旧二村家住宅主屋:奥飛騨に息づく江戸時代の格式ある民家建築

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷の福地温泉に佇む旧二村家住宅主屋(きゅうふたむらけじゅうたくしゅおく)は、天保9年(1838年)に建てられた江戸時代後期の木造2階建て民家です。平成17年(2005年)に現在地へ移築され、翌平成18年(2006年)3月27日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。桁行21メートル、梁間14メートル、建築面積301平方メートルという堂々たる規模を持ち、檜材を主体とした良質な造りと式台を備えた格式の高さが特徴です。平湯川に面した静かな温泉地で、飛騨の優れた建築伝統を今に伝える貴重な文化遺産です。

歴史的背景

旧二村家住宅主屋は、天保9年(1838年)に建築されました。天保年間は江戸時代後期にあたり、天保の改革が行われるなど社会が大きく変動した時代です。飛騨地方は古来「飛騨の匠」として知られる優れた木工職人を輩出し、奈良時代から都の寺院や宮殿の建設に携わってきた歴史を持ちます。この住宅にも、飛騨の匠の技術と美意識が随所に息づいています。

平成17年(2005年)、建物は元の所在地から丁寧に解体・運搬され、奥飛騨温泉郷福地の現在地に移築されました。この移築により、歴史的建造物としての構造や風格を損なうことなく、飛騨の伝統的な山里文化を発信する場所として新たな命が吹き込まれました。翌平成18年(2006年)3月27日、国の登録有形文化財(建造物)に登録されています。

文化財としての価値

旧二村家住宅主屋が登録有形文化財に登録された背景には、いくつかの重要な建築的価値があります。まず、建物の主要構造材に檜(ひのき)を使用している点です。檜は日本の建築用材の中でも最高級とされ、その使用は施主である二村家の財力と格式を物語っています。桁行21メートル、梁間14メートルという大規模な構造は、飛騨地方の民家建築の中でも特に立派な部類に属します。

外観の意匠も見事です。2階には木製の出格子(でごうし)を設け、1階には繊細な格子窓を嵌め込んでいます。腰壁は押縁下見板張(おしぶちしたみいたばり)とし、重厚でありながら繊細さも併せ持つ外観を構成しています。切妻造の屋根は現在鉄板葺となっていますが、飛騨民家の伝統的なシルエットを保っています。特に注目すべきは式台(しきだい)を備えていることで、これは武家や庄屋など社会的地位の高い家柄のみに許された格式ある玄関形式であり、二村家が地域の有力者であったことを示しています。

見どころ・魅力

旧二村家住宅主屋の最大の魅力は、江戸時代後期の飛騨における上層民家の暮らしぶりを伝える建築空間そのものにあります。西面して建てられた建物は平湯川に面しており、周囲の山々と川の流れが織りなす景観と一体となった美しい佇まいを見せています。

建物内部は、伝統的な日本の民家に見られる多機能性を反映した広々とした間取りとなっており、居住空間・作業場・接客の間が一つの大きな屋根の下に共存しています。木組みや継手仕口の精緻な加工は、釘を使わずに複雑な構造を組み上げる飛騨の匠の技術の真髄を体現しています。

1階・2階の格子窓は、採光と通風を確保しながらプライバシーを守り、厳しい山間の気候から室内を保護する実用的な役割を果たすとともに、建物に優美な表情を与えています。力強い構造材と繊細な装飾の対比は、飛騨建築の美学を凝縮した見どころです。

福地温泉と周辺情報

旧二村家住宅主屋が位置する福地温泉は、奥飛騨温泉郷を構成する5つの温泉地(平湯・福地・新平湯・栃尾・新穂高)の一つです。標高約1,000メートルの山間にあり、国道から一本脇道に入った静かな環境に約13軒の旅館・民宿が点在しています。平安時代に村上天皇が療養に訪れたという伝説から「天皇泉」とも呼ばれ、囲炉裏を備えた民芸調の宿が多く、山里ならではの素朴な雰囲気が魅力です。

徒歩圏内には「昔ばなしの里」があり、囲炉裏を囲んで五平餅や高山ラーメンを味わえるほか、日帰り温泉「石動(いするぎ)の湯」で源泉かけ流しの湯を楽しむことができます。併設の「福地化石館」(入館無料)では、約4億5千万年前にこの地が海底であったことを示す貴重な化石が展示されています。毎朝開催される「福地温泉朝市」では、地元の新鮮な山菜や野菜、特産品が並び、レトロな看板や昭和のレコードが飾られた懐かしい雰囲気の中でお買い物を楽しめます。

四季折々の魅力

旧二村家住宅主屋の周辺は、四季それぞれに異なる表情を見せます。春には村内の散策路沿いに山桜が咲き誇り、夏は標高1,000メートルならではの涼しい高原の風が心地よく、小川沿いでは蛍の幻想的な光を眺めることができます。伝統行事の獅子舞「へんべとり」が行われる夏祭りも見逃せません。

秋は周囲の山々が紅葉に染まり、旧二村家住宅の落ち着いた木造の外観と鮮やかな紅葉のコントラストが見事です。冬は一面の銀世界となり、福地温泉の冬の風物詩「青だる」が出現します。これは崖面からしみ出した水が氷結して青みを帯びた氷柱の壁となる自然現象で、ライトアップされた幻想的な姿は訪れる人々を魅了します。

奥飛騨エリアの観光

奥飛騨温泉郷周辺には見どころが豊富です。日本唯一の2階建てゴンドラ「新穂高ロープウェイ」で標高2,156メートルの展望台へ上れば、北アルプスの3,000メートル級の山々が連なる大パノラマを一望できます。福地温泉から車で約15分の平湯温泉からは、日本を代表する山岳景勝地・上高地へバスでアクセスできます。また、江戸時代の町並みが美しく保存された飛騨高山の市街地へはバスで約70分。古い町並みの散策や高山祭、高山朝市など、飛騨の歴史と文化を満喫できます。

Q&A

Q旧二村家住宅主屋の内部を見学できますか?
A旧二村家住宅主屋は民間所有の登録有形文化財です。外観は周辺の公共エリアからご覧いただけます。内部見学の可否や特別公開の有無については、奥飛騨温泉郷観光案内所(TEL: 0578-89-2458)へお問い合わせください。
Q高山市街から福地温泉へのアクセス方法は?
AJR高山駅から濃飛バス新穂高温泉行きに乗車し、「福地温泉」バス停で下車(約70分)。ただし、福地温泉を経由しない便もあるため時刻表をご確認ください。お車の場合は、中部縦貫道高山ICから国道158号・471号経由で約60分です。冬季はスタッドレスタイヤまたはチェーンが必須です。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
Aどの季節も魅力がありますが、紅葉と民家建築のコントラストが美しい秋(10月中旬〜11月上旬)、雪景色と「青だる」が楽しめる冬(12月〜3月)が特におすすめです。夏は涼しく避暑にも最適で、春は山桜の散策が楽しめます。
Q登録有形文化財とはどのような制度ですか?
A平成8年(1996年)に導入された制度で、近代化の進展により消滅の危機にある多様な文化財建造物を幅広く保護するためのものです。国宝・重要文化財の指定制度が厳選された文化財に強い規制をかけるのに対し、登録制度は届出制と指導・助言を基本とする緩やかな保護措置により、民間の所有・利用と保存の両立を図っています。
Q福地温泉周辺で日帰り入浴はできますか?
A「昔ばなしの里」内の「石動(いするぎ)の湯」で日帰り入浴が可能です。内湯と露天風呂(冬季は露天風呂閉鎖)があり、入浴料は大人・子ども共通300円です。営業時間は12:00〜16:00、水曜定休(臨時休業あり)。囲炉裏のある休憩処で食事も楽しめます。

基本情報

名称 旧二村家住宅主屋(きゅうふたむらけじゅうたくしゅおく)
文化財区分 登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成18年(2006年)3月27日
建築年 天保9年(1838年)/平成17年(2005年)移築
構造 木造2階建、切妻造、鉄板葺
建築面積 301㎡
規模 桁行約21m、梁間約14m
所在地 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地字アリタ879-1
所有者 有限会社永福
アクセス JR高山駅から濃飛バス新穂高温泉行き「福地温泉」下車(約70分)/中部縦貫道高山ICから車で約60分

参考文献

旧二村家住宅主屋 — 文化遺産オンライン(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/118517
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00008394
登録有形文化財(建造物)— 岐阜県公式ホームページ
https://www.pref.gifu.lg.jp/kyoiku/bunka/bunkazai/17768/index_61057.html
福地温泉観光協会
https://www.fukujionsen.com/
奥飛騨温泉郷観光協会
https://www.okuhida.or.jp/
昔ばなしの里・石動の湯、福地化石館 — 飛騨高山旅ガイド
https://www.hidatakayama.or.jp/spot/detail_1718.html

最終更新日: 2026.03.23