上りと下りがすれ違わない、二重らせんの木造堂
会津若松市の飯盛山にある旧正宗寺三匝堂は、堂内に階段がない。代わりに、滑り止めの桟を打った傾斜路(スロープ)が右回りに上っていく。一回転半で頂上の小さな太鼓橋を渡り、今度は逆回りのスロープを下りていくと、入った正面ではなく背面の出口へ出る。上りと下りの通路は二本のらせんとして互いに巻き合い、最初から最後まで交わらない。参拝者がどれだけ多くても、向かいから来る人とすれ違うことがないという構造である。
正式な指定名称は旧正宗寺三匝堂。一般には円通三匝堂と呼ばれ、貝のさざえに似た形から「さざえ堂」の通称で知られる。高さは約16.5メートル。六角形の平面をもつ三層の木造堂で、屋根は銅板葺き、正面には向唐破風の向拝がつく。
寛政八年ごろ、一人の僧の発想から
この堂を考案したのは、かつてこの斜面にあった正宗寺にゆかりの僧、郁堂と伝えられる。古い記録には近くの実相寺の僧とするものもあり、出自は一通りには定まっていない。建立は寛政八年(1796年)とされることが多いが、国の文化財データでは完成を1797年としている。初層の平面は差し渡し約6.3メートルの六角形。内部では六本の心柱と六本の隅柱が、この複雑にねじれた構造全体を支えている。
さざえ堂は会津だけのものではない。享保年間に江戸の羅漢寺に造られた堂を皮切りに、関東から東北にかけて、らせん状の巡礼堂がいくつも建てられた。会津のものが他と違うのは、上りと下りを別々のらせんに分けた点にある。多くのさざえ堂は一本の通路を巻いて昇降するが、ここだけは二本の独立したスロープが組み合わさっている。江戸以前の日本建築でこの構造をもつ例は、ほかに知られていない。世界を見渡しても近いのはフランスのシャンボール城にある二重らせん階段で、レオナルド・ダ・ヴィンチの設計とも伝えられる。その発想が会津へ伝わったとする説もあるが、確かな物証はない。
スロープを歩けば、当初の役割が見えてくる。かつてはこの通路に沿って西国三十三観音の像が並び、堂を一巡りすれば西国巡礼を一度で済ませられた。庶民の観音信仰を背景にした、合理的でいくらか遊び心のある仕掛けである。像は明治初期の廃仏毀釈で堂から移され、その後、代わりに皇朝二十四孝を描いた額が掲げられた。
重要文化財に指定された理由
平成7年(1995年)6月27日、この建物は国の重要文化財に指定された。評価の中心はやはり構造にある。六角の平面、塔として立ち上がる三層、そして二本のらせんを組んだ通路。福島県教育委員会は現地の解説板で、仏堂建築として他に例を見ない特異なものと記し、六本の心柱と六本の隅柱を用いて二重螺旋のスロープを造り上げた考案者と棟梁の創意と技術を評価している。
この堂は、地域の社寺を結ぶ日本遺産「会津の三十三観音めぐり」の構成文化財の一つにもなっている。正宗寺は、神仏習合のもとで隣接する厳島神社の別当寺をつとめていたが、明治の混乱のなかで廃寺となった。伽藍のうち現存するのはこのさざえ堂だけで、最後の住職の子孫である飯盛家が所有している。明治23年(1890年)には大きな修理が行われたが、基本的な骨組みは創建時の姿を引き継いでいる。
上りながら気づきたいこと
方向感覚が狂う感じも、この堂の体験のうちだ。床が折りたたまれていくようだとか、今どの階にいるのか分からなくなるという声は多い。窓枠は上りのスロープに合わせて斜めに取りつけられており、その傾きがゆるい眩暈を誘う。上る途中には三か所ほど、反対側のスロープがのぞける場所があり、同じ殻の中にもう一本の道が手の届かない近さで通っていることに気づく。
入口の近くには、設計者とされる郁堂の像が安置されている。所有者の家に伝わる話では、郁堂は二重に縒った紙縒り(こより)の夢を見て、この二重らせんを思いついたという。階段と間違われやすいスロープは、実際には桟を打った連続する坂で、段を上るというより、ゆっくり巻きながら登っていく感覚に近い。頂上の橋にさしかかったら、頭上を見上げてほしい。床からでは読み取りにくい木組みが、頭の上で扇のように広がっている。
行き方と周辺の見どころ
さざえ堂が立つ飯盛山は、歴史の重い丘でもある。慶応4年(1868年)の戊辰戦争のさなか、白虎隊の少年たちが、城下に上がる煙を見て自刃したのがこの場所だ。彼らの墓所は堂から歩いてすぐで、二つの場所はたいてい一緒に訪ねられる。会津若松駅からは車で5分ほど、周遊バスでも行ける。
城下町そのものも、時間をかけて歩く価値がある。赤瓦の天守で知られる鶴ヶ城は市内の反対側にあり、見学を受け入れている老舗の酒蔵もいくつか近い。さざえ堂を一巡りするのは数分なので、一日をこの堂だけで過ごすというより、こうした大きな目的地と組み合わせて回るのがちょうどよい。
Q&A
- 中に入って、らせんのスロープを歩けますか。
- 歩けます。拝観料を払って入り、片方のスロープで上り、もう片方で下ります。一巡りは数分です。
- 開いている時間は。
- おおむね4月〜12月は8時15分から日没まで、1月〜3月は9時から16時までで、年中無休とされています。時間は変わることがあるので、訪問前に公式情報を確認してください。
- 本当に堂内に階段はないのですか。
- ありません。通路は段ではなく、滑り止めの桟を打った連続する傾斜路です。これが歩いたときの独特の感覚につながっています。
- なぜ「さざえ堂」と呼ばれるのですか。
- 堂内を巻いて上るスロープが、さざえの貝の渦に似ているためです。その通称が定着しました。
- 白虎隊の墓所とは近いですか。
- 近いです。どちらも飯盛山にあり、歩いてすぐの距離なので、多くの人が同じ日に両方を訪ねます。
基本データ
| 指定名称 | 旧正宗寺三匝堂(通称:円通三匝堂・会津さざえ堂) |
|---|---|
| 所在地 | 福島県会津若松市一箕町大字八幡字弁天下1404番2 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物)/平成7年(1995年)6月27日指定 |
| 時代 | 江戸後期。寛政八年(1796年)ごろ建立、完成は1797年とされる |
| 構造形式 | 六角さざえ堂、向拝一間、向唐破風造、銅板葺。高さ約16.5メートル |
| 員数 | 1棟 |
| アクセス | 会津若松駅から車で約5分、飯盛山中腹 |
| 拝観料 | 大人400円、高校生300円、小中学生200円(変更の場合あり) |
参考文献
- 文化遺産オンライン 旧正宗寺三匝堂
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/173442
- 会津若松市 旧正宗寺三匝堂(さざえ堂)
- https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2012110900017/
- 日本遺産ポータルサイト 旧正宗寺三匝堂
- https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/1716/
- 日本遺産「会津の三十三観音めぐり」 旧正宗寺三匝堂
- https://aizu33.jp/cultural_assets/572/
- nippon.com 会津さざえ堂
- https://www.nippon.com/ja/guide-to-japan/gu900008/
最終更新日: 2026.06.04