雪の季節に馬を走らせるための煉瓦の建物
あさでん春光整備工場(旧陸軍第七師団騎兵第七連隊覆馬場)は、北海道旭川市春光3条7丁目にある煉瓦造平屋建の大空間建築で、文化庁は年代を明治末期とし、平成13年(2001年)11月20日に国の登録有形文化財に登録された。
覆馬場は「おおいばば」と読み、屋根を架けた馬場を指す。本州であれば便利な設備という程度のものだろう。旭川では事情が違う。四方を丘陵に囲まれた内陸の盆地にあるこの街の冬は、国内でも屈指の寒さと積雪をみる。その条件下で数か月にわたり屋外の騎乗訓練を止めれば、馬も乗り手も鈍る。北の守りを騎兵に託した軍にとって、それは許容できることではなかった。
第七師団は明治29年に札幌で編成された。明治32年に鷹栖村字近文への移転が決まると、諸営舎や官衙がこの地方では例のない規模で建設される。覆馬場もそのひとつで、冬季の乗馬訓練等のため、明治末期から大正初期にかけて各連隊・大隊に設けられたとされる。旭川市の記録は本建物を騎兵第七連隊のものとし、建築を大正1年から2年と推定する。文化庁のデータベースが記す年代は明治末期。両者は同じ建設期を別の言い方で示していると見てよいが、資料により表記が異なる点は押さえておきたい。
そして、これが最後の一棟である。第七師団の覆馬場で現存するものは、ほかにない。
この建物がどう成り立っているか
適用された登録基準は「再現することが容易でないもの」。構造を追えば理由がわかる。煉瓦造の平屋建、切妻造、鉄板葺、建築面積1,174平方メートル。内部は1,000平方メートルを超える一室で、何も立っていない。屋根の下で馬を走らせる以上、柱は一本も邪魔になる。
この幅を渡しているのが鉄製のフィンクトラスである。フィンクトラスは束材をV字の反復で構成し、斜材を引張材として働かせることで、長いスパンのわりに鉄の量を抑えられる。当時の大空間の定石だった。そのトラスが載るのは、控え壁付きの煉瓦柱。控え壁は屋根の押し広げる力を受け止めると同時に、壁全体を厚くすることなく旭川の積雪荷重を負担させる役割も果たしている。
もうひとつの課題は、光と空気だった。馬場は使えば床から砂ぼこりが舞い上がる。煉瓦の箱に馬を入れれば換気は避けて通れない。その解答が、棟に沿って走る越屋根である。屋根の上にもう一段の屋根を起こして開口を確保し、屋根面には屋根窓を配した。結果として、この年代の建物としてはきわめて開口部の多い外皮になっている。どれも装飾ではなく、必要があって開いている。
煉瓦が選ばれたのは、強度と同じくらい保温のためでもあった。目地を詰めて積めば隙間風を防げる。木造の小屋では、2月の旭川で用をなさなかっただろう。登録は第31回、登録番号01-0045、告示は同年12月4日である。
見学について、現実的なところ
ここは稼働中のバス整備工場であって、博物館ではない。旭川電気軌道株式会社、地元でいう「あさでん」が車両整備に使っており、一般公開は原則として行われていない。内部に入ることを前提に予定を組まないでほしい。できるのは公道からの観察である。長い煉瓦の側面、控え壁の列、棟の上に起きた越屋根は、道路側からでも十分に読み取れる。車庫の脇には騎兵第七連隊の跡を示す石碑が立つ。市の史跡等表示板も設置されているが、板面の文字が消えているため対応を準備中だと市は告知している。
位置はおおむね北緯43.803度、東経142.371度、市街北部にあたる。路上からの撮影は許可の要る話ではないが、車庫の敷地は私有地で、作業中の人がいる。敷地には立ち入らないこと。
第七師団そのものに関心があるなら、時間を割く価値があるのは北鎮記念館のほうだ。北海道護国神社の向かい、陸上自衛隊旭川駐屯地の南端に建ち、屯田兵と第七師団に関する資料約2,500点を収蔵・展示する。入館は無料。駐屯地の門を通らず公道から直接入館できる。開館時間は4月から10月が午前9時から午後5時、11月から3月が午前9時30分から午後4時まで、月曜休館。JR旭川駅からバスで「護国神社前」下車、徒歩約5分である。
旭川では平成13年11月20日に複数の建物がまとめて登録された。駅前の上川倉庫群7棟もその一群で、うち数棟は多目的ホールや市民ギャラリーとして使われている。覆馬場とあわせて回れば、軍都が何を建て、その後の街がそれをどう使い直したかが一続きに見えてくる。
Q&A
- あさでん春光整備工場(旧陸軍第七師団騎兵第七連隊覆馬場)の内部は見学できますか。
- できません。旭川電気軌道株式会社がバスの整備工場として使用しており、一般公開は原則として行われていません。外観は旭川市春光3条7丁目の公道から見ることができ、脇には騎兵第七連隊の跡を示す石碑が立っています。
- 覆馬場とは何ですか。旭川の第七師団になぜ必要だったのですか。
- 覆馬場(おおいばば)は屋根の付いた馬場のことです。旭川は内陸の盆地で冬の寒さと積雪が国内屈指のため、数か月にわたり屋外での軍馬の訓練ができませんでした。煉瓦造とすることで隙間風を防いでいます。
- あさでん春光整備工場(旧覆馬場)はいつ建てられたのですか。
- 文化庁のデータベースは年代を明治末期としています。旭川市は本建物を騎兵第七連隊に属するものとし、大正1年から大正2年の建築と推定しています。いずれも第七師団の旭川移転後に続いた営舎建設期を指しています。
- 旧陸軍第七師団騎兵第七連隊覆馬場の建築的な見どころはどこですか。
- 鉄製フィンクトラスを控え壁付きの煉瓦柱で受け、1,000平方メートルを超える無柱の大空間をつくっている点です。換気と採光のため越屋根と屋根窓を多用しています。登録基準は「再現することが容易でないもの」が適用されました。
- あさでん春光整備工場の近くで第七師団について学べる場所はありますか。
- 北鎮記念館があります。屯田兵と第七師団に関する資料約2,500点を展示し、入館は無料です。開館時間は4月から10月が午前9時から午後5時、11月から3月が午前9時30分から午後4時まで、月曜休館。JR旭川駅からバス「護国神社前」下車、徒歩約5分です。
基本情報
| 名称 | あさでん春光整備工場(旧陸軍第七師団騎兵第七連隊覆馬場) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道旭川市春光3条7丁目231 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 01-0045 登録回 第31回 |
| 指定年 | 平成13年(2001年)11月20日登録、同年12月4日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 煉瓦造平屋建、鉄板葺、建築面積1,174平方メートル |
| 所有者 | 旭川電気軌道株式会社 |
| 公開状況 | 一般公開なし(バス整備工場として使用中)。外観は公道から見学可 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース — あさでん春光整備工場(旧陸軍第七師団騎兵第七連隊覆馬場)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002498
- 文化遺産オンライン — あさでん春光整備工場(旧陸軍第七師団騎兵第七連隊覆馬場)
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/138268
- 旭川市 — 旭川市内の指定・登録文化財
- https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/kurashi/329/348/353/p000162.html
- 旭川市 — 史跡等表示板 旧第七師団覆馬場
- https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/kurashi/329/348/353/p000216.html
- 陸上自衛隊第2師団 北鎮記念館 — 公式サイト
- https://www.mod.go.jp/gsdf/nae/2d/hokutin2/top.html
最終更新日: 2026.08.27