中村家住宅とは
中村家住宅は、千葉県市川市鬼越の千葉街道沿いにある商家の屋敷で、明治24年(1891年)の稲荷社や明治26年(1893年)の土蔵をはじめ、明治中期から昭和前期にかけての建物7棟と工作物2基が、平成26年(2014年)10月7日にそろって登録有形文化財となった。所有は個人である。
登録されたのは主屋、離れ、煉瓦蔵、土蔵、北蔵及び事務所、倉庫、稲荷社、防空壕、門及び石塀の9件で、登録番号は12-0171から12-0179まで連番になっている。住宅・蔵・工場の倉庫・屋敷神・戦時の防空壕・門塀が一つの敷地に残り、一家の暮らしと家業の両方が建物の種類として読み取れる。
「中村家住宅」の名で登録・指定された建物は全国に複数ある。ここで扱うのは市川市鬼越二丁目の中村家で、文化庁のデータベースでは所在地が棟ごとに鬼越2-200-1、2-200-2、2-200-3の3つの地番に分かれて記載されている。
馬糧商から味噌醸造へ
千葉県教育委員会の解説によれば、中村家は旧木下街道と千葉街道が交わるあたりに屋敷を構え、その地の利を生かして明治期には陸軍御用達の馬糧商を営んだ。軍馬の飼料を扱う商いである。大正期になると味噌醸造業に転じ、馬糧商時代の倉庫を転用するなどして広い味噌工場を持ち、東京方面へ出荷するほどの規模の醸造所になったという。
建物の多くは明治後期のものとされる。一方で北蔵は大正後期、事務所と防空壕は昭和前期の建築で、主屋と門及び石塀には昭和前期、離れには昭和中期の改修が入っている。商いの転換に合わせて敷地が手直しされてきた経過が、建物ごとの年代の幅に表れている。
この屋敷は日本画家の東山魁夷とも縁がある。市川市東山魁夷記念館の略年譜は、東山が昭和21年(1946年)に「市川市鬼越で味噌醸造業を営む中村家の工場の事務所2階」で間借り生活を始めたと記している。東山はここに住むあいだに《残照》を昭和22年(1947年)の第3回日展に出品して特選となり、昭和28年(1953年)に市川市中山1丁目へ新居を建てて移った。
ただし、登録された「北蔵及び事務所」の事務所が、東山の住んだ建物そのものかどうかを明記した公的資料は、確認した範囲では見当たらなかった。文化庁のデータベースは登録事務所の建築を昭和前期とし、年代の上では矛盾しないが、同一と断定はできない。
敷地の構成と見る順序
中村家住宅の敷地は北面で千葉街道に接し、この北面を石造の門と塀が画している。西寄りに主屋の玄関へ通じる大門、東寄りの事務所の脇に車門を開き、そのあいだを房州石の塀が折れ曲がりながら続く。道路から屋敷を見るとき、最初に向き合うのはこの門塀である。
門の内側では、主屋が北の妻面を街道に向けて建ち、その西隣の角地に煉瓦蔵、東側に北蔵及び事務所が並ぶ。街道に面したこの列が、屋敷の表の顔にあたる。
主屋の南後方には離れが接続し、主屋と離れのあいだを土蔵がつなぐ。敷地の南東側には味噌の醸造に使った大型の倉庫が南北に長く延び、南西側には石積の基壇に載る稲荷社が東を向いて鎮座する。防空壕は稲荷社と同じ鬼越2-200-3の地番にあり、住宅の庭園の中に築かれている。
- 主屋(明治後期、昭和前期改修/登録番号 12-0171)
- 離れ(明治後期、昭和中期改修/登録番号 12-0172)
- 煉瓦蔵(明治後期/登録番号 12-0173)
- 土蔵(明治26年/登録番号 12-0174)
- 北蔵及び事務所(北蔵は大正後期、事務所は昭和前期/登録番号 12-0175)
- 倉庫(南倉庫は明治中期で昭和前期に移築、北倉庫は明治後期/登録番号 12-0176)
- 稲荷社(明治24年/登録番号 12-0177)
- 防空壕(昭和前期/登録番号 12-0178)
- 門及び石塀(明治後期、昭和前期改修/登録番号 12-0179)
登録の基準は、防空壕だけが「再現することが容易でないもの」で、残る8件は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。員数は防空壕と門及び石塀が各1基、ほかは各1棟で、合わせて7棟2基になる。
見学とアクセス
中村家住宅は個人が所有する屋敷で、市川市と千葉県教育委員会の文化財紹介ページには、一般公開や見学受付の案内は掲載されていない(2026年9月25日確認)。訪れる場合に見られるのは、敷地の外から眺める外観に限られると考えておきたい。
公道から確かめやすいのは街道に面した北側である。門と石塀、主屋の北妻面、角に立つ煉瓦蔵、事務所の洋風の正面がこの面に並ぶ。離れ・土蔵・倉庫・稲荷社・防空壕は敷地の南側や内側に位置するため、塀越しに姿をとらえるのは難しい。
撮影について、公道からの外観撮影を禁じる案内は確認できなかった。ただし住まいとして使われている屋敷なので、門の内側をのぞき込むような撮り方は避けたい。交通量の多い街道沿いでもあり、立ち止まるときは歩行者の通行を妨げない位置を選ぶとよい。
最寄り駅は京成本線の京成中山駅とJR総武線の下総中山駅で、どちらからも西へ徒歩5分ほど。京成本線の鬼越駅からは南東へ徒歩8分ほどである。見学者向けの駐車場はない。
参考文献
- 国指定文化財等データベース 中村家住宅主屋(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010111
- 国指定文化財等データベース 中村家住宅防空壕(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010118
- 国指定文化財等データベース 中村家住宅門及び石塀(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010119
- 中村家住宅主屋ほか(千葉県教育委員会)
- https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-078.html
- 国登録有形文化財(市川市教育委員会文化財課)
- https://www.city.ichikawa.lg.jp/page/4202.html
- 市川と東山魁夷(市川市東山魁夷記念館)
- https://www.city.ichikawa.lg.jp/site/higashiyama/4571.html
最終更新日: 2026.09.24
基本情報
| 名称 | 中村家住宅(市川市鬼越) |
|---|---|
| 所在地 | 千葉県市川市鬼越2-200-1ほか |
| 所有者 | 個人 |
| 指定 | 登録有形文化財 9件 |
| 座標 | 35.71685, 139.94082 |