昭和5年に建った酒を仕込む蔵
檜物屋酒造店仕込蔵(ひものやしゅぞうてんしこみぐら)は、福島県二本松市松岡にある昭和5年(1930年)建築の土蔵で、令和5年(2023年)8月7日に国の登録有形文化財(建造物)として登録された。
仕込蔵とは、醪(もろみ)を仕込む建物である。蒸した米を冷まし、麹と水とともにタンクへ入れ、発酵させる。その作業を収める建物には条件がいくつもある。東北の冬を通して温度を安定させること、満たされたタンクの重量を支えること、米や道具を階の間で動かす余地を確保すること。
檜物屋酒造店の解は、細長い平面だった。南北に長い棟で、土蔵造2階建、瓦葺。建築面積は176平方メートルにおよぶ。同じ日に登録された街道角の旧店蔵が45平方メートルであるから、およそ4倍の広さになる。
棟の両端で屋根の形が変わるのも特徴で、北を寄棟造、南を切妻造とする。一本の棟の南北で造りを分ける例は多くない。
土蔵に入った洋式トラス
この建物の面白さは、二階の頭上にある。小屋組がキングポスト・トラスなのだ。棟から陸梁(ろくばり)の中央へ真束(しんづか)を垂らし、そこから斜材を左右へ張って三角形に組む構法で、明治期に西洋の技術として日本へ入り、工場、学校、機関車庫などに広がった。
日本の伝統的な小屋組は考え方が異なる。束を立て、その上に短い梁を重ね、荷重を段階的に下へ落としていく和小屋である。合理的だが、途中に柱を立てずに飛ばせる距離には限りがある。トラスは垂木が外へ開こうとする力を三角形の内側で受け止める。結果として、床の中央に何も立たない広い一室が得られる。
昭和5年の酒蔵にとって、これは実利だった。一階は一室の土間。仕込みの重量と湿気を地面が直接受ける。二階は一室の板敷で、頭上をさえぎるものがない。階段は北東の隅に納めてあり、作業面を削らない位置に置かれている。
土壁と瓦という和の要素に、洋式の小屋組が同居している。折衷というより、それぞれが酒造りの現場の問題を解いた結果として同じ屋根の下に並んだ、という印象を受ける。
北妻の三つの窓
登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった。おおむね築50年以上の建造物を国が台帳に登録し、大きな改変には届出を求めつつ、使い続けることを前提とする仕組みである。仕込蔵の登録番号は07-0278、第105回の登録で、基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。
文化庁の解説は、北の妻面を名指しで取り上げている。漆喰の壁に窓が三箇所、間隔をとって並ぶ。この面が、旧奥州街道を歩く者の目に入る。街道は江戸から北へ、城下町二本松を貫いて仙台方面へ延びていた。
造形として見れば北妻は簡素である。広い三角形の壁面、三つの開口、その上に瓦。だが街並みの一部として見ると、均整のとれた構成と落ち着いた量感が効いていて、往時の街道の顔がほとんど失われた通りの一辺を、この面が支えている。
訪ねるときに、そして蔵から出るもの
仕込蔵は私有地に建つ製造施設で、展示施設ではない。建物単独の受付や公開時間はない。同じ敷地の店舗は8時から18時まで営業し、日曜・祝日は休みとなる。
酒蔵見学と試飲は事前相談で受け付けている。地元の観光団体が有料の見学プログラムを案内しており、所要はおよそ30分、定員は10名程度、対象は20歳以上とされる。試飲には身分証明書が必要になる。仕込みの時期であれば作業中の現場を見られるが、その分だけ見学の内容は季節に左右される。
蒸しは今も甑(こしき)で行う。仕込みは4日間に3度に分けて行う三段仕込みで、酵母が十分に増えてから容量を上げていく。発酵は20日から30日。搾りは佐瀬式で、酒袋を積み重ねて槽(ふね)で圧をかける手のかかる方法をとっている。
銘柄は「千功成」。仕込水には安達太良山の湧水を用いる。二本松出身の高村智恵子が「ほんとうの空」を語ったあの山である。JR二本松駅からは徒歩約5分、二本松城跡までは徒歩20分ほど。
Q&A
- 檜物屋酒造店仕込蔵の内部に入ることはできますか。
- 自由見学はできません。現役の製造施設であり、資料館ではないためです。ただし酒蔵見学と試飲は事前相談で受け付けているので、訪問日に何を見学できるかは直接確認するのが確実です。
- 檜物屋酒造店仕込蔵のキングポスト・トラスとは何ですか。
- 陸梁の中央に真束を立て、斜材で三角形に組む洋式の小屋組です。明治期に西洋から導入されました。途中に柱を立てずに広い空間を架け渡せるため、二階に一室の板敷を確保でき、米や道具を扱いやすくなります。
- 檜物屋酒造店仕込蔵の規模はどれくらいですか。
- 土蔵造2階建、瓦葺で、建築面積は約176平方メートルです。同じ敷地の旧店蔵(文庫蔵)が約45平方メートルなので、およそ4倍の床面積になります。
- 檜物屋酒造店仕込蔵へのアクセスを教えてください。
- 所在地は福島県二本松市松岡173で、JR東北本線二本松駅から徒歩約5分です。車で訪れる場合は、店舗に隣接する駐車場を利用できます。
- 檜物屋酒造店仕込蔵はいつ文化財に登録されましたか。
- 令和5年(2023年)8月7日、第105回の登録で国の登録有形文化財(建造物)となりました。登録番号は07-0278、基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」です。
基本情報
| 名称 | 檜物屋酒造店仕込蔵/ひものやしゅぞうてんしこみぐら |
|---|---|
| 所在地 | 〒964-0905 福島県二本松市松岡173 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 07-0278 |
| 指定年 | 令和5年(2023年)8月7日登録 第105回 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 土蔵造2階建、瓦葺、建築面積176平方メートル |
| 所有者 | 文化庁データベースに所有者名の記載なし。敷地は株式会社檜物屋酒造店が使用 |
| 公開状況 | 現役の製造施設のため単独公開なし。店舗営業時間8時から18時、日曜・祝日休。見学・試飲は事前相談 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 檜物屋酒造店仕込蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00014559
- 文化遺産オンライン 檜物屋酒造店仕込蔵
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/551381
- 株式会社檜物屋酒造店 千功成の起源と製造工程
- https://senkonari.com/origin/
- 株式会社檜物屋酒造店 アクセス案内・会社概要
- https://senkonari.com/access/
- ふくしまの旅 檜物屋酒造店
- https://www.tif.ne.jp/jp/entry/article.html?spot=6451
最終更新日: 2026.08.26