水道資料館(元宿浄水場旧事務所)― 昭和初期の水道建築が伝える桐生の近代化

群馬県桐生市元宿町の浄水場敷地内に佇む水道資料館は、昭和7年(1932年)に元宿浄水場の事務所として建設されました。鉄筋コンクリート造平屋建、建築面積122平方メートルのこの建物は、平成9年(1997年)11月5日に国の登録有形文化財に登録され、現在は桐生市の水道の歴史を伝える資料館として活用されています。

桐生市の上水道事業は、大正11年(1922年)に調査が開始されましたが、関東大震災の影響で一時延期となりました。昭和2年(1927年)に調査が再開され、渡良瀬川左岸一帯の豊富で良質な地下水を水源として選定。昭和5年(1930年)9月に着工し、昭和7年4月に通水式が行われました。旧事務所は浄水場敷地の東北隅に建てられ、現在も水道関連施設12件の登録有形文化財の一つとして大切に保存されています。

登録有形文化財としての価値

水道資料館が登録有形文化財に指定された理由は、その建築的・歴史的価値にあります。外壁には当時流行していたスクラッチタイルが張られ、縦長の窓や柱形を用いて垂直線を強調したモダンな意匠が特徴です。1920年代から1930年代にかけての近代建築の潮流を反映した、洗練されたデザインとなっています。

建物のもう一つの特徴は、出入り口部や各部屋ごとに天井の高さを変えている点です。さらに、1室にのみ色瓦葺きの切妻屋根を設けることで、外観デザインに変化を持たせています。平屋建てでありながら、これらの工夫により視覚的な豊かさを実現した設計は、昭和初期の公共建築の巧みさを物語っています。

加えて、この建物は単独の文化財ではなく、元宿浄水場のポンプ室・急速濾過場・調整池・接合井、そして水道山の旧配水事務所・配水池・量水室などと合わせて12件の登録有形文化財群を構成しています。創設当初の建造物や水道システムが現在も稼働し続けているという点で、日本国内でも極めて貴重な近代化遺産です。

見どころと魅力

水道資料館を訪れると、まず目に入るのがスクラッチタイル張りの温かみのある外壁です。スクラッチタイルとは、表面に櫛で引っ掻いたような筋模様をつけたタイルで、大正末期から昭和初期にかけて日本の近代建築で広く使用されました。桐生市では、同じ時期に建てられた桐生織物会館旧館(桐生織物記念館)にも同様のタイルが使われており、当時の建築潮流を体感することができます。

建物の外観で最も印象的なのは、縦長の窓と柱形によって強調された垂直のラインです。コンパクトな平屋建てでありながら、上方へ視線を誘導するデザインにより、堂々とした品格を感じさせます。1室だけに設けられた色瓦葺きの切妻屋根も、全体のシルエットにアクセントを加えています。

館内では、桐生市の水道に関する各種資料が展示されています。創設当時の写真や文書、配管や弁などの実物資料を通じて、昭和7年の通水開始から現在に至るまでの水道の歩みを学ぶことができます。部屋ごとに異なる天井の高さが、展示空間を巡る際に心地よいリズムを生み出しているのも魅力です。

元宿浄水場と水道施設群

水道資料館は、元宿浄水場に残る登録有形文化財群の一部です。同じ敷地内には、喞筒(ポンプ)室、急速濾過場、調整池、接合井があり、いずれも昭和7年の竣工当時の姿をよく保っています。急速濾過場は中央部を強調した左右対称の特異な外観を持ち、接合井は内径3.5メートル、深さ11.1メートルの大規模な井戸で、石造風の丁寧な仕上げが施されています。

浄水場から離れた水道山の中腹には、旧配水事務所(現・水道山記念館)や高区・低区の配水池、量水室などが残っています。渡良瀬川左岸の地下水を取水し、浄水場で濾過した後、ポンプで山腹の配水池に送水し、自然流下で市内に配水するという創設当初のシステムが、90年以上経った今も稼働を続けている点は驚くべきことです。

織都・桐生の近代建築を巡る

桐生市は「西の西陣、東の桐生」と称される日本有数の織物産地であり、明治期以降の近代化に伴って数多くの産業建築や公共建築が建設されました。水道資料館に見られるスクラッチタイルの意匠は、昭和初期の桐生で広く取り入れられたスタイルです。昭和9年(1934年)に完成した桐生織物会館旧館(桐生織物記念館)も同様のスクラッチタイル張りの外壁を持ち、登録有形文化財に指定されています。

桐生市内には、織物工場の鋸屋根建築、商家の蔵、洋風住宅など、多様な近代建築が集積しています。桐生新町重要伝統的建造物群保存地区では、江戸時代から続く町並みの中に近代の建築が融合した独特の景観を楽しむことができます。水道資料館を起点に、桐生の近代建築を巡る散策は、日本の近代化の歴史を肌で感じる贅沢な体験となるでしょう。

周辺情報

水道資料館の周辺には、見どころが数多くあります。水道山記念館(旧配水事務所)は同様の建築様式を持つ登録有形文化財で、一般公開されています。桐生織物記念館(永楽町)では、桐生織の歴史を学べる展示や手織り体験、シルク製品の購入が楽しめます。大川美術館では、松本竣介やピカソなどの近現代洋画コレクションを鑑賞できます。春には吾妻公園のチューリップまつり、秋には宝徳寺の「床もみじ」など、季節の見どころも豊富です。

Q&A

Q水道資料館の入館料はかかりますか?
A水道資料館は元宿浄水場の敷地内にある現役の市営施設です。見学については、桐生市水道局(電話:0277-44-3363)に事前にお問い合わせの上、最新の見学条件をご確認ください。
Q最寄り駅からのアクセスを教えてください。
AJR両毛線の桐生駅から徒歩約10分、上毛電気鉄道の丸山下駅から徒歩約8分です。いずれの駅からも歩いてアクセスできる便利な立地です。
Q同じ敷地内で他の登録有形文化財も見られますか?
Aはい。元宿浄水場の敷地内には、喞筒(ポンプ)室、急速濾過場、接合井、調整池など、複数の登録有形文化財があります。また、近隣の水道山にも旧配水事務所や配水池などの文化財が点在しています。
Qおすすめの訪問時期はありますか?
A年間を通じて訪問可能ですが、春や秋は周辺の散策に最適です。春には近くの吾妻公園でチューリップまつりが開催され、秋には宝徳寺の「床もみじ」が見頃を迎えます。
Q駐車場はありますか?
A浄水場敷地内の駐車場利用については、事前に桐生市水道局にお問い合わせください。周辺にはJR桐生駅付近にコインパーキングもあります。

基本情報

名称 水道資料館(元宿浄水場旧事務所)
指定区分 国登録有形文化財(建造物)
登録年月日 平成9年(1997年)11月5日
竣工 昭和7年(1932年)
構造 鉄筋コンクリート造平屋建
建築面積 122平方メートル
所在地 〒376-0027 群馬県桐生市元宿町14番37号
所有者 桐生市
アクセス JR両毛線 桐生駅より徒歩約10分/上毛電気鉄道 丸山下駅より徒歩約8分
お問い合わせ 桐生市水道局:0277-44-3363 / 文化財保護課:0277-46-6467

参考文献

水道資料館(元宿浄水場旧事務所) — 桐生市ホームページ
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1002020.html
水道資料館(元宿浄水場旧事務所) — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137601
元宿浄水場 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%83%E5%AE%BF%E6%B5%84%E6%B0%B4%E5%A0%B4
国指定文化財等データベース — 文化庁
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00000339
桐生織物会館旧館 — 桐生市ホームページ
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1001995.html

最終更新日: 2026.03.24