風浪神社五重塔(正平塔):室町時代の石造美術が語る信仰の歴史

福岡県大川市の風浪神社(風浪宮)の境内に静かに佇む石造五重塔は、正平10年(1355年)の銘を持つことから「正平塔」とも呼ばれ、国指定重要文化財として大切に守り継がれてきました。室町時代前期に築造されたこの石塔は、660年以上の歳月を経てなお、精緻な仏像彫刻や龍・鬼面の装飾を今に伝え、筑後地方の信仰と文化の深さを物語っています。

歴史的背景

この五重塔の建立年代は、塔身に刻まれた「正平十年乙未十月一日」の銘文から正確に知ることができます。前面の銘文には「筑後州酒見村当所九十九ヶ所大権現之御宝前に五重石塔一基を奉造立す」とあり、神仏習合の時代における信仰の姿を伝えています。願主は沙弥道慧と沙弥道一の二名で、大工(石工)は藤原介嗣と記されています。銘文にはまた、「天長地久、御願円満、国土豊饒、当村安穏、万民快楽」への祈りが込められており、国の安泰と地域の平和を願う当時の人々の思いが読み取れます。

五重塔が建つ風浪神社(風浪宮)は、西暦192年に神功皇后が三韓征伐からの帰途、筑後国葦原ノ津(現在の大川市榎津)に船を寄せた際、白鷺に導かれてこの地を聖地と定めたことに始まると伝えられます。海の神である少童命(わだつみのみこと)を祀り、1,800年以上の由緒を持つ筑後地方の代表的な神社として、地元の人々から「おふろうさん」の愛称で親しまれています。

なぜ重要文化財に指定されたのか

風浪神社五重塔は、明治43年(1910年)8月29日に国の重要文化財(旧国宝)に指定されました。その文化的価値は多岐にわたります。

第一に、正平10年(1355年)という明確な紀年銘を持つことで、室町時代前期の石造物の編年研究において重要な基準作例となっています。第二に、各層の塔身に彫り込まれた如来・菩薩・天人などの浮き彫りは、中世の石造美術として極めて高い技術水準を示しています。第三に、仏教的な五重塔と仏像彫刻が神社境内に存在するという点は、かつての神仏習合の歴史を伝える貴重な証拠です。明治時代の神仏分離以前、日本では神道と仏教が融合した信仰形態が一般的であり、この石塔はその歴史的な姿を今に伝えるかけがえのない遺産です。

建築的特徴と見どころ

石塔の総高は約3.3メートル(大川市の資料では3.23メートル)で、二重基壇の上に五層の塔身と屋根が積み重なり、頂部には相輪を載せています(現在、相輪の先端は欠損)。各層の屋根と塔身は上に行くほどわずかに小さくなり、均整のとれた優美なプロポーションを見せています。

屋根は入母屋造で厚みがあり、軒先には美しい反りが付けられています。軒裏には垂木が丁寧に彫り出され、石造でありながら木造建築のような繊細さが表現されています。大棟には隆棟の模様が施され、棟の端には力強い鬼面の彫刻が飾られています。特に注目すべきは最上層で、隅棟に蟠龍(とぐろを巻いた龍)が悟りを開いて天に昇る姿が刻み込まれています。

各層の塔身には仏龕(仏像を安置する小さな壁龕)が設けられ、その中に如来や菩薩、天人などの浮き彫りが施されています。その彫りの技は精巧で、表情豊かな仏像の一つひとつが中世の石工の卓越した技術を証明しています。

参拝・見学のご案内

風浪神社五重塔は、風浪宮の境内に位置しており、見学時間は午前8時から午後5時までです。拝観料は無料で、どなたでも自由にご覧いただけます。五重塔と合わせて、永禄3年(1560年)に蒲池鑑盛が再建した本殿(国指定重要文化財)や、樹齢約2,000年と伝わる御神木「白鷺の樟」(福岡県天然記念物)もぜひご覧ください。

アクセスは、西鉄天神大牟田線の西鉄柳川駅から西鉄バス(佐賀駅行き・大川橋ゆき)に乗車し、「中原高木病院前」下車、徒歩約15分(約1.2km)。またはJR鹿児島本線の羽犬塚駅から西鉄バス(大野島農協ゆき)に乗車し、「酒見」下車、徒歩約6分(約450m)です。

周辺の見どころ

大川市と周辺の筑後地方には、五重塔の見学と合わせて楽しめる魅力的なスポットが数多くあります。

  • 風浪神社本殿 — 永禄3年(1560年)に蒲池鑑盛が再建した国指定重要文化財。檜皮葺の三間社流造で、屋根の曲線の美しさが際立つ室町時代後期の社殿建築です。
  • 筑後川昇開橋 — 1935年に建設された日本最古の昇開式可動橋で、国指定重要文化財および機械遺産に認定されています。夕暮れ時のライトアップも人気です。
  • 旧吉原家住宅 — 江戸時代の豪商の住まいを伝える国指定重要文化財で、当時の暮らしぶりを垣間見ることができます。
  • 大川公園 — 風浪宮の外苑に広がる公園で、数百本の桜が植えられた市民の憩いの場。園内には大川出身の大作曲家・古賀政男の直筆曲碑もあります。
  • 風浪宮大祭 — 毎年2月9日〜11日に催される筑後地方の三大祭りのひとつ。裸ん行やお潮井汲み、流鏑馬などの伝統神事が行われ、約15万人の参拝客で賑わいます。

Q&A

Q「正平塔」とは何ですか?
A正平塔は、風浪神社五重塔の通称です。塔身に刻まれた「正平十年乙未十月一日」(西暦1355年)の銘文にちなんでこう呼ばれています。二重基壇の上に五層の塔身と屋根を重ねた石造の五重塔で、総高は約3.3メートルです。
Q拝観料はかかりますか?
Aいいえ、拝観料はかかりません。五重塔は風浪宮の境内に位置しており、見学時間(午前8時〜午後5時)内であれば、どなたでも無料でご覧いただけます。
Qなぜ神社の境内に仏教の五重塔があるのですか?
Aこれは日本の歴史における「神仏習合」の名残です。明治時代の神仏分離令以前、日本では神道と仏教が融合した信仰形態が広く行われており、神社の境内に仏教的な建造物が置かれることは珍しくありませんでした。風浪神社五重塔は、こうした時代の信仰の姿を伝える貴重な遺産です。
Q風浪神社にはほかにどのような文化財がありますか?
A五重塔のほか、永禄3年(1560年)に再建された本殿も国指定重要文化財に指定されています。檜皮葺の三間社流造で、室町時代後期の優れた社殿建築です。また、境内には安土桃山時代の石造狛犬(国指定重要文化財)や、樹齢約2,000年の御神木「白鷺の樟」(福岡県天然記念物)もあります。
Q訪問に最適な時期はいつですか?
A一年を通じて参拝・見学が可能です。春は隣接する大川公園の桜が美しく、毎年2月9日〜11日に開催される風浪宮大祭は、裸ん行や流鏑馬などの伝統行事を間近で体験できる筑後地方最大級のお祭りです。約15万人の参拝客が訪れます。

基本情報

名称 風浪神社五重塔(ふうろうじんじゃごじゅうのとう)
通称 正平塔(しょうへいとう)
指定区分 国指定重要文化財(建造物)
指定年月日 明治43年(1910年)8月29日
建立年代 正平10年(1355年)室町時代前期
種別 石造五重塔
総高 約3.3m
所在地 福岡県大川市大字酒見726-1
所有者 風浪神社(風浪宮)
見学時間 8:00〜17:00
拝観料 無料
お問い合わせ 風浪宮 TEL:0944-87-2154
アクセス 西鉄柳川駅から西鉄バス「中原高木病院前」下車、徒歩約15分。JR羽犬塚駅から西鉄バス「酒見」下車、徒歩約6分。

参考文献

風浪神社五重塔(ふうろうじんじゃごじゅうのとう) - 大川市
https://www.city.okawa.lg.jp/s065/010/010/020/030/032/20160713151636.html
福岡県文化財データベース - 風浪神社五重塔
https://www.fukuoka-bunkazai.jp/frmDetail.aspx?db=1&id=210
風浪宮 - Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E6%B5%AA%E5%AE%AE
風浪宮とは | 風浪宮 公式サイト
https://www.ofurousan.or.jp/about/
風浪宮 - 大川市観光なび
http://www.city.okawa.fukuoka.jp/kankou/k002/020/030/20150415172211.html
大川市観光ガイド - クロスロードふくおか
https://www.crossroadfukuoka.jp/areaguide/okawa-shi

最終更新日: 2026.04.02