下蕪のかたちに宿る南宋青磁

丸くふくらんだ胴の上に、ほっそりとした頸が立ち、口縁がわずかに外へ反る。日本でこの姿を「下蕪(しもかぶら)」と呼びならわしてきた。胴の張りが器の下方に置かれ、蕪を伏せたような安定した重心を生む。高さは23.5センチ、胴径は14.5センチ。灰白色の磁胎に淡い青磁釉が厚く掛かり、表面はむらなく一様の色面となって落ち着いている。

中国・南宋時代に焼かれた一口で、昭和26年(1951年)に国宝へ指定された。現在の所有は公益財団法人アルカンシェール美術財団で、ふだんは東京国立博物館に寄託されている。

唐物としての青磁

青磁は、鉄分を含む釉を還元炎で焼き、淡い緑から青みを帯びた色に発色させた磁器である。中国では古くから洗練が重ねられ、宋代に日本へもたらされた優品は、大陸渡りの「唐物(からもの)」として珍重された。中世以降に形を整えていく茶の湯の席で、ふさわしい姿の青磁瓶は花生として求められ、一輪の花を生ける器に選ばれた。

本品の磁胎は灰白色の細やかな質で、その上を釉が厚く覆う。釉はむらなく融け、宋代青磁にしばしば見られる細かな貫入がない。高台は薄く削り出され、その内側は広く平らに整えられている。いずれも目立たぬ仕事だが、器の全体像を見通したうえでなければ選べない処理である。

窯をめぐる未決の問い

どこの窯で焼かれたのかは、確定していない。国指定文化財等データベースは本品を南宋時代の作とし、南宋の都・臨安(杭州)近くの官窯の製品かと考えられると記したうえで、確証は得られないと付け加えている。判断の手がかりは器表そのものにある。官窯青磁は鉄分の多い陶器質の胎に厚く釉を掛け、胎と釉の収縮差から貫入が生じるのが通例だが、本品にその貫入はない。むしろ貫入のない滑らかな釉肌は、日本へ大量に舶載され、下蕪形の花生が作風の上から多く帰せられてきた龍泉窯の青磁に近い。

帰属に揺れがある一方で、作の質に異論はない。公的な解説は、太い頸とゆったりとした胴の丸みを評し、安定感のある見事な姿と記す。作調は丁寧で慎重、釉調はむらがなく、類例の少ない出来だという。国宝に挙げられた青磁花生のなかでも傑出した一口に数えられている。同じ下蕪形では、鴻池家伝来で龍泉窯の作とされる「銘鎹(かすがい)」が大阪市立東洋陶磁美術館にあり、両者を思い浮かべて見比べると、青磁の幅が立ち上がってくる。

指定の歩み

本品が重要文化財に列せられたのは昭和6年(1931年)1月である。昭和25年の文化財保護法を機に名品が再検討されるなかで、昭和26年(1951年)6月、指定番号13として国宝に格上げされた。評価は三つの点に支えられている。完存する青磁としての格、轆轤を引く手の確かさ、そして八百年を経てなお淡い青を保つ釉である。

近代の来歴は、明治の大コレクターに連なる。本品は実業家・原六郎の蔵するところであった。原六郎は新しい産業の時代を生きた財界人であり、東洋の古美術を熱心に集めた人でもある。その収集は子孫が設けた財団に受け継がれ、青磁は原家ゆかりの古美術のなかに置かれて、常設ではなく入れ替えのなかで公開されている。

見どころ

まず釣り合いに目をとめたい。頸は一見の予想より太く、その厚みが、丸い胴の上に立つ背の高い姿を弱々しく見せずに支えている。次に釉を読む。視線を傾けても、釉肌を断つ貫入はなく、稜線を越えて層が薄くなるところで青がゆるやかに灰へ移ろう。底まで見える展示に出会えたなら、薄く削った高台と広く平らな底が応えてくれる。釉のかからぬ土見せの部分には、焼き締まった胎の温かい色が、上の冷たい釉と対をなして現れる。

どこで見られるか

本品は据え付けの品ではなく、持ち運ばれる器である。長い期間は東京・上野の東京国立博物館に寄託され、常設ではなく東洋陶磁の展示のなかで折にふれて姿を見せる。また群馬県渋川市の原美術館ARCへ里帰りし、原六郎コレクションの展観に並ぶこともある。日程は入れ替わるため、わざわざ足を運ぶ前に、各館の開催情報を確かめておきたい。

群馬の館は、それ自体が訪ねる値打ちのある場所である。原美術館ARCは榛名山麓の高原に建ち、伊香保の温泉地から車で近い。漆黒の建物は建築家・磯崎新の設計で、書院造を写した特別展示室「觀海庵(かんかいあん)」では、原家の東洋古美術と現代美術が同じ空間で向かい合う。石段の坂道と古い湯宿の続く伊香保温泉は、同じ一日に組み合わせやすい。

Q&A

Q訪ねれば必ず見られますか。
A常設している館はありません。寄託先の東京国立博物館と、里帰り展示のある群馬の原美術館ARCとのあいだで入れ替わります。出かける前に、各館の開催中の展示情報をご確認ください。
Qどこで焼かれたものですか。
A中国・南宋時代の作です。窯については定説がありません。杭州近くの官窯に結びつける見方がありますが確証はなく、貫入のない滑らかな釉肌は浙江の龍泉窯に近いとも見られています。
Q「下蕪」とは何ですか。
A器のかたちを指す言葉です。細い頸の下、胴の下方が丸くふくらむ姿を、蕪を伏せた形に見立てたものです。この姿の青磁瓶はいくつか日本へ渡り、茶席の花生として珍重されました。
Q確実に見られる似た作はありますか。
A大阪市立東洋陶磁美術館に、同じ下蕪形で龍泉窯の作とされる国宝の青磁花生があります。ほかにも名高い宋代青磁を所蔵し、こうした作は同館の中心的な収蔵品として親しまれています。

基本情報

名称青磁下蕪花生(せいじしもかぶらはないけ)
種別工芸品(国宝)
制作中国・南宋時代(1127〜1279年)
員数1口
寸法高23.5cm/口径7.8cm/胴径14.5cm/底径9.8cm
指定重要文化財 昭和6年(1931年)1月19日/国宝 昭和26年(1951年)6月9日(指定番号13)
所有者公益財団法人アルカンシェール美術財団
保管・公開東京国立博物館に寄託(東京・上野)。原美術館ARC(群馬県渋川市金井2855-1)でも公開されることがある。
公開状況常設ではなく入れ替え展示。来館前に各館の開催情報の確認を推奨。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/201/299
原美術館ARC 公式サイト
https://www.haramuseum.or.jp/jp/arc/
WANDER 国宝「青磁下蕪花生[アルカンシェール美術財団]」
https://wanderkokuho.com/201-00299/
中国の陶磁器(Wikipedia)青磁の窯と貫入
https://ja.wikipedia.org/wiki/中国の陶磁器

最終更新日: 2026.06.12