魚志楼(松崎家住宅)――三国湊の花街に残る、四棟つなぎの料理茶屋

福井県坂井市三国町。九頭竜川の河口に開けたこの町には、北前船が運んだ富の記憶がいまも色濃く残る。その一角、かつて出村(でむら)と呼ばれた花街にあるのが魚志楼(うおしろう)である。間口の狭い細長い敷地の奥へ向かって、四つの建物が矩折れ(かねおれ)の渡り廊下で次々につながれている。主屋、西蔵、東蔵、奥座敷。いずれも国の登録有形文化財に登録された建造物だ。

三国湊は、江戸時代から昭和の初めにかけて北前船の寄港地として栄えた。九頭竜川東岸には廻船問屋の蔵屋敷が軒を連ね、海から上がった富は料亭・茶屋・置屋の集まる花街を潤した。出村はその中心で、最盛期には多くの芸妓が行き交ったという。福井市街が戦災と昭和二十三年(1948)の福井地震で大きな被害を受けたのに対し、三国はそのいずれも免れている。明治・大正期の町並みがまとまって残るのは、この幸運によるところが大きい。

魚志楼は、明治の初め、初代松崎四郎平が創業したと伝わる。屋号の「志楼」は四郎平の名から取られたともいう。商いが広がるたびに座敷を一棟ずつ建て増し、その都度、渡り廊下で前の棟とつないでいった。一軒の家というより建物の集合体として今に残るのはこのためで、一度の食事のあいだに、客は建てられた時代の異なる空間を歩いて行き来することになる。

なぜ登録されたのか

四棟はいずれも平成十七年(2005)七月十二日に登録有形文化財(建造物)に登録され、八月二日に告示された。登録は、国宝や重要文化財の指定よりも軽い保護の枠組みである。外観の現況保存は求められるが、内部の改装には比較的自由がきく。魚志楼が博物館ではなく現役の料理茶屋であり続けられたのは、この制度の性格によるところが大きい。

通りに面して建つのが主屋で、明治初期の建築である。地元で「かぐら建て」と呼ばれた町家の形式をとり、切妻造妻入の主体部の前方に、平入の表屋を取り付ける。間口は三間半、奥行は六間半ほど。表に店を構え、右手に通り庭を通し、それに沿って座敷を並べる。袖壁を付けたたちの低い外観は、かつての湊町の商家の街並みをよく残している。登録基準も「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とされ、この街並みへの寄与が評価された。

主屋の奥に控える二つの蔵と奥座敷は、造形の質が評価されて登録された。西蔵・東蔵はいずれも厚い土壁をめぐらせた土蔵造で、もとは防火を意図した建物である。西蔵は二階建、東蔵は主屋と奥座敷をつなぐ廊下沿いに建つ平屋で、小規模ながら内外とも入念な造りになっている。最も新しい奥座敷は大正初期の木造二階建で、敷地の最奥に位置する。木割が細く、内法(うちのり)上の小壁に扇面形の開口を設けるなど、座敷飾りに意匠を凝らした数寄屋風の建築である。

訪れて見るべきところ

魚志楼の面白さは、古い建物がそのまま食事の場として働いている点にある。本来は家財を仕舞うための土蔵だった西蔵・東蔵は、内部に畳を敷き、床や棚をしつらえて座敷に改められ、いまは料亭の客室として使われている。厚さ三十センチを超える土壁に囲まれた一室で膳を囲む、という体験はここならではのものだ。奥座敷は土間をはさんで小さな庭に開き、座敷と庭の境がゆるやかに溶け合う。

料理が頼るのは、県内一の水揚げを誇る三国港の魚介である。名物の甘海老は、お造りに、漬け丼に、そして殻ごと天ぷらにして卵でとじた名物の丼にと、さまざまな姿で供される。冬には越前ガニが加わる。現在の料理人は京都で修業を積んだといい、昼も夜も予約制で、コース仕立てを基本とする。

この建物は、歩いて近づくほど味わいが増す。花街が賑わった時代の名残として、近くには二つの古い橋が残る。思案橋は、かつて藩境にあって、客が行こうか戻ろうかと思案した場所と伝わる。見返り橋は、立ち去る者が振り返る、その仕草から名がついたという。いずれも店から目と鼻の先にあり、北前船の交易に生きた花街の中心という、この建物の最初の役割を今に結びつけている。

Q&A

Q中に入れますか。外から見るだけですか。
A食事をすることで内部に入れます。魚志楼は現役の料理茶屋で、改装された二棟の蔵を含む登録建物が、そのまま客席として使われています。昼・夜とも予約制で、コースを事前に決めておく場合が多いです。
Q四棟はそれぞれどう違うのですか。
A主屋は通りに面した町家で、店と入口があります。西蔵・東蔵は土壁の土蔵で、もとは収納用でしたが現在は客室に。最奥の奥座敷は大正期の木造で、庭に面した数寄屋風の座敷です。
Q登録有形文化財とは、重要文化財とどう違うのですか。
A重要文化財や国宝の指定より軽い保護です。外観は現況のまま保つ義務がありますが、内部の改装は比較的自由です。この建物が百年以上、料理茶屋として使われ続けてこられたのもそのためです。
Qアクセスや駐車場は。
Aえちぜん鉄道の三国駅または三国港駅から、古い町並みを歩いて十分ほどです。東尋坊が近く、合わせて訪れる人も多くいます。車の場合は近くに駐車場があります。
Qおすすめの料理や時期は。
A三国港の甘海老が看板で、お造り、漬け丼、名物の天丼などで味わえます。冬はおおむね十一月から三月にかけての越前ガニが目当てになります。それ以外の季節も、その日の地物の魚介が中心です。

基本情報

名称魚志楼(松崎家住宅) 主屋・西蔵・東蔵・奥座敷
所在地福井県坂井市三国町神明3-43
指定区分登録有形文化財(建造物) 4件・各1棟
登録年月日平成17年(2005)7月12日(告示 8月2日)
主屋明治初期/木造2階建、瓦葺、建築面積約98平方メートル/かぐら建ての町家
西蔵明治初期/土蔵造2階建、瓦葺、建築面積約35平方メートル
東蔵明治初期/土蔵造平屋建、瓦葺、建築面積約29平方メートル
奥座敷大正初期/木造2階建、瓦葺、建築面積約66平方メートル/数寄屋風
現在の用途料理茶屋(料亭) 昼・夜とも予約制
アクセスえちぜん鉄道 三国駅・三国港駅から徒歩約10分

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース 魚志楼(松崎家住宅)主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004743
文化庁 国指定文化財等データベース 魚志楼(松崎家住宅)奥座敷
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004746
文化庁 日本遺産ポータルサイト 魚志楼(松崎家住宅)
https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/2809/
北前船 KITAMAE 公式サイト 三國湊の才色兼備「料理茶屋・魚志楼」
https://www.kitamae-bune.com/highlight/9/
坂井市公式観光ガイド さかい旅ナビ 料理茶屋 魚志楼
https://kanko-sakai.com/gourmets/g017/
料理茶屋 魚志楼 公式サイト
https://www.uoshirou.com/

最終更新日: 2026.06.25