太刀〈銘友成作〉― 厳島神社に伝わる国宝の古備前刀剣

広島県廿日市市の宮島に鎮座する厳島神社は、平安時代末期以来、数多くの貴重な美術工芸品が奉納されてきた日本有数の聖地です。その豊かな宝物群のなかでも、とりわけ日本刀愛好家や歴史ファンの注目を集めるのが、国宝「太刀〈銘友成作〉」です。この太刀は、日本刀の黎明期にあたる平安時代中期に活躍した古備前派の名工・友成の手による一振りであり、約千年の時を超えて今なおその気品と美しさを保ち続けています。

刀工・友成と古備前派の伝統

友成は、山城国の三条小鍛冶宗近、伯耆国の安綱と並んで「日本最古の三名匠」の一人に数えられる刀工です。備前国(現在の岡山県南東部)において刀鍛冶の祖とされ、後に隆盛を極める長船派の源流ともいわれています。初代友成の作刀時期は永延年間(987〜989年)頃と伝えられますが、現存する最古の友成銘の作例は康治年間(1142〜1144年)および仁平年間(1151〜1153年)のものです。

「友成」の銘を切る刀工は、平安時代中期から鎌倉時代初期にかけて少なくとも三代が存在したとされ、それぞれの作風にはわずかな違いが見られます。本太刀には年紀銘がないため、どの代の作であるかを断定することは難しいものの、地刃ともに健全で出来栄えが非常に優れていることから、最も技量の高い時代の友成の作品と考えられています。

太刀の特徴と芸術的価値

本太刀の刃長は約79.4cm、反りは約3.0cmです。鎬造り・庵棟で、磨り上げ(後世に茎を短くする加工)が施されているものの、姿のよい太刀の形を保っています。

鍛えは小板目肌で、地沸が微塵に付き、乱映りが立つのが特徴です。刃文は中直刃に小乱れ・小丁子が交じり、足がよく入っています。腰反りが高く踏張りのある堂々たる太刀姿は、平安時代の騎馬武者の威風を彷彿とさせます。

文化庁の文化遺産オンラインでは、本作について「技量、品格ともに秀で」「高い品格を保つとともに保存状態も良好であり、貴重である」と評されています。友成の作品のなかでも、とりわけ上々の作行を示す一振りです。

国宝指定の理由

この太刀が国宝として高く評価される理由は、いくつかの重要な点に集約されます。

  • 日本刀史上もっとも重要な刀工の系譜の一つである古備前派を代表する名品であり、後の備前刀の発展に多大な影響を与えた伝統の精華といえること。
  • 約千年の歳月を経てなお、地鉄と刃文が健全に保たれている稀有な保存状態を有すること。
  • 技術的な完成度と美的な品格の高さが際立ち、古備前作品のなかでも最上級の評価を受けていること。
  • 日本を代表する神社への奉納品として、深い歴史的・文化的背景を持つこと。

本太刀は大正3年(1914年)4月17日に重要文化財に指定され、昭和27年(1952年)11月22日に国宝に指定されました。

平家一門と厳島神社の深い絆

この太刀が厳島神社に伝わる経緯は、日本史上もっとも劇的な物語の一つである平家の興亡と深く結びついています。伝承によれば、本太刀はその武勇で知られた平教経の佩刀であり、厳島神社に奉納されたとされます。一方、平宗盛が奉納したとする説もあり、いずれにせよ平家一門から厳島神社への至宝の献上であったことは間違いありません。

厳島神社と平家の関係は特別なものでした。平清盛は仁安3年(1168年)頃に現在の壮大な社殿を造営し、一族の氏神として篤く崇敬しました。国宝「平家納経」をはじめとする数々の至宝が平家一門から奉納されており、太刀〈銘友成作〉もそうした奉納品の一つとして、平安時代末期の華やかな文化の一端を今に伝えています。

鑑賞のポイント

日本刀の鑑賞では、まず全体の姿(すがた)に注目しましょう。本太刀は腰元で深く反る「腰反り」が特徴で、先に向かって細くなる「踏張り」のある堂々とした太刀姿を見せています。これは平安時代の太刀に典型的な形であり、騎馬武者が腰に佩いて戦場に臨んだ時代の力強さを感じることができます。

次に、刀身の表面に現れる地鉄の肌模様と、刃縁に沿って走る刃文の美しさに注目してください。友成の作品は正恒の明るい地鉄とは対照的に、やや黒味を帯びた深みのある地鉄が持ち味です。直刃調に小乱れが交じる控えめな刃文は、華やかさよりも気品と格調の高さを感じさせます。

なお、厳島神社宝物館の館内は撮影禁止となっていますので、じっくりと肉眼で鑑賞する時間を大切にしてください。

宮島の周辺情報

太刀〈銘友成作〉の鑑賞を目的に宮島を訪れるなら、島全体の魅力もあわせて楽しみましょう。

厳島神社は1996年にユネスコ世界文化遺産に登録された壮大な社殿群で、満潮時には朱塗りの社殿が海上に浮かぶ幻想的な光景を見ることができます。干潮時には大鳥居の足元まで歩いて行くことも可能です。総延長約270mの回廊で結ばれた社殿群の建築美は、世界に類を見ない独創的なものです。

社殿周辺には、豊臣秀吉が天正15年(1587年)に建立を命じた千畳閣(豊国神社)や、重要文化財の五重塔、多宝塔なども点在しています。弥山(標高535m)への登山やロープウェイからは、瀬戸内海の絶景を一望できます。

表参道商店街では、宮島名物のもみじ饅頭や焼き牡蠣、あなご飯などのグルメも堪能でき、文化体験と食の楽しみを同時に味わうことができます。

厳島神社のその他の国宝

厳島神社には太刀〈銘友成作〉のほかにも、数多くの国宝が収蔵されています。平家納経(装飾経の最高傑作)、梨子地桐文螺鈿腰刀(友成作の銘を持つもう一振りの国宝刀剣)、金銅密教法具、彩絵桧扇、紺紙金字法華経、そして社殿建築群(本殿・拝殿・回廊など6棟)があります。約260点に及ぶ国宝・重要文化財の数は、一つの神社としては日本でも屈指の規模であり、平安時代の宮廷文化と信仰の深さを物語っています。

Q&A

Q国宝の太刀〈銘友成作〉は常時展示されていますか?
A厳島神社宝物館では所蔵品の一部を入れ替えながら展示しています。国宝の実物は特別展などで公開されることがありますが、通常はレプリカが展示される場合もあります。特定の作品をご覧になりたい場合は、事前に神社へお問い合わせいただくことをおすすめします。
Q広島市内から厳島神社へのアクセスは?
AJR広島駅からJR山陽本線で宮島口駅まで約27分。宮島口桟橋からフェリー(JR西日本宮島フェリーまたは宮島松大汽船)で約10分で宮島桟橋に到着します。宮島桟橋から厳島神社までは徒歩約15分です。
Q厳島神社と宝物館の拝観料はいくらですか?
A厳島神社の昇殿料は大人500円、高校生300円、小中学生100円です。宝物館は大人300円、高校生200円、小中学生100円です。神社入口で共通券を購入するとお得です。
Q海外からの観光客でも楽しめますか?
A厳島神社の境内には英語の案内板が一部設置されており、多言語パンフレットも用意されています。宝物館の英語説明は限定的ですが、日本刀の造形美は言葉を超えて鑑賞できるものです。事前に基本的な知識を調べてから訪問されると、より深い感動が得られるでしょう。
Qおすすめの訪問時期はいつですか?
A宮島は四季を通じて美しい島です。桜の時期(3月下旬〜4月中旬)や紅葉の時期(11月中旬〜12月上旬)は特に人気があります。夏には海上で行われる管絃祭が見どころです。冬は観光客が少なく、静かな環境で宝物館の展示をじっくり鑑賞できるメリットがあります。

基本情報

名称 太刀〈銘友成作〉
指定区分 国宝(工芸品・刀剣)
時代 平安時代(平安中期〜鎌倉時代初期と推定)
流派 古備前派(備前国、現・岡山県)
刃長 約79.4cm
反り 約3.0cm
造り 鎬造り・庵棟
伝来 平教経(または平宗盛)奉納と伝わる
重要文化財指定 大正3年(1914年)4月17日
国宝指定 昭和27年(1952年)11月22日
所有・所在 厳島神社(広島県廿日市市宮島町)
宝物館開館時間 8:00〜17:00
宝物館拝観料 大人300円/高校生200円/小中学生100円
アクセス JR宮島口駅→フェリー(約10分)→宮島桟橋→徒歩約15分

参考文献

太刀 銘友成作 — 文化遺産オンライン
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/217050
太刀 銘 友成作 — 刀剣ワールド
https://www.touken-world.jp/search-noted-sword/unselected/55429/
友成(ともなり) — 刀剣ワールド
https://www.touken-world.jp/sword-artisan-directory/tomonari/
嚴島神社【公式サイト】— 拝観施設及び料金
https://www.itsukushimajinja.jp/jp/admission.html
厳島神社 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%B3%E5%B3%B6%E7%A5%9E%E7%A4%BE
嚴島神社宝物館 — ダイブ!広島県
https://dive-hiroshima.com/explore/1925/
厳島神社 — 名刀幻想辞典
https://meitou.info/index.php/%E5%8E%B3%E5%B3%B6%E7%A5%9E%E7%A4%BE

最終更新日: 2026.03.21