庭園の高台に建つ豪農の別邸

蛇の鼻御殿は、福島県本宮市本宮にある別荘建築で、明治末(1868年から1911年)に建てられた2棟が平成8年(1996年)12月20日に登録有形文化財となった。所有は株式会社伊東商事である。

読みは「じゃのはなごてん」。登録されたのは本館と蔵座敷の2棟で、登録番号は07-0005と07-0006。福島県では向瀧の4棟に続く登録番号にあたる。

建つのは「花と歴史の郷 蛇の鼻」の園内、高台の一角である。本宮市の公式の紹介によれば、旧本宮町の豪農である伊藤家の別邸として建てられた。庭園の中に住まいがあるのではなく、庭園を見下ろす位置に建物が置かれている。

彫刻と障壁画でつくられた建物

本館は木造2階建、鉄板葺で建築面積253平方メートル。外観には千鳥破風と唐破風を用い、玄関には精緻な彫刻を入れる。内部には障壁画が残り、各部に銘木や巨木が使われている。

文化庁の解説は、この建物が8年の歳月をかけて建設されたと伝えると記す。一方、本宮市の紹介は10年の歳月をかけたとする。いずれにしても、通常の住宅とは桁の違う手間がかけられた建物である。

登録の基準は本館が「再現することが容易でないもの」、蔵座敷が「造形の規範となっているもの」で、2棟で分かれる。本館は材料と彫刻の質が、蔵座敷は蔵座敷という形式の完成度が評価されたと読める。

文化庁のデータベースは、蔵座敷の構造欄に木造2階建・鉄板葺と記し、解説文では土蔵造の建物と述べている。記述が一致しないため、ここでは両方を併記した。

別邸を建てた人

蛇の鼻御殿を建てさせたのは伊藤彌である。旧本宮町の大地主で、町長と福島県議会議員を務めた。福島民友新聞の報道によれば、造営にあたって気に入らない箇所は壊してやり直させ、部分的に何度も作り直させたという。文化庁が記す8年、本宮市が記す10年という工期は、その進め方の結果でもある。

彫刻は二本松の彫刻師に依頼したと伝わる。館内には伊藤博文をはじめとする明治の要人の扁額や書が掲げられており、当時の交流をうかがわせる。

伊藤家の手を離れたあと、昭和39年(1964年)に現在の所有者である伊東商事へ経営が移り、翌年から庭園として開園した。現在の「花と歴史の郷 蛇の鼻」はその延長にある。

東北の蔵座敷として

蔵座敷は建築面積43平方メートルと小さい。内部は本館と同じく障壁画や銘木、巨木といった特殊な材料で飾られる。

東北地方の邸宅では、土蔵の内部を座敷に仕立てる蔵座敷がしばしば見られる。火に強い蔵を、物を納める場所ではなく人を迎える場所として使うという考え方で、蛇の鼻御殿の蔵座敷は、そのなかでも内部の意匠が華やかな例として注目されている。

本館と蔵座敷を続けて見ると、同じ材料と同じ絵師の仕事が、規模の違う2棟に入っていることが分かる。253平方メートルの本館で見た手法が、43平方メートルの蔵座敷にそのまま縮めて収まっている。

見学と行き方

蛇の鼻御殿は「花と歴史の郷 蛇の鼻」の入園料で拝観できる。入園料は大人(高校生以上)1,000円、小人(小学生以上)500円で、御殿の拝観料を含む。券はフリーパスとなっており、同じ年のうちは何度でも入園できる。20名以上と40名以上には団体料金がある。

開園時間は季節で変わる。4月1日から10月25日は午前9時から午後5時(受付終了は午後4時30分)、10月26日から11月30日は午前9時から午後4時30分(受付終了は午後4時)、12月1日から3月31日は午前10時から午後3時(受付終了は午後2時30分)である。12月28日から1月6日は休園する。冬期は天候や職員の都合で臨時休園することがあるため、遠方から向かう場合は事前の問い合わせが確実である。

ペットを連れての入園はできるが、蛇の鼻御殿を含む文化財エリアには入れない。園内での撮影は個人の記念であれば自由だが、業として行う撮影やドローンの使用には申請と料金が必要で、御殿の内部と庭園での撮影には別途許可が要る。

所在地は福島県本宮市本宮字蛇の鼻38。JR東北本線の本宮駅から車でおよそ8分、東北自動車道の本宮インターチェンジからもおよそ8分。駐車場は無料で、乗用車300台とバス10台分がある。

この情報は2026年9月17日に確認した。料金や時間は変わることがあるため、訪問前に公式サイトで確かめてほしい。

参考文献

国指定文化財等データベース 蛇の鼻御殿本館(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000025
国指定文化財等データベース 蛇の鼻御殿蔵座敷(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000026
入園料・交通のご案内(花と歴史の郷 蛇の鼻)
https://janohana.com/?page_id=11
花と歴史の郷 蛇の鼻(本宮市)
https://www.city.motomiya.lg.jp/site/kanko/230.html
【建物語】蛇の鼻御殿・本宮市(福島民友新聞)
https://www.minyu-net.com/serial/tatemono/FM20211010-660645.php

最終更新日: 2026.09.17

基本情報

名称蛇の鼻御殿
所在地福島県本宮市本宮字蛇の鼻38
所有者株式会社伊東商事
指定登録有形文化財 2件
座標37.51402, 140.37621