旧九州芸術工科大学とは ― フライパン広場を囲む1970年の校舎5棟

旧九州芸術工科大学は、福岡県福岡市南区塩原の九州大学大橋キャンパスに昭和45年(1970年)に建てられた鉄筋コンクリート造の校舎5棟の総称で、5棟は令和7年(2025年)3月13日にそろって国の登録有形文化財に登録された。登録番号は40-0231から40-0235までの連番で、登録基準は5棟とも「造形の規範となっているもの」である。

九州芸術工科大学は、昭和43年(1968年)4月1日に開設された芸術工学部だけの国立大学で、環境設計・工業設計・画像設計・音響設計の4学科で始まった。平成15年(2003年)10月1日に九州大学と統合し、キャンパスはいまも九州大学芸術工学部・大学院芸術工学府の拠点として使われている。登録名称に「旧」が付くのはこのためで、現役の校舎としては別の名で呼ばれている。

設計は、開学時に助教授として着任した建築家の香山壽夫と、大学の環境設計学科による。5棟は通称「フライパン広場」と呼ばれる正方形の広場を四方から囲み、どの棟も2階の高さで広場に接続する。教員と学生が顔を合わせる場を用意することが計画の中心にあり、九州大学はこの5棟を大橋キャンパスを象徴する建築空間と位置づけている。

旧九州芸術工科大学の5棟と広場の配置

文化庁の解説文は、各棟の位置を広場からの方角で書いている。まとめると旧九州芸術工科大学の配置は次のようになる(括弧内は現在の呼び名)。

  • 環境画像棟(2号館):広場の北側に建つ6階建。下層を吹抜のラウンジ、上層をバルコニーとした階段状の立面を広場へ向ける
  • 工業音響棟(1号館):広場を挟んで環境画像棟と向かい合う6階建。同じ意匠で対になり、上層を後退させる
  • 画像特殊施設棟(画像特殊棟):広場の北東に建つ3階建で、写真スタジオを収める
  • 音響特殊施設棟(音響特殊棟):広場の南東に建つ3階建で、無響室を収める。画像特殊施設棟と渡廊下を挟んで左右対称をなし、2棟で広場の東面をつくる
  • 工作工房(工作工房棟):広場の南西に建つ3階一部2階建で、デッサンや木工の作業棟

6階建の2棟が南北から広場を挟み、3階建の3棟が残りの辺と隅を固める構成である。九州大学芸術工学部の英語サイトは、向かい合う2棟とそのあいだの広場という形について、香山がルイス・カーンのソーク研究所に着想を得たと紹介している。広場の愛称は、その形がフライパンに似ていることから学生のあいだで定着したという。

5棟とも躯体はコンクリートの打放し仕上げで、左右対称の立面を基本にしている。九州大学が公表した建築物一覧は、設計者として香山壽夫のほか塚越功・岡道也・橋場光・後藤元一、九州芸術工科大学施設課、K構造研究所の名を挙げ、施工は淺沼組と西松建設としている。

旧九州芸術工科大学が登録されるまで

九州大学によると、旧九州芸術工科大学の5棟は、戦後の高度経済成長期に建てられた建築であることに加え、のちに戦後日本を代表する建築家の一人となる香山壽夫の初期の代表作として評価された。令和6年(2024年)11月に登録の見通しが公表され、同年12月5日には福岡市の主催で、芸術工学研究院の教員が現地を歩いて解説する見学会が開かれている。

登録を受けた5棟は、いずれも使われ続けてきた校舎である。環境画像棟と工作工房は平成26年(2014年)、環境画像棟と画像特殊施設棟は令和元年(2019年)、工業音響棟と音響特殊施設棟は令和3年(2021年)に改修を受けており、文化庁のデータベースも建築年とあわせてこれらの改修年を記している。九州大学は、登録を機に大橋キャンパスを学内外に開かれた学びの拠点として活用していく方針を示している。

旧九州芸術工科大学の校舎を訪ねるには

旧九州芸術工科大学の5棟がある九州大学大橋キャンパスへは、西鉄天神大牟田線の大橋駅が最寄りとなる。九州大学の案内では、福岡空港やJR博多駅からは地下鉄空港線で天神駅へ出て、西鉄福岡(天神)駅から大橋駅へ向かう経路が示されている。大橋駅からキャンパスまでは東へ徒歩5分ほどである。

芸術工学部の英語サイトによると、正門を入ると左手に学生食堂のあるデザインコモンがあり、正門からの通路は噴水と大きな木のある中庭へ続く。旧九州芸術工科大学の校舎群はこの中庭の奥にある。教室棟に入れるのは学生と教職員に限られるが、幾何学的なコンクリートの構造やバルコニーは建物の外から眺められると案内されている。見学の際は授業や研究の妨げにならないよう、静かに歩きたい。

内部に入る機会としては、芸術工学部が年に1回開く施設公開がある。令和6年(2024年)は6月15日、令和7年(2025年)は6月7日、令和8年(2026年)は6月6日に開かれ、研究室の展示や体験ブースがキャンパス各所に並んだ(2026年9月確認)。各棟の造りと見どころは、それぞれのページで紹介している。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州芸術工科大学環境画像棟」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015391
文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州芸術工科大学工業音響棟」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015392
文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州芸術工科大学画像特殊施設棟」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015393
文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州芸術工科大学音響特殊施設棟」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015394
文化庁 国指定文化財等データベース「旧九州芸術工科大学工作工房」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015395
九州大学「九州大学大橋キャンパスの建築物群が国の登録有形文化財に」
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/topics/view/2166/
九州大学芸術工学部「大橋キャンパスの建築物群が国の登録有形文化財に」
https://www.design.kyushu-u.ac.jp/topics/24772/
九州大学芸術工学部「大橋キャンパス建築物一覧」(PDF)
https://www.design.kyushu-u.ac.jp/_cms_dir/wp-content/uploads/2024/11/5c990403912cc6f8ce5491ef65c1fe5b.pdf
九州大学芸術工学部「概要」(沿革)
https://www.design.kyushu-u.ac.jp/about/
九州大学芸術工学部 Geiko Global「Ohashi Campus Design」
https://www.gg.design.kyushu-u.ac.jp/en/prospective_students/ohashi-campus-design
九州大学「アクセス・キャンパスマップ 大橋キャンパス」
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/campus/ohashi/
九州大学芸術工学部「施設公開」
https://www.design.kyushu-u.ac.jp/open-campus/

最終更新日: 2026.09.30

基本情報

名称旧九州芸術工科大学
所在地福岡県福岡市南区塩原四丁目9-1
所有者国立大学法人九州大学
指定登録有形文化財 5件
座標33.56036, 130.43057