芦屋の八朔行事とは
9月1日、福岡県北部の港町・芦屋町では、その年に初めての八朔を迎える子どものいる家で、男児なら数多くの藁馬(わらうま)を、女児なら団子雛(だごびいな)を作る。団子雛は、米粉を蒸した団子に彩色して雛人形に仕立てたものだ。作られた藁馬と団子雛は家に飾られたのち、翌2日の早朝に近所の子どもたちへ配られる。
八朔とは旧暦8月1日を指し、もとは農事の節目にあたる日だった。芦屋ではこの日が子の誕生と健やかな成長を祝う行事へと変わり、その習わしが300年あまり受け継がれてきた。
港町に育った行事
芦屋町は遠賀川の河口にあり、響灘に開けている。『日本書紀』や『万葉集』にも名が見える古い港町で、長く川港として栄えた。かつては「芦屋千軒、関千軒」と並び称され、海峡をはさんだ下関と肩を並べる港だったという。人と物、そして各地の風習がここを行き交った。
八朔行事の始まりは江戸時代の中頃とされ、確かな起源は記録に残らないものの、およそ300年続いてきたと伝わる。子どもを主役とする似た八朔の行事は、広島県福山市の鞆の浦や香川県丸亀市にも残る。いずれも瀬戸内海の港であり、海の道を通じて各地に広まった習俗のひとつと考えられている。
文化財としての価値
福岡県は昭和51年(1976年)4月24日に、この行事を県の無形民俗文化財に指定した。さらに平成19年(2007年)3月7日、国は「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択している。消えてしまう前に記録を残しておくべき重要な民俗文化財に与えられる位置づけだ。芦屋町教育委員会は平成20・21年に詳しい民俗調査を行い、平成22年に報告書、平成23年に記録映像をまとめた。
この行事の特色は、子の成長という人生の節目を、手作りの品と地域のつながりに結びつけている点にある。藁馬そのものの評価も高く、八朔の藁馬は福岡を代表する民芸品のひとつに数えられる。
見どころ
藁馬は稲藁をひねって作った素朴な馬だが、細部に目を向けると面白い。背には紙で作った武者人形が乗り、武将の名を記した旗を背負う。よく登場するのが、町の歴史民俗資料館が建つ山鹿の地にゆかりのある中世の武士・山鹿兵藤次秀遠、江戸幕府を開いた徳川家康、のちに福岡藩を治めた黒田家の祖・黒田官兵衛の三人だ。近ごろはスポーツ選手の名を記す家もあり、一頭の馬がいにしえの武将を背負うことも、現役の選手を背負うこともある。
団子雛は、米粉を蒸して練った生地を雛人形の形にし、鮮やかに彩色して作る。こちらも時代とともに姿を変え、アニメや漫画のキャラクターをかたどる家も出てきた。古い記録には、木製や張り子の飾り馬を箱車に乗せ、後ろに竹笹を立てて曳いて回る形も残っている。
行事に触れるには
八朔行事は各家庭で営まれる習わしであり、決まった会場で公開される祭りではない。そのため訪れる人がこの行事に触れたいなら、芦屋歴史の里(芦屋町歴史民俗資料館)を訪ねるのがよい。約16,000点におよぶ収蔵品のなかに、藁馬や団子雛などの民俗資料が収められている。資料館は山鹿1200番地にあり、開館は9時30分から17時(入館は16時30分まで)、月曜(祝日の場合は翌日)と年末年始が休館だ。
芦屋町教育委員会は、藁馬や団子雛の作り方を学ぶ講習会も開いている。行事を行う家が減るなか、習わしを絶やさないための取り組みだ。核家族化や住環境の変化、材料となる藁の入手が難しくなったことなどから継承は容易ではなく、いまは個人や町興しの団体が支え手となっている。行事が行われるのは9月1日・2日ごろだが、時期や見学の可否は各家庭の事情によるため、見たい場合は事前に資料館へ問い合わせておきたい。
芦屋町をめぐる
資料館の近くには芦屋釜の里がある。室町時代に茶の湯釜の名器として知られた芦屋釜の技を伝える施設で、約3,000坪の日本庭園や工房、茶室を備える。国の重要文化財に指定された芦屋釜を展示する建物が、令和6年(2024年)11月に開館した。
海沿いも歩きたい。夏井ヶ浜のはまゆう自生地は九州本土での自生の北限にあたり、福岡県の天然記念物に指定されている。7月中旬から8月上旬に白い花が咲く。近くには洞山の岩島、狩尾岬の千畳敷、古くから知られる芦屋の海水浴場があり、秋には砂像展が開かれる。
Q&A
- いつ行われますか。
- 旧暦8月1日にあたる現在の9月1日が中心で、翌2日の早朝に藁馬や団子雛が近所の子どもたちへ配られます。
- 藁馬と団子雛の違いは何ですか。
- 男児の家は藁馬を、女児の家は団子雛を作ります。どちらも子どもの初めての八朔を祝い、健やかな成長を願うものです。
- 行事を直接見学できますか。
- 各家庭で営まれる習わしで、決まった会場で公開される祭りではありません。実物を見たり作り方を学んだりするなら、資料館やその講習会が確実です。事前に資料館へお問い合わせください。
- なぜ藁馬に武将の名を付けるのですか。
- 背の武者人形が武将名を記した旗を背負い、子どもの強さや健やかな成長への願いを込めています。山鹿秀遠のような地元ゆかりの武士のほか、近年は選手名を記す例も見られます。
- 今も広く行われていますか。
- 家族構成の変化や藁の不足などで行う家は減っており、町は講習会や記録作成を通じて継承に努めています。
基本情報
| 名称 | 芦屋の八朔行事 |
|---|---|
| 所在地 | 福岡県遠賀郡芦屋町 |
| 指定区分 | 福岡県指定無形民俗文化財(昭和51年4月24日指定)/国選択「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」(平成19年3月7日選択) |
| 実施時期 | 毎年9月1日・2日ごろ |
| 保護団体 | 特定せず |
| 問い合わせ | 芦屋歴史の里(芦屋町歴史民俗資料館)福岡県遠賀郡芦屋町大字山鹿1200番地/開館9:30〜17:00(入館16:30まで)/月曜・年末年始休館/Tel 093-222-2555 |
参考文献
- 芦屋の八朔行事(国選択無形民俗文化財)- 芦屋町
- https://www.town.ashiya.lg.jp/site/rekishinosato/31676.html
- 芦屋の八朔行事 - 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/200486
- 芦屋の八朔行事 - 文化庁広報誌 ぶんかる
- https://www.bunka.go.jp/prmagazine/rensai/matsuri/matsuri_018.html
- 芦屋町観光ガイド - クロスロードふくおか
- https://www.crossroadfukuoka.jp/areaguide/ashiyamachi
最終更新日: 2026.06.04