主屋の翌年に建った蔵

馬場家住宅土蔵は、福井県越前市広瀬町にある明治25年(1892年)建築の二階建土蔵で、令和3年(2021年)2月26日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。屋敷の北西隅に東西棟で建ち、敷地の風当たりの強い側を締めている。

建築年に目を留めたい。同じ敷地の主屋は明治24年頃の建築とされるから、土蔵はその一年ほど後に続いたことになる。この程度の家格の在郷の家では珍しい順序ではない。まず住まいを建て、大工と左官が敷地にいるうちに、米や道具、儀礼の器、書類を納める蔵を続けて建てる。

福井の冬は建物に厳しい問いを突きつける。武生盆地の積雪は重く、雪解けのあとには湿気が残る。蔵はその両方を中身から遠ざけねばならず、壁の厚さも開口部の始末の丁寧さも、そこから説明がつく。

戸口に注がれた左官の手

規模は桁行四間半、梁間三間。東西に棟を通した切妻造平入で、屋根は桟瓦葺。建築面積は56平方メートル。戸口は南面の東寄りに一箇所だけ設けられ、その上に下屋が架かる。

技が見えるのはこの戸口である。左官は単に開口を塞いだのではない。周囲の壁を漆喰で塗り分け、柱や楣を浮き上がらせて造り出した。木の軸部が見えているようでいて、実際にはすべて塗りである。素っ気なく仕上げても機能は足りる場所に、あえて意匠を凝らしている。通りがかりの目に何を見せたかったのか、その選択が読み取れる。

壁は下から順に層をなす。腰の高さまでは切石を積んだ基礎。その上、壁の下部は下見板張とし、雪の跳ね返りや雪掻きの当たりを受け止める。さらに上は漆喰塗が軒まで途切れずに続き、構造をすっかり包み込む。なお登録記載の構造欄は「木造2階建」とあり、漆喰は木の軸組の上に施された仕上げにあたる。

登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、登録番号は第18-230号、第98回登録。同じ日に、主屋が第18-229号、長屋門が第18-231号として登録されている。三棟をまとめて評価した措置である。

どこから見えるか、周辺に何があるか

敷地は現役の個人住宅である。文化庁データベースの所有者欄は空欄で公開されておらず、拝観時間・拝観料・内部公開のいずれについても市や県からの告知はない。見学は公道からに限り、門内へは入らない。撮影も敷地外からの外観にとどめること。

土蔵は北西隅、長屋門は南面に構えるため、この二つが同じ画面に入る場面は多くない。敷地西側の道を歩くと土蔵の妻が前に出てくる。上半は白い漆喰、下半は黒っぽい下見板、足元を切石の基礎が支える。建築面積245平方メートルの主屋に比べれば小ぶりで、その落差にも意味がある。屋敷構えは、規模と仕上げの違う建物が組み合わさって成り立っている。

広瀬町は越前市街地の西側にあたる。令和6年(2024年)3月開業の北陸新幹線越前たけふ駅、旧市街のハピラインふくい武生駅、どちらからも車で10分ほど。越前市民バス「のろっさ」が地区を通るが本数は少なく、出発前に時刻を確認しておくと安心である。敷地に見学者用の駐車場はない。

周辺にも足を延ばす価値がある。広瀬町を含む一帯には県指定史跡の茶臼山古墳群が広がり、吉野瀬川では太田橋から野上橋まで約1.2キロメートルの桜並木が続く。少し離れた大滝町へ回れば、重要文化財の大瀧神社本殿及び拝殿や、登録有形文化財に登録された岩野平三郎製紙所の建物群がある。越前和紙の産地を含めて一日の行程が組める。

Q&A

Q越前市の馬場家住宅土蔵は内部を見学できますか。拝観料はかかりますか。
A内部公開はありません。個人住宅に付属する土蔵で、拝観時間・拝観料・公開日の告知はいずれも出ていません。公道からの外観見学のみとお考えください。
Q馬場家住宅土蔵はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A明治25年(1892年)の建築で、同じ敷地の主屋(明治24年頃)の約一年後にあたります。登録は令和3年(2021年)2月26日、登録有形文化財(建造物)第18-230号です。
Q馬場家住宅土蔵の見どころはどこですか。
A南面東寄りの戸口廻りです。漆喰塗で柱や楣を造り出し、木の軸部が現れているように見せています。実用本位の蔵に、ここまで意匠を凝らす例は多くありません。
Q馬場家住宅土蔵の規模と構造を教えてください。
A桁行四間半、梁間三間の二階建で、建築面積は56平方メートル。切妻造平入桟瓦葺の東西棟です。腰高までは切石積の基礎、その上の壁下部は下見板張、上部は軒まで漆喰塗としています。
Q馬場家住宅土蔵へのアクセスと、近くで一緒に回れる文化財は?
A武生駅・越前たけふ駅から車で10分ほど、越前市民バス「のろっさ」も広瀬地区を通ります。近隣では県指定史跡の茶臼山古墳群、吉野瀬川の桜並木、大滝町の大瀧神社本殿及び拝殿(重要文化財)などを合わせて回れます。

基本情報

名称馬場家住宅土蔵(ばばけじゅうたくどぞう)
所在地福井県越前市広瀬町92字辻8
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 第18-230号
指定年令和3年(2021年)2月26日登録(第98回登録)
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積56平方メートル(桁行四間半、梁間三間)
所有者文化庁データベースでは非公開
公開状況個人所有。公道からの外観見学のみ。内部公開の告知なし

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 馬場家住宅土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013728
文化庁 国指定文化財等データベース — 馬場家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013727
文化庁 国指定文化財等データベース — 馬場家住宅長屋門
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013729
文化遺産オンライン — 馬場家住宅長屋門
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/550885
越前市 — 文化財指定別一覧
https://www.city.echizen.lg.jp/office/090/030/shiteibunkazai/siteibetu.html

最終更新日: 2026.08.24