階段状の敷地の下段に建つ、生糸商人の住まい

旧吉田家住宅主屋(きゅうよしだけじゅうたくおもや)は、福島県田村郡三春町字大町82にある明治28年(1895年)頃の住宅で、令和2年(2020年)8月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。

三春は旧三春藩の城下町である。町並みは低い丘陵の起伏に沿って上り下りを繰り返し、吉田家の敷地もその地形をそのまま受けて階段状に段を刻む。主屋が建つのは、その下段にあたる。通りから近づくと軒とほぼ目線が合い、背後の土地だけが北西へ向かって高くなっていく。

建てたのは生糸商人の吉田誠次郎。田村郡駒板村(現在の郡山市中田町駒板)の吉田常三郎の次男として生まれ、三春町中町の商人・釜屋宗像善吾の次女と結婚して養子に入った。東京や横浜の生糸問屋と取引を重ね、外国人向けに錦絵や書画、骨董を扱い、金融業も併せて営む。一代で財を築いた人物である。

宗像家からの分家を機に、誠次郎は字大町へ新たに居宅を構えた。主屋のほか、土蔵や離れが同じ敷地に建てられている。

間取りには、中へ入る前に一度立ち止まって見ておきたい特徴がある。居間部と客間部が矩折れに接続し、二つの棟がどちらも同じ前庭に向いているのだ。日常の場と改まった場という性格の異なる二つの空間が、一つの庭を共有する構成になっている。構造は木造平屋一部2階建、瓦葺で、建築面積は156平方メートル。

登録を支えたもの――材の目利き

文化庁の国指定文化財等データベースは、この主屋を登録番号07-0238、第96回登録として掲載し、登録基準を「国土の歴史的景観に寄与しているもの」としている。この基準は外に向いた評価、つまり旧城下町の町並みへの寄与を指す。もう一つ、より内向きの理由が室内にあり、そちらはほとんど木材だけで語られる。

客間は端正な意匠の書院である。派手に飾り立てる造りではない。贅沢は要所に集中していて、客の視線が落ちるあたりに黒柿が使われ、床柱などには繊維質の幹をもつ棕櫚が用いられる。どちらも構造上の必要から選ばれた材ではない。値段も呼び名も知り尽くした商人の選択である。

居間部の西寄り、二階に配された座敷はさらに踏み込んでいる。文化庁の解説文は、ここに埋れ木、すなわち地中から掘り出された半ば炭化した木材が用いられていること、ほかにも珍しい材が多く使われていること、そして中国趣味を加味した独創的な意匠であることを記す。

三春町の説明は、その経緯を補ってくれる。誠次郎は建物への関心が強く、東京や横浜へ出向いた折に自ら銘木を買い付けた。その結果、天井、建具、欄間、棚に至るまで部屋ごとに意匠が異なり、同じ造りの部屋が二つとない。町の評価は地域の文脈にも触れていて、これほど凝った数寄屋造りは当時の福島県内では見られなかったとする。

数寄屋造りは茶室から派生した住宅様式で、細い部材、素地のままの表面、左右非対称を好む。格式ある書院造の重々しい均整とは方向が違う。家格に縛られない商人が、材の目利きとしての眼をそこへ持ち込んだとき、見せびらかしではなく目利きそのものとして読める室内が生まれた。

見学は無料、部屋は時間貸し

吉田家から譲り受けた三春町は主屋に改修工事を施し、平成10年(1998年)に「三春町文化伝承館」として開館した。主屋の見学は無料である。開館時間は午前9時から午後4時30分まで。休館日は月曜日と祝日の翌日で、月曜日が祝日にあたる場合はその翌日が休みになる。冬期の扱いには注意したい。12月から2月までは平日が休館で、土曜・日曜・祝日のみ開館する。

登録有形文化財としては珍しい使われ方もしている。部屋を借りられるのだ。会議や研修の会場として、また和風建築を活かした写真撮影の会場としても貸し出される。使用料は大広間が1時間500円、その他の部屋が1時間300円。暖房等を使う場合は1時間250円が加算される。申込みは三春町歴史民俗資料館(電話0247-62-5263)へ事前に。

主屋の裏手の斜面を上ると、誠次郎が謡曲の稽古と披露の場として建てた二階建の座敷蔵、紫雲閣に出る。登録は主屋と同じ日で、番号は一つ後の07-0239。修繕を経て令和5年(2023年)に公開を再開した。こちらは一般200円の入館料が必要で、近くの三春郷土人形館との共通券になっている。

交通は、JR磐越東線の三春駅から徒歩約30分、タクシーなら5分ほど。福島交通の三春行きバスなら中央大町バス停で降りて徒歩5分。専用駐車場はないため、車の場合は三春交流館「まほら」駐車場(徒歩5分)か公共施設駐車場(徒歩10分)を使うことになる。

出かける前に整理しておきたい点が一つある。千葉県柏市にも「旧吉田家住宅」があり、そちらは名主を務め醤油醸造も手がけた別の吉田家の屋敷で、主屋など8棟が平成22年(2010年)に国の重要文化財に指定されている。三春の主屋とは家も、指定の区分も、建てられた時代も異なる別の物件である。

四月の三春は混む。国の天然記念物である三春滝桜を目当てに全国から人が集まり、大町周辺の通りもその流れを受ける。静かに座敷を見たいのなら、桜の時期を外すのが賢明だろう。

Q&A

Q旧吉田家住宅主屋は見学できますか。入館料はかかりますか。
A見学できます。主屋は「三春町文化伝承館」として公開されており、入館は無料です。開館時間は午前9時から午後4時30分まで、休館日は月曜日と祝日の翌日。12月から2月までは平日休館で、土曜・日曜・祝日のみ開館します。
Q旧吉田家住宅主屋はいつ建てられ、いつ文化財に登録されたのですか。
A建築年代は明治28年(1895年)頃です。令和2年(2020年)8月17日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。登録番号は07-0238、第96回登録にあたります。
Q旧吉田家住宅主屋へは三春駅からどう行けばよいですか。
AJR磐越東線の三春駅から徒歩約30分、タクシーで5分ほどです。福島交通の三春行きバスを利用する場合は中央大町バス停下車、徒歩5分。専用駐車場はないので、車では三春交流館「まほら」駐車場または公共施設駐車場を利用してください。
Q旧吉田家住宅主屋の見どころはどこですか。
A部屋ごとの意匠の違いです。天井、建具、欄間、棚まで一部屋ずつ扱いが変えてあります。客間の書院には要所に黒柿や棕櫚が使われ、居間部西寄りの二階座敷には埋れ木などの珍木が用いられ、中国趣味を取り入れた意匠になっています。
Q旧吉田家住宅主屋は会議や撮影に借りられますか。
A借りられます。会議や研修のほか、和風建築を活かした写真撮影の会場としても貸し出されています。使用料は大広間が1時間500円、その他の部屋が1時間300円で、暖房等の使用時は1時間250円が別途必要です。三春町歴史民俗資料館(0247-62-5263)へ事前に申請してください。

基本情報

名称旧吉田家住宅主屋(きゅうよしだけじゅうたくおもや)
所在地福島県田村郡三春町字大町82
指定区分国登録有形文化財(建造物)/登録番号 07-0238、第96回登録/登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」
指定年令和2年(2020年)8月17日 登録
員数1棟
寸法木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積156平方メートル
所有者三春町
公開状況「三春町文化伝承館」として公開。入館無料。午前9時~午後4時30分。休館日は月曜日・祝日の翌日、12月~2月は土日祝のみ開館。貸館あり(大広間1時間500円、その他の部屋1時間300円、暖房等1時間250円加算)。申込は三春町歴史民俗資料館 電話0247-62-5263

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「旧吉田家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013345
三春町歴史民俗資料館「三春町の文化財 旧吉田家住宅主屋」
https://www.town.miharu.fukushima.jp/soshiki/19/kyuyosidateiomoya.html
三春町歴史民俗資料館「文化伝承館・紫雲閣」(利用案内)
https://www.town.miharu.fukushima.jp/soshiki/19/about/shiunkaku/
みはる観光協会「三春町文化伝承館」
https://miharukoma.com/experience/242

最終更新日: 2026.08.25