小高記念館:大正時代の銀行建築が海辺の街に息づく登録有形文化財
千葉県館山市の館山港に面した交差点に佇む小高記念館は、大正11年(1922)頃に古川銀行鴨川町支店として建てられた洋風建築です。昭和5年(1930)に現在地へ移築されて以来、水産事務所、政治事務所、文化交流拠点と姿を変えながら、約100年にわたり館山の街並みを彩り続けてきました。平成28年(2016)に国登録有形文化財(建造物)に登録され、現在はフェアトレードカフェ「TRAYCLE Market & Coffee」として、歴史的建造物の保存と現代のコミュニティ活動が見事に融合した空間となっています。
歴史的背景
小高記念館の歴史は大正時代にさかのぼります。この建物は、明治33年(1900)に安房郡千歳村(旧丸山町)に設立された古川銀行の鴨川町支店として建築されました。しかし、昭和4年(1929)に古川銀行が千葉銀行と合併して千葉古川銀行と改称した際、鴨川町支店は閉鎖され、建物は売りに出されることとなりました。
この建物を購入したのが、館山市名誉市民である小高熹郎(おだかとしろう)氏です。小高氏は昭和5年(1930)に建物を購入し、解体した部材を荷馬車で鴨川から館山まで運び、現在の館山港近くの場所に移築しました。このような大規模な移築は、大正時代の貴重な洋風建築を後世に残す重要な行為でした。
移築後、建物は館山水産事務所(館山産株式会社)や政治事務所として利用されました。平成6年(1994)には文化交流の拠点「小高資料館」として開館しましたが、平成8年(1996)に所有者の逝去に伴い閉館されました。その後、平成18年(2006)にNPO法人安房文化遺産フォーラムが所有者の意向を受け継ぎ、「小高記念館」として地域文化の発信・コミュニティ交流の拠点として活用を開始しました。
そして平成28年(2016)12月、小高熹郎の孫娘である小高絵理子氏がオーナーとなり、フェアトレードのセレクトショップ&カフェ「TRAYCLE Market & Coffee」としてリニューアルオープン。古い建物と伝統に新しい価値を加え、未来に循環させるという理念のもと、築100年を超える文化財建築が新たな息吹を得ています。
文化財指定の理由と価値
平成27年(2015)11月20日、国の文化審議会が小高記念館を登録有形文化財(建造物)に登録するよう文部科学大臣に答申し、平成28年(2016)2月25日に正式に登録されました。館山市の登録有形文化財としては8件目の登録となりました。
登録の理由として、当初銀行建築として建てられたものを館山港に程近い現在地へ移築したという歴史的経緯が評価されました。木造二階建てで上下窓を並べる洋風外観を持ち、北西隅を切って玄関を設ける意匠は、大正期の商業建築の特徴を今に伝えています。一階は元の銀行営業室で洋風内装を保ち、二階には十畳の和室二間を並べるという和洋折衷の構成も注目に値します。「国土の歴史的風景に寄与しているもの」として、港町の風情を彩る洋風建築として高く評価されました。
建築の見どころ
小高記念館は、白色系ペイントで塗装された下見板張りの外壁と、赤色系に塗装された波形鉄板葺きの屋根が特徴的な洋風建築です。館山港に面する交差点に建つその姿は周辺でひときわ目を引き、港町の風景に華やかなアクセントを添えています。屋根は変形の寄棟造で、外部には縦型の上げ下げ窓が規則正しく並んでいます。
最大の建築的特徴は、西側の北西隅を斜めに切った「隅切り」の意匠です。この角に玄関が設けられており、交差点に面した建物としての存在感を際立たせています。建築面積は約64平方メートルです。
内部も見どころが豊富です。一階はかつての銀行営業室であり、洋風の内装が施されています。100年前の金庫や窓口の仕切りなど、銀行時代の面影が今も残されており、一歩足を踏み入れると大正時代にタイムスリップしたかのような感覚を味わえます。対照的に二階は十畳の和室が二間並ぶ純和風の空間で、洋風の一階との対比が建物の魅力をいっそう引き立てています。
現在のカフェでは、フェアトレードコーヒー、手作りのオーガニックおからマフィン、無添加ソフトクリームなどを楽しむことができます。二階のイートインスペースからは古い倉庫や小さな港が見え、水面にきらめく光を眺めながらゆったりとした時間を過ごすことができます。
小高熹郎の功績
記念館の名称の由来となった小高熹郎(おだかとしろう)氏は、館山市名誉市民として地域の文化振興に多大な貢献をした人物です。戦前は千葉県議会議員を、戦後は衆議院議員を務め、鳩山内閣では文部政務次官を歴任しました。
政治家としてだけでなく、文化人としても活躍し、詩人のサトウハチローや白鳥省吾らと親交を温めながら、自らも詩人として作品を発表しました。代表作には民謡『里見節』や『館山音頭』などがあり、地域の文化振興に生涯を捧げました。その精神は、この建物が文化交流の場として活用され続けていることに脈々と受け継がれています。
訪問案内
小高記念館(TRAYCLE Market & Coffee)は、歴史的建造物の魅力とカフェの心地よさを同時に楽しめる場所です。営業時間は木曜日から日曜日の11:00〜18:00(イートインは17:00まで)で、月曜日・火曜日・水曜日が定休日です(不定休あり)。
カフェでは、コロンビア、東ティモール、エクアドル、メキシコ、フィリピン、ペルーなどの産地から厳選されたフェアトレードコーヒーを提供しています。看板メニューの手作りおからマフィンは、オーガニック素材と地元の旬の食材を使い、季節ごとに様々なフレーバーが楽しめます。コーヒーやマフィンのテイクアウトも可能です。
アクセスは、JR内房線「館山駅」西口から徒歩約20分、車で約5分です。車の場合は、富津館山道路の富浦インターチェンジから約15分です。店舗前に駐車場がありますが、満車の場合は隣接するスポーツ施設の駐車場も利用可能です。
周辺の観光スポット
小高記念館の周辺には、館山市の魅力的な観光スポットが数多くあります。すぐ近くには館山港と「館山夕日桟橋」があり、桟橋形式としては日本最長を誇るこの施設からは、美しい夕日や、天気の良い日には富士山を望むことができます。隣接する「渚の駅たてやま」では、海洋民俗博物館やさかなクンギャラリー、水族館コーナーなどが楽しめます。
車で少し足を延ばせば、戦国大名・里見氏の居城跡に建つ館山城(城山公園)があります。山頂の天守閣には八犬伝博物館が設けられ、『南総里見八犬伝』に関する資料を展示しています。四季折々の花が咲く公園内からは、館山湾の絶景を一望できます。
そのほか、2670年以上の歴史を持つ安房神社、大正8年建造の国登録有形文化財・洲埼灯台、歩いて渡れる無人島・沖ノ島、「日本の道百選」に選ばれた房総フラワーラインなど、自然と歴史が織りなす見どころが豊富です。崖の観音として親しまれる大福寺の観音堂からの眺望も見逃せません。
Q&A
- 小高記念館は現在どのように利用されていますか?
- 平成28年(2016)12月より、フェアトレードのセレクトショップ&カフェ「TRAYCLE Market & Coffee」として営業しています。フェアトレードコーヒーやオーガニックおからマフィンを楽しみながら、大正時代の建築を体感することができます。二階には記念館としてのスペースも残されています。
- なぜ鴨川から館山に移築されたのですか?
- 昭和4年(1929)に古川銀行が千葉銀行と合併した際、鴨川町支店は閉鎖され建物が売りに出されました。館山市名誉市民の小高熹郎氏がこの建物を昭和5年に購入し、解体した部材を荷馬車で館山まで運んで現在地に移築しました。
- 銀行時代の名残を見ることはできますか?
- はい。一階には100年前の金庫や窓口の仕切りなど、銀行営業室時代の面影が残されています。カフェを訪れる際にこれらの歴史的な要素を間近でご覧いただけます。
- アクセス方法を教えてください。
- JR内房線「館山駅」西口から徒歩約20分、車で約5分です。車の場合は富津館山道路の富浦インターチェンジから約15分です。営業時間は木曜日〜日曜日の11:00〜18:00です。
- 小高熹郎とはどのような人物ですか?
- 館山市名誉市民で、千葉県議会議員、衆議院議員、鳩山内閣の文部政務次官を歴任した政治家です。同時に詩人としても活躍し、『里見節』『館山音頭』などの作品を残しました。地域文化の振興に生涯を捧げた人物です。
基本情報
| 名称 | 小高記念館(おだかきねんかん) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成28年(2016年)2月25日 |
| 建築年代 | 大正11年(1922年)頃(古川銀行鴨川町支店として建築) |
| 移築年代 | 昭和5年(1930年)頃(現在地に移築) |
| 構造 | 木造2階建、鉄板葺、建築面積約64㎡ |
| 所在地 | 〒294-0036 千葉県館山市館山95-70 |
| 現在の用途 | TRAYCLE Market & Coffee(カフェ&セレクトショップ) |
| 営業時間 | 木〜日曜日 11:00〜18:00(イートイン17:00まで) |
| 定休日 | 月曜日・火曜日・水曜日(不定休あり) |
| 電話番号 | 0470-49-4688 |
| アクセス | JR内房線「館山駅」西口から徒歩約20分・車約5分、富浦ICから車約15分 |
参考文献
- 【国登録有形文化財】小高記念館 | 館山市役所
- https://www.city.tateyama.chiba.jp/syougaigaku/page010100.html
- 小高記念館 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/254515
- 小高記念館 - 千葉県
- https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/n111-085.html
- 小高記念館【国登録文化財】 : 安房文化遺産フォーラム
- https://awa-ecom.jp/bunka-isan/section/marugoto-070-100/
- TRAYCLE Market & Coffee
- https://trayclemarket.com/
最終更新日: 2026.03.28