にある。周辺は住宅地なので、私有地には立ち入らず、住人の暮らしの妨げにならないよう気を配りたい。
参考文献
- 国指定文化財等データベース 榎本家住宅主屋(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015146
- 国指定文化財等データベース 榎本家住宅離れ(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015147
- 国指定文化財等データベース 榎本家住宅北土蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015148
- 国指定文化財等データベース 榎本家住宅釜場(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015149
- 国指定文化財等データベース 榎本家住宅正門(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015150
- 国指定文化財等データベース 榎本家住宅稲荷社(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00015151
- 榎本家住宅(あびこ電脳考古博物館、我孫子市)
- https://www.city.abiko.chiba.jp/kouko/siteibunkazai/enomotokejyuutaku.html
- 報道提供資料 市内にある「榎本家住宅」が国の登録有形文化財になりました(我孫子市、2024年7月19日)
- https://www.city.abiko.chiba.jp/shisei/kouhou/houdouteikyou/R6houdou04-09.files/20240719enomotojutaku.pdf
- 榎本氏庭園(あびこ電脳考古博物館、我孫子市)
- https://www.city.abiko.chiba.jp/kouko/siteibunkazai/enomotoshiteien.html
- 我孫子の榎本氏庭園(朝日れすかPLUS、2026年6月20日)
- https://resuka.co.jp/townnews/2026/06/6882/
最終更新日: 2026.09.28
基本情報
| 名称 | 榎本家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県我孫子市布佐字下町3051-3 |
| 所有者 | 個人 |
| 指定 | 登録有形文化財 6件 |
| 座標 | 35.85115, 140.13957 |