覆屋の中の朱塗りの本殿

福井県鯖江市の中心から西へ数キロ、田畑のなかに集落が点在する鳥井町に、春日神社が鎮座する。拝殿の奥には大きな木造の建物があり、そのなかにもう一棟、小ぶりな社殿が収められている。これが国指定重要文化財の春日神社本殿で、慶長18年(1613年)に再建されたものである。

本殿が今もよい状態で残っているのは、宝暦4年(1754年)にこの覆屋(おおいや)が架けられたためだ。雨や雪が直接当たらないため、四百年余りを経た木部の傷みが少ない。鳥井町という地名は、神社の鳥居に由来するという。社地の周辺はかつて十五か村にわたり、春日神社はその総社として国司や領主の崇敬を集めてきた。

神社の歴史は再建の年よりはるかに古い。平安時代の延喜式神名帳に記される大山御板(おおやまみた)神社に比定され、治暦4年(1068年)に春日の神を祀って「春日神社」と改められた。延元・天正の戦禍で社殿は被災し、現在の本殿はそのあとに建て直された姿にあたる。

重要文化財に指定された理由

本殿が国の重要文化財に指定されたのは、昭和53年(1978年)5月31日のこと(指定番号・建第2065号)。指定の根拠は、この建物が近世初頭の越前における神社本殿の形式を知る手がかりになる点にある。

構造は三間社流造(さんげんしゃながれづくり)。神社本殿のなかでも広く用いられた形式で、正面側の屋根が背面より長く伸び、参拝の場をおおう。屋根は柿葺(こけらぶき)、薄く割った木の板を重ねて葺いたものだ。規模は大きくない。正面の桁行が約4メートル、側面の梁行が2.55メートル、前へ張り出す向拝が1.43メートルである。

専門家はこの建物を、様式の境目に立つものとして読む。身舎(もや)に中備(なかぞなえ)を置かないなど古い手法が残る一方、虹梁(こうりょう)の形式には近世的な要素がいくつも見られる。両者をあわせて判断すると、建立は慶長以後と考えられ、社伝の慶長18年再建とも符合する。古い要素と新しい要素が同居しているからこそ、この地域の神社建築がどう変わっていったかを読み取る材料になる。

見どころ

本殿は覆屋に収められ、内部は公開されていない。したがって注目したいのは、社殿の細部の造作と境内の様子である。まず目に入るのは色だろう。昭和57~58年(1982~83年)の解体修理を経て、木部は朱(しゅ)と胡粉(ごふん/貝殻からつくる白い顔料)で塗り直され、建立当初に近い姿に戻された。

細部をゆっくり見ていくと面白い。正面・側面の三方には、先の反り上がった刎高欄(はねこうらん)付きの榑縁(くれえん)がめぐる。柱はすべて自然石の礎石の上に立ち、身舎は円柱、それ以外は角柱とする。身舎と向拝のあいだには海老虹梁(えびこうりょう)が架かり、軒下には手挟(たばさみ)が入る。

妻側では、虹梁の上に太瓶束(たいへいづか)を立て、二手先(ふたてさき)の組物を組んで、突き出た先に拳鼻(こぶしばな)の彫りを添えて棟木を受ける。軒回りは左右で異なり、正面は二軒(ふたのき)の繁垂木(しげだるき)、背面は一軒(ひとのき)の疎垂木(まばらだるき)とする。どれも華やかさを競うものではない。その抑制が、この建物の性格でもある。

境内には小ぶりな見どころも残る。参道には市指定文化財の石造狛犬が据えられ、鯖江藩士が奉納した弓術・砲術の献額が伝わる。社地の杉は、地元で名を知られるほどの大きさに育っている。

周辺とアクセス

春日神社は鯖江駅の西、約2キロの場所にある。鯖江駅は2024年3月に旧JR北陸本線のこの区間がハピラインふくい線へ移管され、現在は同線の駅となっている。車であれば北陸自動車道・鯖江インターチェンジから近い。境内は自由に入れるが、重要文化財である本殿の内部は公開していない点に注意したい。

鯖江は別の顔でも知られる。国内で流通する眼鏡フレームの多くをこの地で生産しており、市は「めがねのまちさばえ」を掲げている。市街に近い西山公園は神社参拝とあわせやすく、春のツツジの時期がよく知られ、園内の動物園はレッサーパンダで親しまれている。東の河和田地区は越前漆器の産地で、漆を扱う工房が今も並ぶ。県指定の門や堂を持つ誠照寺も、この地域の古い層を知る手がかりになる。

Q&A

Q本殿を間近で見たり、なかに入ったりできますか。
A本殿は覆屋に収められており、内部は公開されていません。境内と拝殿は自由に参拝できますが、指定建造物そのものは囲われた状態で保護されています。
Qいつ建てられた建物ですか。
A戦禍で旧社殿を失ったのち、慶長18年(1613年)に再建されました。国の文化財データベースでは桃山時代、鯖江市の説明では江戸時代前期とされますが、再建年が1613年である点は共通します。1754年に架けられた覆屋が、良好な保存の主な理由です。
Q「三間社流造」とはどういう形式ですか。
A流造は、正面側の屋根が背面より長く伸びて参拝の場をおおう、神社本殿に広く見られる形式です。「三間社」は、正面が柱と柱のあいだで三つに分かれる幅を指します。
Q見学にどのくらい時間がかかりますか。
A境内はこぢんまりしているため、参拝だけなら20~30分ほどです。西山公園や河和田の漆器産地とあわせれば、鯖江で半日ほどの行程が組めます。
Q車がなくても行けますか。
Aハピラインふくい線で鯖江駅まで行き、そこから西へ約2キロを徒歩・路線バス・タクシーで向かいます。神社は市の西寄り、田畑と集落のなかにあります。

基本データ

名称春日神社本殿(かすがじんじゃほんでん)
所在地福井県鯖江市鳥井町
指定区分国指定重要文化財(昭和53年〔1978年〕5月31日指定、建第2065号)
時代慶長18年(1613年)再建
構造三間社流造、柿葺 1棟
規模正面桁行 約4m、側面梁行 2.55m、向拝 1.43m
所有・管理春日神社/鳥井町
アクセスハピラインふくい線・鯖江駅の西 約2km、北陸自動車道・鯖江ICから近い
公開状況境内は自由参拝可。本殿の内部は非公開

参考文献

春日神社本殿 – 鯖江市公式サイト
https://www.city.sabae.fukui.jp/kosodate_kyoiku/manabenoyakata/bunkazai/sabae_bunkazai/kenzoubutu/shiteibunkazai/kasugajinja-national.html
春日神社本殿 – 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/199759
春日神社 – 鯖江観光公式サイト(さばかん)
https://www.city.sabae.fukui.jp/kanko/sightseeing/kasugajinjya.html
ハピラインふくいについて – 鯖江市公式サイト
https://www.city.sabae.fukui.jp/kurashi_tetsuduki/kokyokotsu/densha/SogoKotsu0120227.html

最終更新日: 2026.06.04