旧林療院レントゲン棟:岐阜県最初期のレントゲン施設を今に伝える登録有形文化財

岐阜県郡上市八幡町の城下町に佇む旧林療院レントゲン棟は、大正初期に建設された木造2階建の洋風建築です。国の登録有形文化財として登録されているこの建物は、岐阜県下でレントゲン施設が最も早く設置された例として伝わり、地方都市における近代医療の導入を物語る貴重な遺構です。

現在は郡上八幡樂藝館の一部として一般公開されており、明治37年建設の本館、看護婦棟とともに、明治から大正にかけての民間医院の姿を今に伝えています。郡上八幡の歴史的な町並みの中で、近代医療と建築の融合を体感できる魅力的なスポットです。

林療院の歴史

林療院は、明治時代から平成にかけて郡上八幡で営まれた民間医院です。本館は明治37年(1904年)に建設され、イオニア式オーダーの円柱が立つ玄関ポーチや、石造風に仕上げたモルタルの腰壁など、擬洋風建築の粋を集めた外観が特徴です。和風の軸組に洋風の意匠を巧みに融合させた建築技法は、当時の地方における西洋文化受容のあり方を如実に示しています。

大正初期には、本館背後にレントゲン棟が増築されました。これは岐阜県内で最も早くレントゲン設備が導入された施設と伝えられ、山間部の城下町にありながら最先端の医療技術を取り入れた先進的な医院であったことがうかがえます。また、看護婦棟は江戸時代末期の足軽長屋を移転・改築したもので、建物群全体が異なる時代の建築技術を伝えています。

平成9年(1997年)に当時の八幡町(現・郡上市)が建物の寄付を受け、文化財的価値の高さからこれらの建物の保存活用を計画。大規模な整備・改修を経て、平成12年(2000年)に郡上八幡樂藝館として開館しました。本館・レントゲン棟・看護婦棟の3棟は平成10年(1998年)に国の登録有形文化財に登録されています。

登録有形文化財としての価値

旧林療院レントゲン棟は、平成10年10月9日に「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準により、国の登録有形文化財(建造物)に登録されました(登録番号21-0016)。

文化庁の解説によれば、本建物は「本館棟の背後に建つ小規模な2階建の洋風建物で、1階は土蔵風になるが、全体として本館棟を意識した意匠にまとめる」とされ、本館との建築的な調和が評価されています。さらに「岐阜県下でレントゲン施設が最も早く設置された例と伝え、地方都市で当時最新の医療が施されたことを知ることができる貴重な遺構である」と記されており、建築史的価値と医療史的価値の両面から高く評価されています。

登録有形文化財制度は、近年の開発や生活様式の変化により消滅の危機にさらされている近代建築を幅広く保護するために設けられたものです。旧林療院レントゲン棟は、地方における近代医療の発展を示す建造物として、まさにこの制度の趣旨に合致する貴重な文化財といえます。

建築の特徴と見どころ

レントゲン棟は木造2階建、鉄板葺で、建築面積はわずか22平方メートルという小規模な建物です。しかし、その意匠には医療施設としての機能性と本館との調和が巧みに両立されています。

1階は土蔵風の堅牢な造りとなっており、重量のあるレントゲン機器を支えるための構造的な強度と、当時の知見に基づく放射線への配慮がうかがえます。全体としては本館の洋風意匠を意識した外観にまとめられ、医院としての統一的な景観を形成しています。

現在、レントゲン棟1階は診療所として使用されていた当時の状態で保存・公開されています。実際に使用されていたレントゲン機器や医療器具を間近に見ることができ、大正・昭和期の地方医療の現場を体感できる稀有な空間です。本館1階の診察室も当時の状態で保存されており、受付窓口や診察室の様子がそのまま残されています。

郡上八幡樂藝館について

旧林療院の建物群は、現在「郡上八幡樂藝館」として運営されています。医院時代の保存展示に加え、郡上画廊(芸術作品の展示スペース)、町方文化資料室(市民から寄贈された生活用具の保管・展示)、市民展示室(市民の創作活動や作品の展示の場)が設けられ、地域の文化活動の拠点としても活用されています。

明治の建物内に残る病院の面影と、ギャラリーとして生まれ変わった展示室の対比が、訪れる人に独特の趣を感じさせます。郡上おどり会場の中心地に位置しており、レトロでモダンな建物は写真愛好家にも人気のスポットです。

周辺情報

郡上八幡は「奥美濃の小京都」と称される風情豊かな城下町で、樂藝館周辺には魅力的な観光スポットが数多くあります。すぐ近くの郡上八幡旧庁舎記念館は、昭和11年(1936年)建設の洋風建築で、こちらも国の登録有形文化財です。現在は総合観光案内所として、特産品の販売や飲食、無料休憩所を備えています。

城山の頂に聳える郡上八幡城は昭和8年(1933年)に再建された日本最古の木造再建城で、天守からの眺望は絶景です。秋には紅葉に彩られた山城の姿が格別の美しさを見せます。

水の町として知られる郡上八幡では、やなか水のこみちや宗祇水(日本名水百選の第1号)など、清流と共に暮らす町の風情を楽しめます。毎年7月中旬から9月上旬にかけて開催される郡上おどりは、日本を代表する盆踊りのひとつで、お盆の徹夜おどりには全国から数十万人の踊り手が集まります。

Q&A

Qレントゲン機器の実物を見ることはできますか?
Aはい。レントゲン棟1階は診療所として使用されていた当時の状態で保存・公開されており、大正〜昭和期のレントゲン機器や医療器具を実際にご覧いただけます。本館1階の診察室も当時の姿のまま保存されています。
Q開館時間と入館料はどのくらいですか?
A開館時間は午前10時から午後4時までです。入館料は大人(高校生以上)220円です。休館日は季節により異なり、通年で月曜日(祝日の場合は翌平日)が休館、さらに閑散期には追加の休館日があります。年末年始(12月27日〜1月4日)も休館です。
Qアクセス方法を教えてください。
A長良川鉄道越美南線・郡上八幡駅から徒歩約15〜20分です。お車の場合は、東海北陸自動車道・郡上八幡ICから市街地方面へ約10分です。まめバス「楽藝館前」バス停からはすぐ、高速バス「城下町プラザ」バス停からは徒歩約5分です。
Q見学にはどのくらい時間がかかりますか?
A館内の見学は30分〜1時間程度が目安です。レントゲン棟や診察室の保存展示、画廊や資料室の展示をゆっくりご覧いただけます。建物の外観や周辺の町並み散策も含めると、より充実した時間を過ごせます。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A通年お楽しみいただけますが、7月〜9月の郡上おどりの時期は町全体が活気に満ち、特におすすめです。春の桜や秋の紅葉の季節も城下町の風情と相まって素晴らしい訪問になります。なお、1〜2月は開館日が限られますのでご注意ください。

基本情報

名称 旧林療院レントゲン棟(きゅうはやしりょういんれんとげんとう)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物) 登録番号21-0016
登録年月日 平成10年(1998年)10月9日
登録基準 国土の歴史的景観に寄与しているもの
建設時期 大正初期(1912〜1925年頃)
構造 木造2階建、鉄板葺、建築面積22㎡
種別 文化福祉 / 建築物
現在の施設 郡上八幡樂藝館(ぐじょうはちまんらくげいかん)
所在地 岐阜県郡上市八幡町島谷789-1
所有者 郡上市
開館時間 午前10時〜午後4時
入館料 大人(高校生以上)220円
アクセス 長良川鉄道・郡上八幡駅から徒歩約15〜20分 / 東海北陸自動車道・郡上八幡ICから車で約10分

参考文献

旧林療院レントゲン棟 — 国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000826
旧林療院本館 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180683
郡上八幡樂藝館 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%83%A1%E4%B8%8A%E5%85%AB%E5%B9%A1%E6%A8%82%E8%97%9D%E9%A4%A8
郡上八幡樂藝館 — 郡上市公式サイト
https://www.city.gujo.gifu.jp/admin/detail/8886.html
郡上八幡樂藝館 — TABITABI郡上
https://tabitabigujo.com/spots/hachiman/%E9%83%A1%E4%B8%8A%E5%85%AB%E5%B9%A1%E6%A8%82%E8%97%9D%E9%A4%A8/
登録有形文化財(建造物)— 文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html

最終更新日: 2026.03.22