六合入山のネドフミとスゲ細工の技術:温泉と草が紡ぐ山里の知恵

群馬県吾妻郡中之条町の入山地区には、川底から自噴するアルカリ性の温泉水にスゲなどの植物を漬け込み、繊維を柔らかく整える「ネドフミ」と呼ばれる独自の技術が伝えられてきました。こうして処理された素材から、コンコンゾウリやムシロなどの生活用具が手作りされてきたのです。2016年(平成28年)3月2日、この一連の技術は「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択されました。火山の恵みである温泉と、山野に自生するスゲを巧みに活用した、日本の山間地域ならではの暮らしの知恵をご紹介します。

歴史的背景

入山地区は、かつての六合村(くにむら)の一部であり、2010年に中之条町に編入されました。群馬県北西部の山深い地域に位置し、古くから豊かな自然と温泉に恵まれてきました。特に尻焼温泉は、川底から熱い湯が湧き出す全国的にも珍しい温泉として知られています。

この厳しくも恵み豊かな環境の中で、住民たちは独自の植物加工技術を発達させました。毎年秋になると、地区の人々は総出でスゲ刈りを行い、刈り取ったスゲを共有泉のある河原へ運びます。川床を掘り下げ、石で囲って湯溜りを作り、その中にスゲを沈めて10日から2週間ほど漬け込みます。アルカリ性の温泉水が植物繊維を適度に軟らかくし、天日乾燥を経て、冬の間に縄やムシロ、コンコンゾウリなどの生活用具が製作されてきました。

文化財としての価値

六合入山のネドフミとスゲ細工の技術は、2016年3月2日に国の「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に選択されました。その価値は多岐にわたります。

第一に、天然の地熱資源であるアルカリ性温泉水を植物繊維の加工に利用するという、全国的にも極めて稀な技術体系である点です。温泉を入浴や湯治に用いる例は数多くありますが、工芸材料の調整に活用する例はほとんど見られません。第二に、スゲの採取から温泉漬け込み、乾燥、製品製作に至る一連の工程が、山間地域の生活文化を総合的に伝える民俗技術として高く評価されています。第三に、過疎化が進む中で伝承が途絶える危機にあり、記録・保存の緊急性が認められました。

ネドフミの工程とスゲ細工

ネドフミの作業は、まず河原の共有泉で湯溜りを整えることから始まります。川床を掘り下げ、石を積んで囲いを作り、自噴する温泉水を溜めます。そこに束ねたスゲを沈め、重石を載せて10日から2週間ほど漬け込みます。アルカリ性の温泉成分が繊維を適度に分解し、硬いスゲが美しい光沢と柔軟性を持つ素材に変わります。漬け込みが終わったスゲは天日で十分に乾燥させます。

こうして整えられた材料から作られる代表的な製品が「コンコンゾウリ」です。スゲ縄を芯に用い、独特の編み方で仕上げる根広地区のコンコンゾウリは、丈夫で通気性に優れ、最高品質と称されてきました。ムシロ(莚)も主要な製品で、農作業や日常生活に広く使われてきました。現在は「ねどふみの里」を拠点に、厳冬期を除いてこれらの技術が伝承されています。

見学・体験情報:ねどふみの里

この伝統技術を間近で体験できる場所が「ねどふみの里」です。昔造りの民家を改修した伝承施設で、ねどふみの里保存会が活動の拠点としています。

施設では、地元の職人によるスゲ細工の実演を見学できるほか、事前予約をすれば体験教室に参加することもできます。コンコンゾウリの製作体験は1日5,000円、スゲむしろ織りは1時間1,000円です。施設内では、完成品のコンコンゾウリ、ヤマブドウの蔓で編んだ籠、地元産の乾燥舞茸や花豆などの特産品も販売されています。入口では100円コーヒーのサービスもあり、地元の方々との温かい交流を楽しむことができます。

営業時間は午前9時から午後4時まで(厳冬期は休業)。お問い合わせ・予約は電話0279-95-5324(ねどふみの里保存会)まで。

周辺の見どころ

六合(くに)エリアは自然と文化の宝庫です。ネドフミの里と合わせて、ぜひ周辺の見どころもお楽しみください。

  • 尻焼温泉 — 川底から温泉が湧き出す天然の露天風呂。ネドフミに使われるのと同じ温泉水で、野趣あふれる入浴が楽しめます。
  • 赤岩重要伝統的建造物群保存地区 — 江戸・明治時代の養蚕農家が数多く残る歴史的町並み。日本遺産「かかあ天下ーぐんまの絹物語ー」の構成文化財でもあります。
  • チャツボミゴケ公園 — 酸性泉に生育するチャツボミゴケの日本最大級の群生地。国の天然記念物に指定されています。
  • 野反湖 — 標高1,513メートルに位置する高原の湖。高山植物の宝庫で、ハイキングやキャンプに人気です。
  • 世立八滝 — 白砂渓谷に連なる8つの滝。大仙の滝をはじめ、渓谷美を堪能できます。
  • 旧太子駅 — 戦時中の鉄鉱石輸送に使われた旧駅舎を復元した歴史スポットです。

Q&A

Q「ネドフミ」とはどういう意味ですか?
A「ネド」は川底の温泉(根処)を、「フミ」は踏む作業を意味します。スゲなどの植物を温泉水に漬け込み、足で踏んで柔らかくする工程全体を指す言葉です。アルカリ性の温泉成分が繊維を適度に軟化させ、丈夫で光沢のある素材に仕上げます。
Qコンコンゾウリ作りを体験できますか?
Aはい。ねどふみの里では、事前予約制でコンコンゾウリの製作体験を行っています。1日体験で5,000円です。地元の職人が丁寧に指導してくれます。予約は電話0279-95-5324まで。
Q見学に適した季節はいつですか?
A施設は春から秋にかけて(おおむね4月~11月)営業しています。秋はスゲ刈りの季節で伝統の雰囲気を味わえます。春には施設周辺にスイセンが咲き誇り、美しい景観が楽しめます。
Qアクセス方法を教えてください。
A関越自動車道の渋川伊香保ICから国道353号、145号、292号を経由し、六合方面へ車で約2時間です。公共交通機関は限られているため、レンタカーのご利用をおすすめします。草津温泉方面からもアクセス可能です。
Qネドフミと尻焼温泉の関係は?
A尻焼温泉は、ネドフミの工程で使用される温泉そのものです。川底から自噴するアルカリ性の温泉水がスゲの繊維を柔らかくします。同じ温泉水を入浴にも利用できるという、自然の恵みを二重に活かした文化が、この地域の大きな特色です。

基本情報

名称 六合入山のネドフミとスゲ細工の技術
文化財区分 記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
選択年月日 2016年(平成28年)3月2日
所在地 群馬県吾妻郡中之条町入山地区
伝承施設 ねどふみの里(群馬県吾妻郡中之条町大字入山623)
営業時間 午前9時~午後4時(厳冬期休業)
電話番号 0279-95-5324(ねどふみの里保存会)
アクセス 関越自動車道 渋川伊香保ICから国道353号・145号・292号経由で約2時間

参考文献

六合入山のネドフミとスゲ細工の技術 – 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/266962
国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/312/00000937
ねどふみの里 – 六合の里温泉郷組合
https://nakanojo-kanko.jp/kuni/spots/ねどふみの里/
「ねどふみ」からやるこんこん草履づくり – 浅間・吾妻エコツーリズム協会
http://ecotourism.or.jp/monodukuridendoushi/nedohumi.html
ねどふみの里 – トリップアドバイザー
https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g1123095-d2109274
中之条町 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/中之条町
国及び県指定文化財一覧 – 中之条町公式サイト
https://www.town.nakanojo.gunma.jp/soshiki/15/1167.html
重要無形民俗文化財 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/重要無形民俗文化財

最終更新日: 2026.04.07