朝光寺鐘楼 ― 袴腰と箱棟をもつ、類例の少ない鐘楼建築

兵庫県加東市の山あいに建つ朝光寺。その国宝本堂のかたわらに、桁行一間・梁間一間の小さな鐘楼が建っている。文化庁の国指定文化財等データベースは、この建物を鎌倉後期(1275年から1332年ごろ)のものとし、昭和29年(1954年)9月17日に重要文化財に指定した。下部に袴腰をつけ、寄棟造の屋根を載せた一棟である。

規模は大きくない。数歩先に建つ国宝の本堂と比べれば、ごく控えめな建物に見える。それでも国の重要文化財に挙げられた理由は、全国でも数えるほどしか見られない形式の組み合わせにある。

朝光寺という寺

朝光寺は鹿野山と号し、高野山真言宗に属する。寺伝では、白雉2年(651年)に法道仙人が開いたと伝えられる。法道仙人を開基とする寺院は兵庫県東部に多く、当寺もその一つである。創建期の事情を裏づける史料は乏しく、中世以前の歩みははっきりしない。

現在の境内地は、文治5年(1189年)につくばねの滝のほとりへ移って整えられたものとされる。境内の中心をなす本堂は応永20年(1413年)から正長元年(1428年)にかけて建てられた室町時代初期の建築で、鐘楼と同じ昭和29年に国宝に指定された。本尊の十一面千手千眼観世音菩薩立像は二躯あり、約60年に一度しか開扉されない秘仏である。近年では令和5年(2023年)に開扉された。

指定の理由

この鐘楼は、袴腰付の鐘楼と呼ばれる形式をとる。上層は梵鐘を吊り四方に開き、下層は外へ広がる板張りの裾、すなわち袴腰をまとう。屋根は寄棟造で、その頂に箱棟をのせる。

注目すべきはこの組み合わせである。箱棟をのせた寄棟造の屋根に袴腰という形は、全国的にも類例が少ない。これが指定の主たる根拠とされた。細部は和様を基調としつつ他の要素も交えており、一つの様式に純粋には収まらない折衷様式と評される。

鎌倉末期の形態をよく留める点も挙げられる。屋根の緩やかな曲線、幅に比して背の高い斗、そして上層の縁が板ではなく簀子張りであること。いずれも後世の手とは異なる古い特徴である。一方、加東市の説明は別の伝えを記す。現在の建物は永正年間(1504年から1521年)に赤松義村によって再建されたもので、昭和30年(1955年)に解体修理が行われたという。国の指定は様式に基づく古い年代観に立つため、鎌倉後期という年代と、16世紀初頭の再建という伝えとが、記録のうえで並び立っている。

見どころ

下から仰ぐと、釣り合いがよく読み取れる。地面に向けて広がる袴腰の裾に対し、上の鐘の室はあくまで小ぶりで、屋根の稜線が寄棟の隅へ向かって下りていく流れに目がいく。軒下の組物を見上げ、斗の高さと幅とを見比べてほしい。やや縦長の輪郭が、後世のずんぐりした鐘楼とこの建物とを分ける手がかりになる。

屋根は現在、銅板を栩葺風に葺いている。もとはとち葺、すなわち厚い木の板を重ねた屋根であった。材は変わったが、層を重ねた古い屋根の表情は残されている。上層の縁にまわれば、調査者が古式と記した簀子張りの床も見える。

鐘楼は本堂の右手に建つ。境内は静かで人影もまばらなので、ゆっくり建物を一周し、各面を眺める余裕がある。彫刻一つの華やぎではなく、その造形の釣り合いに惹かれる建物だけに、これが何よりの味わい方になる。

境内とまわりの見どころ

境内全体を見渡す価値がある。方七間の堂々たる国宝本堂が瓦葺の寄棟屋根の下に構え、視覚の中心をなす。すぐ近くには県指定文化財の多宝塔も建つ。境内の南には、つくばねの滝が二筋の水流となって岩を打ち、落差およそ10メートルを落ちる。駐車場から上がる道のついでに立ち寄れる距離である。

毎年5月5日には鬼追踊が奉納される。兵庫県指定の重要無形民俗文化財で、翁1人と鬼方4人が単調な鐘の拍子にのって大きく跳び、採物を振る所作を繰り返す。五穀豊穣と無病息災を祈る行事で、その起源は室町期にさかのぼると考えられているが、由来そのものは明らかでない。

寺は吉祥院と総持院という二つの塔頭が護持しており、御朱印は吉祥院で授与される。朝光寺のある加東市一帯は酒米「山田錦」の産地として知られ、参道へ続く道は良質な田園のなかを通っていく。

Q&A

Q鐘楼は、有名な本堂と同じものですか。
A別の建物です。本堂は1400年代前半の国宝、鐘楼はそれとは別の小さな建物で、重要文化財に指定されています。両者は同じ境内に数歩の距離で建っています。
Q鐘楼はどのくらい古いのですか。
A国のデータベースは、様式から鎌倉後期(1275年から1332年ごろ)と年代づけています。一方、現在の建物は16世紀初頭に再建されたとの地元の伝えもあり、年代についての説は分かれています。
Qよく出てくる「袴腰」とは何ですか。
A地面に向かって広がる板張りの下層部分のことで、ひだの広い袴に似た形からこう呼ばれます。この鐘楼では寄棟屋根と箱棟に組み合わさり、全国でも類例の少ない姿になっています。
Q中に入ったり鐘をついたりできますか。
A境内から見学できますが、保護された建造物であり、立ち入りや使用のための施設ではありません。歴史的建造物として、外からの見学にとどめてください。
Q訪れるのによい時期はいつですか。
A境内は一年を通して穏やかで、たいてい静かです。鬼追踊を見るなら5月5日、新緑とつくばねの滝の水音を楽しむなら晩春から初夏が向いています。

基本情報

名称朝光寺鐘楼(ちょうこうじしょうろう)
所在地兵庫県加東市畑609
指定区分重要文化財(建造物) 昭和29年(1954年)9月17日指定 建第1307号
時代鎌倉後期(1275年〜1332年/国指定文化財等データベース)。加東市の説明では永正年間(1504年〜1521年)の再建とも伝える
員数1棟
構造形式桁行一間、梁間一間、袴腰付、寄棟造、とち葺形銅板葺
所有者朝光寺
アクセスJR加古川線・社町駅からバス約20分「朝光寺口」下車、徒歩約1時間。中国自動車道ひょうご東条インターチェンジから車で約20分
公開状況公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「朝光寺鐘楼」
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/2401
文化遺産オンライン「朝光寺鐘楼」
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/146098
加東市教育委員会「朝光寺鐘楼」
https://www.city.kato.lg.jp/kakukanogoannai/kyouikushinkoubu/shogaigakushuka/bunkazai/siteibunkazai/kunisiteibunkazai/1509775479030.html
加東市観光協会「国宝 朝光寺」
https://www.kato-kanko.jp/2017/03/choukouji/

最終更新日: 2026.05.29