旭館:大正ロマンが息づく内子の活動写真館

愛媛県喜多郡内子町——木蝋と和紙の生産で栄え、白壁の美しい町並みが今なお残るこの小さな町に、大正時代の華やかな娯楽文化を今に伝える建物があります。旭館(あさひかん)は、大正15年(1926年)に竣工した常設の活動写真館(映画館)で、平成25年(2013年)に国の登録有形文化財に登録されました。瓦屋根の上にそびえる六角形の太鼓櫓、洋風のポーチとバルコニーが織りなす和洋折衷の外観は、訪れる人々に大正ロマンの世界へと誘います。

旭館の歴史

旭館の物語は、20世紀初頭の内子町の活気ある文化の中から始まります。木蝋産業で繁栄していた内子には、大正4年(1915年)に芝居小屋「魁座(かいざ)」が設立され、翌大正5年(1916年)には現在も重要文化財として知られる「内子座」が竣工しました。二つの劇場は観客を奪い合いながら、町の娯楽文化を支えていました。

大正14年(1925年)4月10日、魁座の跡地に常設興行場の設立が許可されます。地区の商店主らが発起人となり、森文醸造株式会社の2代目・森傳三郎もその名を連ねました。そして大正15年(1926年)11月12日、旭館は竣工を迎えました。

開館後、旭館は町の人々に愛される娯楽の中心となり、映画や舞台公演、地域の催しが行われました。戦後の昭和30年(1955年)には「電気館」と改称しますが、テレビの普及により映画産業は次第に斜陽となり、昭和40年(1965年)に映画館としての営業を終了しました。

閉館後、建物は森文醸造株式会社が取得し、イナダ家具店の倉庫などとして使用されていました。老朽化により解体も検討されましたが、森文醸造の4代目社長・森秀夫氏が存続を決断し、改修工事を実施。平成25年(2013年)6月2日には、約半世紀ぶりとなる上映会が開催され、名作映画「赤穂浪士」に300名を超える観客が詰めかけました。同年12月24日、旭館は国の登録有形文化財に登録されました。

令和5年(2023年)12月には、森文醸造の創業130周年を記念した映画祭が盛大に開催されました。さらに令和6年(2024年)からは地域の若者たちが中心となり、「町に開かれた場所」を目指して上映会や喫茶イベントなどを定期的に開催しています。

なぜ登録有形文化財なのか

登録有形文化財制度は、平成8年(1996年)の文化財保護法改正によって創設された制度です。建築後50年を経過した歴史的建造物のうち、一定の評価を得たものを文化財として登録し、緩やかな規制のもとで保存と活用を両立させることを目的としています。

旭館がこの制度に登録された理由は多岐にわたります。まず、大正時代に建てられた常設映画館という建物類型自体が、全国的に急速に失われつつある貴重な存在です。和洋折衷の独特な建築意匠は、大正期の文化的活力を建築として体現しています。切妻造桟瓦葺の屋根に洋風のヴェランダと六角形の太鼓櫓を組み合わせた外観は、地方の娯楽建築における創意工夫の好例として、高く評価されています。さらに、昭和前期の地方都市における賑わいと庶民文化を伝える歴史的証人としての価値も認められています。

建築の見どころ

旭館の外観は、初めて目にする方の心を一瞬で掴みます。木造平屋一部2階建て、瓦葺きの建物で、建築面積は約273平方メートル。最大の特徴は、屋根の頂部に載る六角平面の太鼓櫓です。かつて上演の開始を太鼓で知らせたこの櫓は、歌舞伎座や芝居小屋に共通する日本の興行建築の伝統を受け継いでいます。

西向きの正面は中央をわずかに張り出し、上端は起り付きで三段に切り下げ、繰形(くりがた)と歯飾りで華やかに装飾されています。中央入口の上にはヴェランダ(バルコニー)が設けられ、洋風のポーチと日本の桟瓦屋根が見事に融合した「和洋折衷」の意匠を見ることができます。

内部は、正面側に舞台が配され、両脇に通路が走る劇場型の配置を保っています。奥寄りには2階客席が設けられ、舞台を見下ろせる構造になっています。木の温もりに包まれた空間は、かつて「活動写真」に胸を躍らせた人々の時代を彷彿とさせます。

旭館を訪れるには

旭館は常設の博物館・美術館ではなく、イベント時に開館する文化施設です。保存会や地域の若者たちが主催する映画上映会、ライブコンサート、朗読会、喫茶イベントなどが不定期に開催されています。イベントが行われていない期間でも、特徴的な外観はいつでも自由にご覧いただけます。

最新のイベント情報は、旭館の公式Instagramアカウントで確認できます。お問い合わせは森文醸造株式会社(TEL:0893-44-3057)まで。

周辺の見どころ

旭館は、四国でも屈指の歴史的町並みが広がる内子町の中心部に位置しています。徒歩圏内に数多くの観光スポットが点在しており、一日かけてゆっくりと散策するのに最適です。

八日市・護国の町並み

旭館からすぐの場所にある八日市・護国地区は、昭和57年(1982年)に四国で初めて国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された美しい町並みです。約600メートルの通り沿いに、江戸後期から明治期にかけて建てられた商家や土蔵が軒を連ね、地元の土を用いた浅黄色の土壁と白漆喰が独特の温かい風景を織り成しています。国の重要文化財である本芳我家住宅、上芳我家住宅(木蝋資料館)、大村家住宅なども見学できます。

内子座

大正5年(1916年)に建てられた芝居小屋で、重要文化財に指定されています。歌舞伎や文楽の公演が行われる現役の劇場として全国的に知られています。なお、令和6年(2024年)9月より約4年間、耐震補強工事のため休館中です。

森文醸造・森文茶屋

旭館の所有者である森文醸造は、明治26年(1893年)創業の老舗醸造所です。天然醸造の醤油・味噌・米酢のほか、30年以上の歳月をかけて開発された健康飲料「おいしい酢卵」が看板商品。併設の森文茶屋では商品の試食・購入ができ、2階の森文資料館では内子の歴史や醸造文化に関する資料を見学できます。

その他の周辺スポット

商いと暮らし博物館(商家の暮らしを人形で再現)、内子町ビジターセンター(昭和11年竣工の旧内子警察署を活用)、大森和蝋燭屋(県内唯一の手作り和ろうそくの店)、田丸橋(のどかな山里の屋根付き橋)など、内子には歩くたびに新しい発見がある魅力的なスポットが数多くあります。

Q&A

Q旭館はいつでも見学できますか?
A旭館は常設開館の施設ではなく、映画上映会やコンサートなどのイベント時に開館します。外観はいつでも自由にご覧いただけます。最新のイベント情報は旭館の公式Instagramをご確認ください。お問い合わせは森文醸造株式会社(TEL:0893-44-3057)まで。
Q松山市からのアクセス方法を教えてください。
AJR松山駅から特急「宇和海」でJR内子駅まで約25分です。内子駅からは徒歩約15~20分で旭館に到着します。お車の場合は松山自動車道・内子五十崎ICから国道56号線経由で約5分です。
Q入場料はかかりますか?
A外観の見学は無料です。イベント開催時には、プログラムに応じて入場料が設定される場合があります。詳細は公式Instagramまたは森文醸造のウェブサイトでご確認ください。
Q駐車場はありますか?
A旭館専用の駐車場はありませんが、八日市・護国の町並み北側入口近くにある「町並駐車場」(普通車1回300円)や近隣のコインパーキングをご利用いただけます。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A内子町は一年を通じて楽しめますが、春の桜や秋の紅葉の時期は特に美しい景色が広がります。大きな観光地に比べて混雑が少なく、落ち着いた散策が楽しめるのも魅力です。旭館のイベントに参加されたい場合は、事前にスケジュールをご確認ください。

基本情報

名称 旭館(あさひかん)/森文旭館(もりぶんあさひかん)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)— 平成25年(2013年)12月24日登録
竣工 大正15年(1926年)— 昭和21~40年改修
構造 木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積273㎡、塔屋(太鼓櫓)付
所有者 森文醸造株式会社
所在地 〒791-3301 愛媛県喜多郡内子町内子2307他
アクセス JR内子駅より徒歩約15~20分/JR松山駅から特急で約25分
お問い合わせ 森文醸造株式会社 TEL:0893-44-3057

参考文献

旭館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/241295
旭館 (内子町) — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%AD%E9%A4%A8_(%E5%86%85%E5%AD%90%E7%94%BA)
旭館 | 内子のおすすめ観光スポット — 内子町観光グルメ情報
https://www.we-love-uchiko.jp/spot/asahikan/
森文醸造株式会社 — 内子町のご案内
https://www.mori-bun.com/uchiko
八日市・護国の町並み — 内子町ホームページ
https://www.town.uchiko.ehime.jp/soshiki/3/132649.html
交通アクセス — 内子町ホームページ
https://www.town.uchiko.ehime.jp/soshiki/1/koutuuakusesu.html
八日市・護国の町並み — 内子町観光グルメ情報
https://www.we-love-uchiko.jp/spot/preservation_district/

最終更新日: 2026.03.22